第130話 カッパー商業連合の奴隷商
さすがに国際貿易港だけあって、港には絶えず乗合馬車が行き来しており、駆け出しの商人などはその乗合馬車を捕まえて目的地に向かうのが一般的だとか。
これも割と恵まれている商人の話で、ここに上陸してくる商人のうち半数はそんな贅沢は許されずに自分の足で遠くまでも向かうらしいのだが、さすがに大店のお二人は、事前に予約でもしていたのか知らないが割と豪華な馬車が上陸後にすぐに出迎えに来たので、それに乗り込んでいく。
港町の中ではあるのだが、港から高台の方に馬車は向かう。
確かに歩くには少々きついかもしれないが、今の俺にはたとえこの馬車のように豪華なものであっても揺れがきつい。
さすがに馬車の中で吐くわけにもいかず、といっても俺の胃の中には何もないが、かろうじて我慢して目的の奴隷商に着いた。
俺たちはすぐに店の中に通された。
俺は二人のおまけなので、二人に続いて部屋に入っていく。
すでに話がここの奴隷商に通っていたのか部屋には美人が二人も待っていた。
美人の二人は今着ている服がそのまま俺のイメージにある神官だ。
巫女服でないことが少し残念にも思えるが、昔ゲームでよく見た女性神官服のようなものを着ている。
探すのが難しいと聞いていた神官もここならばと連れてこられたのだが、とびっきり俺の好みの女性を用意してあるなんて実に素晴らしい。
一人は人族で、うちの王都店の店長を務めてるカトリーヌより若干若い感じの美人だ。
お色気たっぷりとした破戒僧的な美女では無く、これぞ聖女と言われるような清楚な感じの好感の持てる美人だ。
お色気が全くないというのではなく、お色気を自身の持つ清楚な感じで隠すような気がする。
先ほどから是非彼女とも一戦を楽しみたいと俺の息子は申しております。
で、もう一人は彼女よりも若く、ダーナと同じくらいの見た目だ。
人族では無く、クマ族とでも言えばいいのだろうか。
少し愛嬌のあるこれまた美人だ。
スタイルも申し分ない。
落ち着け、俺はここにお姉さんを物色に来たわけではないのだ。
先ほどまでむかむかとしていたことなどすっかり忘れて、女性を物色するような眼をしていたのを改めて、ここに来た本来の目的を思い出す。
『先生、出番です』
俺は心の中で鑑定先生を呼び出す。
……人族の美女はキョウカというらしい。
年齢は31歳ともう十分に食べ頃……違った、うちのカトリーヌとあまり変わりがない。
非常に落ち着いた感じの美女だが、先生が言うには少々難ありらしい。
少しずれているというか、ドジなところがあるお茶目さんらしい。
もう一人は、クマ族の美女で名をムーランというらしい。
年齢は25歳とうちの平均年齢からすると十分にお姉さんになるようだが、クマ族の特徴なのか、それよりもはるかに若く見える。
さすがにナーシャと比べるとお姉さんだが、彼女の少し上に見えるから不思議だ。
スタイルも良く、美味しく食べられそうだが、ってもうそれはいいとして、彼女もキョウカさんと同じ一般奴隷って、借金奴隷じゃなく一般奴隷だと。
どういうことだ。
犯罪奴隷からならばわかるが、流石に聖職者の犯罪奴隷はいないとは言わないが、少なくとも聖アルマイト教国で犯した罪があっても、カッパー商業連合に連れてこられるときには一般奴隷として売られると前に聞いたことがあった。
しかし、それならばうちの先生が教えてくれそうなものだが、先生からは犯罪の可能性を一切教えてもらっていない。
今までの経験から考えると、冤罪も無い。
冤罪ならば冤罪で、うちのダーナの時の件がある。
先生はそのあたりまでしっかりと教えてくれるのだ。
だとすると、どういう経緯で一般奴隷としてここにいるのだ。
「この二人なのですが……」
ここの主人が二人の奴隷について例の奴隷の調査書を手渡しながら説明してくれた。
「この国では聖職者の一般奴隷はあまりよく思われてはいません。
全く売れないという訳ではありませんが、犯罪奴隷の可能性を危惧されてしまうために、借金奴隷と比べると商品価値が下がります。
ですが、この二人は私が保証します。
決して犯罪奴隷の過去などありませんからご安心ください」
フィットチーネさんは俺の奴隷に犯罪奴隷が少なくとも複数いるのを知っているので、別に気にした様子はないが、フィットチーネさんと一緒に来た例の奴隷商は心配そうに俺の方を見てきた。
俺はフィットチーネさんから手渡された奴隷の書類を見ながら心配そうにしている奴隷商の方に話しかけた。
「大丈夫ですよ。
私は奴隷の種類には関心がありません。
現に私の所にいる奴隷たちは本当に多種にわたります。
当然その中に一人ではない数の犯罪奴隷もおりますから。
それよりも厄介な奴隷をこの間押し付けられたくらいですし、書類上も、今見た感じにもいやな気がしませんので、お話を進めてください」
俺の話で張りつめていた周りの空気が一挙に砕けたような気がする。
フィットチーネさんが二人の奴隷商に俺の所の奴隷たちのことを説明している。
「まだ、お若いのに、すごくやりてなんですね」だって。
彼女たち奴隷を俺たちに売り込んでいる奴隷商がおべっかを言ってきた。
お若いだって、そんなに俺若いかな。
この世界に来る前にすでに魔法使いになっていたのだし、十分に年だと思っていたのだが、先のクマ族じゃないが、俺は若く見えるらしい。
それにやりてだって、確かにうちの女性たちに対してやりまくっているけどやり手って本当にスケベ……て訳じゃないよね。
知っていた。
ちょっと言ってみたかっただけだ。
場の空気が砕けたこともあったのか、奴隷商はデモンストレーション代わりに自分の腕にナイフで傷をつけ、すぐにキョウカに治療させた。
目の前にいる奴隷商にヒールの魔法をかけていた。
初めて見るヒール魔法。
俺の中では一番有名な魔法なのだが、この目で見るのは初めてだった。
「どうです、彼女の魔法は本当にすごいの一言なんですよ」
そう言ってから、セールストークを始めた。
二人ともこの国ではあまり歓迎されない一般奴隷だが、実力もあり地元の教会などから認められていたので、このまま教会に奴隷として売られていくはずだった。
しかし、何があったのかは知らないが、教会の予算がどうとかで奴隷購入の話が無くなり、俺たちに売られようとしているとか。
ならば非常にラッキーだった。
この場合、この町の奴隷商にとって幸運だったのか、それとも俺たちにとって幸運だったのかは、どちらでもいいだろう。
多分両者、いや、奴隷も含めてこの出会いは三方それぞれにとって良い出会いだったと俺は思うことにした。
近江商人の話ではないが、『
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