第100話 モリブデンへの移動
「あの~、ちょっと……聞くには憚るようなことを、あえて聞かせてもらうけど良いかな」
「はい、旦那様。
私のことですよね。
聞かれる前にお応えしますが、ここ数年は男性との経験はありませんでしたので、少なくとも私に関しては面倒ごとにはならないかと」
「ありがとう。
言いにくい事を答えてくれて」
「はい、前のご主人様方の悪口になるのであまり言いたくはないのですが、この後、他のメイドたちにもお聞きするのでしょうから、先にお知らせしておきますが」
彼女はそう切り出してから、男爵について少し教えてくれた。
男爵は屑だと云うのだ。
男爵だけでなく、彼の子供たちも同様に屑だったらしい。
男爵はロリコンで、しかも実際に無理やりするのがお好きだとか。
初めてならそれこそ一晩じゅう喜んでしているとか。
子供たちは、色々と嗜好は違っているようだが、総じて飽き性で、数回抱けば満足して、それ以降襲ってこなかったと云うのだ。
それを踏まえて彼女は今回自身が率いていたメイドたちは、皆問題が無いだろうとも言っていた。
ありがたい情報だが、しかし……
部下に秘め事の秘密をばらされるのなんてどうしたものか。
俺がもし同じ立場にあって、そのことを知れば絶対に立ち直れない自信がある。
それに、男の嗜好なんか知りたくもなかった。
最初の女性がとにかく優秀だったのか、俺の知りたい情報を全て教えてくれたので、残りの女性たちも直ぐに確認が取れ、そのまま全員を俺は買い取った。
まあ、どちらにしても断れなかったので、俺にはあの時点で買い取り以外に選択肢はなかったが、それにしてもどうしたものか。
このまま10人を連れて、俺が買い取った店に向かった。
「ここで働いてもらうことになるが、問題はあるかな、え~とゼブラだったけか」
「はい、ご主人様。
一つ質問がありますがお許し願いますか」
「ああ。構わない。
あ、最初に言っておくが、俺は以前君たちが働いていた貴族ではないから、貴族屋敷の仕来りなんか知らないけど、分からなければどんどん質問してくれ。
遠慮は無しだ」
「ありがとうございます、ご主人様。
では、教えて欲しいのですが、ここで働くと言いますけど、私どもは何をすれば良いのですか」
「ああ、とりあえずここに連れて来たけど、ここでは飲食業を行う予定だ。
君らにはここで、客への給仕を願うつもりだ」
「ここに全員で、ですか」
「そう言えば、10人は要らないな。
しかも、俺がここに責任者として居る訳にもいかないな」
少し考えてから、教育のため、一度、全員をとりあえずモリブデンに連れて行くことにした。
彼女たちに料理を作らせるのも、果たしてできるものか疑問もある。
元々貴族屋敷では仕事の細分化がなされているようで、料理は料理人がおり、メイドはメイドとしての仕事しかしないと聞いている。
来訪する客の対応も執事と一緒にメイドもするので、給仕の方は問題無いとは思うが、その確認もあるから、急ぎモリブデンへの移動の準備を始めた。
一旦、全員を王都の拠点に連れて来たけど、俺だけはもう一度ドースンさんの店に戻った。
「お、どうしたね、レイさん。
何か忘れものか?」
何を暢気に言っているんだ、このおやじはと思ったが、流石に言葉にはしなかった。
「いきなり引き取ったけど、受け入れの準備ができていないので、一旦モリブデンに戻り、準備してから王都に出なおうそうかと思ったんですよ」
「確かに、それもそうだな。
それで……」
「いつものメンバーでは、問題無いのですが、彼女たちを歩かせてモリブデンにもとは、少々酷かと思いまして。
馬車の手配なんかできませんかね。
それもサービスで」
「う~~。
分かった。
うちが贔屓にしている者を出そう。
費用はこちらが持つけど、護衛までは準備しないぞ」
「ええ、護衛は自分たちでしますから。
元々私は冒険者でもありますしね」
それからのドースンさんの動きは早かった。
昼過ぎにはドースンさんの店から依頼されたという御者がホロなしの馬車を連れて店の前にやって来た。
流石に奴隷たちを運ぶので、貴族が利用するような豪華な馬車は期待していなかったが、それにしてもホロすらない馬車だとは思わなかった。
彼女たちには気の毒だが、それに乗ってもらうことにして、直ぐに王都を離れた。
元々、アイテムボックス持ちとして王都に出入りしているので、知っている者たちからは別段不思議に思われなかったが、御者と彼女たちからは驚かれた。
王都を昼過ぎに出たものだから、夕方には王都を見下ろせるあの丘に着き、今日はここで夜営となる。
今回の移動は全て夜営の予定で、行けるところまで進む予定なので、5日ほどでモリブデンには戻れる計算だ。
最初の夜営では、彼女たち全員が初めてのこともあり興奮しながら俺たちの指示によく従ってくれた。
焚火を前にちょっとしたキャンプのようで楽しかった。
それからの移動も、ほとんど同じで、これと言って問題も無く5日目の夕方になる前にモリブデンに到着した。
馬車を俺の店まで連れて行き、馬車ごと中庭に入れて、彼女たちを一旦風呂の有る建物の中に入れて休ませ、俺はフィットチーネさんの店に報告のために向かった。
「大変でしたね、レイさん。
それにしてもバッカスさんは強引でしたね。
何度かお会いしていた時にも、ここの料理を羨ましがっておりましたから。
それで、どうするおつもりですか。
ひょっとして王都に引っ越すとかお考えで……」
「いえ、フィットチーネさん。
私の拠点はここモリブデンで、動かすつもりはありませんよ。
しかし、ここでの商売もどんどん大きくなりましたし、そろそろ王都でもと考えていなかったわけでもありませんでしたから、良い機会だったのでしょうね。
そう考えることにします。
直ぐに従業員用としての良質な奴隷の手配も済みましたし。
しかし、全員だと正直王都の方は人が多すぎの様に思いましたので、一度、整理も兼ねて連れてきました」
「整理ですか。
幾人かを売りに出すので……」
「いえいえ、誰一人として売るつもりはありませんよ。
ただ、連れて来た女性の半分はこちらに残そうかとは考えております。
また、料理を覚えているのを王都に回して、責任者としようかとも考えてはいますけど」
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