第129話 初の海外遠征
打ち合わせも終わり、フィットチーネさんが待っている外国の商人の到着を待ってからの出発になるので、待ってほしいとも言われた。
俺はフィットチーネさんの言われるままに店で待つことにした。
まあ、病院の改装も内装に入ったこともあり、色々と注文を出せることだし、ちょうどよかったのかもしれない。
店で扱う酒についてもだいぶ余裕をもって仕入れてあるので、たぶん大丈夫だろう。
しかし、そろそろ考えないとまずいかもしれない。
俺も酒の輸入販売だけではなく、手広く商売を始めたためにそろそろ王都への仕入れが負担になってきている。
確かに安定して収入を得られるので、今更この商売から手を引くわけにはいかないが、それでももう少し検討の余地はありそうだ。
具体的には俺が仕入れなくとも大丈夫なように、仕組みを考える必要がある。
多分だが、ダーナが仕入れに専念すれば問題はほとんど解決しそうだ。
彼女ならば一人で仕入れてもらっても、彼女自身が十分に強くなっているので、また、何よりアイテムボックスのスキル持ちだ。
しかし、問題は無いだろうが、それだとダーナが仲間外れのようになるのでダーナが嫌がりそう。
よってこの案は無い。
だとすると、王都の護衛として仲間に入れた元騎士爵の三人を使うことくらいか。
彼女だけでも問題は無いが、酒を運ぶ手段が無い。
アイテムバックのようなチートアイテムもあるらしいが、そうそう手に入らないようだし、たとえ王都のオークションに出品があっても俺に買えるような金額ではないらしいから、そんな都合の良いことはあきらめるしかない。
無難というか、現実的な案として、そろそろ独自で馬車便でも考える必要がありそうだ。
そんなことを考えながらも、毎日病院まで通い、内装についての指示を出したり、ベッドなどの必要品などを買い求めたりしながら時間を使った。
苦手と言っていた内装工事についても、ガーナは数をこなすことでだいぶ慣れてきたようだ。
驚いたことに、彼女以上に腕を上げているのが彼女の弟子扱いの子供たちだった。
ジンク村から連れてきた子供たちで、女の子の三人は今では三人ともにいっぱしの職人さんだ。
それに、やたらと風呂工事ばかりをさせていた関係で、サツキも鍛冶仕事の他に水回りなど配管を使った周りの工事までもするようになっていた。
病院でも風呂の他にトイレ周りの工事をしていたのを見た時には驚いた。
みんなそれぞれに成長している。
そんな割と平和な時間を一週間ばかり過ごしているとフィットチーネさんから呼び出しがあった。
件の商人が着いたらしい。
俺は店の皆に、カッパー商業連合に向かうことを伝えてからいつものように二人を連れてフィットチーネさんの店に向かった。
フィットチーネさんの店には件の商人さんがすでに来ていた。
俺の到着を待ってすぐに港まで連れていかれ、そのまま出発となった。
さすがに慌ただしくないですかね。
まあ、俺にはアイテムボックスさんという強い味方がいるので、旅の準備など必要はないのだが、それにしてもね~。
船に乗るまでは俺はそのように考えていたのだが、船には必要なものはすべてそろえられており、旅の準備など必要はなかった。
それこそ上げ膳据え膳状態だったのだが、俺はそれを満喫できなかった。
船旅は二日で終わるのだが、その間に俺のために用意してもらっていた部屋の中で引きこもり『げ~~げ~~』していた。
俺はこの時代の船というのを舐めていた。
馬車の揺れでも相当苦労していたのを今思い出している。
『なんでこんなに揺れるんだよ』
社畜時代にも船には乗ったことがある。
出張からの帰りに、飛行機が取れなかったことを良しとしてカーフェリーで時間をかけて帰宅したことがあったのだ。
会社からはぶつぶつと文句を言われたのだが、それしか選択肢が無いという説明で、上司に歩いてでも帰れとまで言われたのだが許可をもらったのだ。
俺でも海の上は歩けないし、よしんば歩けたとしてもカーフェリーよりも時間がかかるレベルではないことくらいはわかりそうなものなのだが、あの人ならばと妙に納得できたものだ。
あの時の船はほとんど揺れもなく、仕事も携帯の電波も届かないところを船が進むので、本当に天国のような時間を過ごしたことを今でもありありと覚えている。
正直今回の船旅も時間的には社畜時代の天国と同じようなものだったし、期待したのだが現実は俺には厳しかった。
今回の船旅は船員に言わせると、ここ最近にないくらいの穏やかな海で、しかも風の塩梅もものすごくいいとか。
これで船酔いならば船になんか乗れないとまで言われて、ショックを受けた。
俺についてきているナーシャにダーナは本当に楽しそうだ。
でも俺がすぐに船酔いになるとダーナやナーシャは俺について看病してくれている。
彼女たちにも初めての船旅になるはずなのだが、なぜかしら船旅を楽しんでいる風ではあるので、本当に俺がポンコツで申し訳ない。
せっかくの船旅なので、二人に自由にしていいと言ったら、交代で俺のことを看病しながら船旅を楽しんでいるようだ。
とりあえずは良かった。
無事に二日後に目的のカッパー商業連合玄関口といわれている港に着いた。
ロクショウという港町らしい。
船からよろよろとした足取りで俺は地上に降り立ったのだが、その時に肝心なことに気が付き、茫然としてしまった。
帰りにも同じ目に合うということに。
この世界にも『時は金なり』と同じような言葉があるのか、本当にできる商人たちは時間を無駄にはしない。
俺が歩けることを確認したら、その場ですぐに行動を開始していた。
上陸した港に居を構えるお二人共通の知人でもある奴隷商の下に向かった。
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