第137話 この世界での解体新書
「とにかくここでは病気を治す商売をしていく。
当分はフィットチーネさんとペンネさんから紹介のあった患者さんを治療していくことになるだろう。
ほとんどが君たち同様、生き腐れ病の治療になる。
これは不治の病とされているようだから、多分知人などで生き腐れ病に罹った患者の治療が仕事になるだろうが、君たち自身が経験したことでもあるし、難しいことでは無いだろう。
それ以外の病気についてはこれから研究していくしかないが、その研究をみんなでしていきたいので協力してほしい」
その場にいる全員から肯定の返事をもらったが、だれもが俺のやりたいことを完全に理解していないようだった。
とにかく俺たちは掃除から始め病院開設の準備に入る。
その日は細々したものをそろえたり、しながら夜になり食事のために店に戻る。
店に無理してでも風呂と食堂を作ったのは本当に良かった。
王都でも風呂は欲しいな。
そのうち王都の店も改装していこう。
今でも少し手狭になってきていることもあり、商売の方も貴族がらみのことが片付いたこともあり順調になってきている。
大きなことを始めるならばチャンスともいえる。
いろんなことに手を出してきたこともあり、そろそろ真剣に商売について整理する必要を感じてきたので、モリブデンでゆっくりとしている間に考えていくことにした。
数日はモリブデンでおとなしく病院開設の準備に費やしていたが、モリブデンでのストックしてある酒が少なくなってきている。
前に商業連合に出向いた時などに少し仕入れてはいたのだが、王都ほどの品ぞろえが無かったこともあり、あまり仕入れることができなかった。
そのために、王都まで仕入れに行かないとまずい。
俺は、そこで少し考えた。
仕入れに向かうときにはダーナたちに狩りなどをさせているので、二人は順調に戦闘スキルが成長しており、全他のレベルも上がっている。
新たに仲間に入れた5人はというと、ぞれぞれ修行はしていたようなのだが、ダーナたちから見たら物足りるレベルではない。
モリブデンや王都で商売だけをさせているのならこれでもいいかとも考えるのだが、治療に際して魔法を使うとなるとやはりレベルの底上げは必須だ。
それに、魔物を処理するときに体の中を調べることもできるので、この世界版の解体新書ではないが、腑分けの代わりに魔物を使い体の仕組みを勉強させることとして、5人を連れて王都に向かった。
モリブデンの店を任せているマイやゼブラには病院の方は鍵を閉めて誰もいないけどよろしくとだけ伝えてある。
ここからは野宿の連続だ。
旅慣れている俺たちには問題ないが初めて俺たちと旅をすることになった5人には驚きの連続だったようだ。
モリブデンを出るといきなり俺たちが街道から離れて森の中に入っていくと顔を引きつらせながらついてきていた。
ダーナが彼女たちを面倒見ながら移動している。
さすがシーフの職を持つエルフだけあって、ガーネットはすぐに俺たちの旅に慣れてきた。
すぐに俺たちに先行して斥候の役を買って出ている。
おかげで魔物には不自由せずに討伐ができる。
魔物を倒すたびにその都度魔物を腑分けして、臓器などに役割について説明していく。
俺の知る病気なんかそれこそ家庭の医学の小学生版ですら及ばないが、それでもこの世界では画期的なことばかりらしく、皆真剣に聞いてくれる。
特に骨と筋肉の関係の説明などは冒険者の経験のあるだけあって、納得がいくようだった。
この世界骨折などそれこそ冒険者にはつきもののようだが、複雑骨折などすれば命の危険すらあるのだ。
単純骨折でも場所や運によっては現役引退に追い込まれる。
俺は、骨については元のように支えてやればきちんと治ることを説明していく。
複雑骨折も、バラバラな骨を元に戻すように教えておく。
実際に、魔物を使って、足の骨を折り、ナイフなどで骨折箇所を開き、骨の位置を治してから添え木などで支えるように説明していくと、皆驚いていた。
この世界にはヒール魔法があるので、皮膚をナイフで切り開いても血管などを傷つけなければ大事にはならないだろう。
骨折などの外科手術を考えるのならば、麻酔が欲しいところだが、痛み止め程度ならば薬は存在はするらしい。
しかし、麻酔として使えるかは別物だ。
いずれ検証は必要なのだが、無ければ痛み止めの薬も使う必要は出るだろう。
とにかく使える程度なものがあればよいのだが、無ければ魔法でもと思って詳しい人に聞いたけど、あっさりと知らないと言われた。
無いのかと聞くと、自分が知らないだけであるかもしれないけど、無いことも考えられると俺の知識とほぼ一緒で、使えない。
こと治療関連においては、この世界は恐ろしく遅れている。
正直自分や身内のことを考えると、真剣に治療技術について考えなければならないとその必要性を感じている。
そういう意味でも病院経営はきっかけとして非常に良かったとすら思っている。
そんな感じで森の中を歩いていく。
当然夜は人里離れた森の中で野宿だ。
テントを用意してあるので、分かれてになるが、俺のテント内では当然のように夜の御勤めが始まる。
ダーナやナーシャは久しぶりにと喜んではしゃいでいたが、当然声や音は外にも漏れる。
すでに美味しく頂いているキョウカやムーランにはその音の正体がすぐにばれて、翌日からは交代でとなった。
いつもならば三日もかからないところを、初めての者を連れてだと倍近くの五日で王都に到着した。
そう毎日夜には4人を相手に頑張りました。
王都の店には毎度お世話になっている母娘もおり、また、元騎士の美女まで加わってきたので、にぎやかになる。
俺の連れてきたダーナやナーシャを除く5人を王都のみんなにも紹介したら、カトリーヌ母娘からジト目で見られた。
娘のマリアンヌに至ってはまだ奴隷な筈なのに、ジト目で睨むことが出来るんだと、発見があったので良しとしよう。
何せ美人のジト目は俺にとってご褒美だ。
世の男性諸君も俺のこの気持ちには賛同してくれるだろう。
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