第101話 王都の店長

 

「王都で、奴隷が責任者の店ですか……」


「奴隷が店の責任者ではいけないとか」


「いえ、そう言う決まりがある訳ではありません。

 私が知らないだけかもしれませんが、全く事例が無いわけでもないので」


「それなら問題は無いか」


「レイさん。

 そうでもありませんよ。

 私が知っている数少ない事例ですが、皆奴隷の主人が同じ町におります。

 主人が高齢であったりとか他で別の商売をしているとかで、その店を奴隷に任せているケースは過去にもありました。

 数はとても少ないのですが。

 でも、ここモリブデンと王都のような遠くに離れての事例は過去を探しても無かったのでは。

 問題が発生した時に直ぐに対処が難しいですから」


 あまりいい情報ではない。


「フィットチーネさん。

 教えて欲しいのですが、いくつかの町で商売している人は居るんですよね」


「ええ、いますが」


「その人たちは、誰に店を任せているのですか」


「ほとんどの人は、長らく働いている番頭格の人に他の町での店を任せますね。

 あとは親類や子供とかの血族ですか。

 でも、ほとんどの場合、その血族も主人の下で長く働いていた人ですかね」


「急に商売を拡大させるような人は居ませんか。

 その場合などは血族ですかね」


「いえ、そういう場合もなくは無いですかね。

 まあ、ほとんどのそういう場合は新たに雇った人に任すしかないですが。

 でも、奴隷に任す人は聞いたことが無いですね。

 何より、奴隷ですが、一般的に任せていいほどの経験をつんでいませんし、教育ですか、そう言うのがね~」


 そういう事か。

 だから信用できそうな人に任すしかないのか。

 でも、うちの場合……大丈夫じゃないのか。

 奴隷落ちする前に商売をしていたし人もいるし。

 ………

 ………

 ああ、あとは奴隷であることについてなんか文句でも言って来る同業者などか。

 だとしたら、俺が解放した奴隷ならどうだろうか。


 でも、解放したらもうしてくれなくなるのも嫌だな。


 どうしよう。


 ………

 ………


 でも良いか。

 新たに奴隷も増えたことだし、いっそのこと解放も考えてみよう。


 どちらにしても、一度戻り相談だな。


 俺は自宅兼店に戻り、全員を集めた。

 あの風呂を作った建物の二階にはそういう集まりに最適な集会場兼食堂を作ってある。

 そこに全員を集めてから、俺が王都から連れてきた奴隷たちを紹介した。


 すでに、俺と一緒にいつも行動をしているナーシャとダーナから情報は伝わっていたようだが、俺から改めて紹介して、王都で商売することも報告しておいた。


「ご主人様。

 彼女たちだけで王都の店をするのですか」

 当然の疑問のようにこの店を任せているカトリーヌから質問が出た。


「それなんだけど、まだ決まっていないし、何より王都の店でも10人も必要ないのではとも考えている。

 それに何より、こっちの方が人でも足りないし、半分の5人にこちらから数人を回そうかとも考えているから、あとで皆に個人的に相談するかもしれないからそのつもりでいてくれ」


 紹介の後で、歓迎会を兼ねて唐揚げやコロッケなどを作り皆で食べて、会を解散しておいた。


 当分の間、ここに彼女たちを置いておくことにする。


 10人ともなると、さすがに個室を与えられない。

 とりあえず二階の食堂研集会場に彼女たちは寝泊まりしてもらうことになるが、そのことを彼女たちに了解してもらった。


 できる限り速やかに部屋の方は準備するとも約束はしておいた。


 それで、店の方に戻ってから、カトリーヌを俺の部屋に呼び出して、相談を始める。


「王都の店の件だが……」


 カトリーヌは俺が言いにくそうにしているのは察知しているようだが、俺が何を言いにくそうにしているのかを分からないでいた。


 俺は、奴隷でない人に店を任せないといけない話をすると、納得したような顔をしながら話し始めた。


「この国でも奴隷に店は任せられませんか」


「いや、そういう決まりはない。

 現にここを君に任せているだろう」


「え、それは実質的な話で、表向きはご主人様が店長では……」


「ギルドに届け出る決まりがないので、実質も何も変わりがないよ。

 だけど、王都だとちょっとまずいらしい」


「さすがに王都では届け出が必要なのですね」


「いや、そこまでは聞いていないけど、店長が奴隷で、その主人が同じ町にいないと同業などから舐められるそうだ。

 儲かっていれば嫌がらせもあるらしい」


「どの国でも同じですね。

 尤も私は奴隷を使った経験が無いので、そんな苦労はしたことはありませんでしたけど」


「そこで、相談なんだけど……」


 カトリーヌは俺が何を言い出すのか黙って聞いている。


「君に王都の店を任せてみたい。

 あ、娘さんと一緒に王都に送るから、そこは心配しないで良い」


「え、私は奴隷ですけど」


「だから、相談なんだ。

 君を解放してから王都の店を任せたいと考えているのだけれど、俺が奴隷から解放したら、もうしてくれないかな……」


「????」


 カトリーヌは俺の言っていることが理解できないらしい。


 俺はずばり自分の欲求をそのまま話してみた。


「奴隷から解放されれば、俺からの理不尽な要求にこたえる必要はなくなるだろう。

 でも、俺は君を放したくはない。

 まだまだカトリーヌを抱きたいのだ。

 親子丼は絶対に無くしたく


 流石にここまで言うとカトリーヌは俺の云うことを理解して顔を赤らめた。

「ご主人様

 私を愛妾にしてくださるのですか」


「愛妾??

 ああ、愛人のことかな。

 流石にまだ結婚は考えていないけど、側室扱いにできれば良いかなって……

 都合がよすぎる??」


 固まっている。

 俺、彼女にとんでもないことを言ったのかな。

 やばい、今の話を取り消しても、もう遅いかも。

 奴隷のままなら、抱くことはできるかもしれないが、無理やりは嫌だな。


 もう、気持ちよく俺を相手してくれないなら、諦めて、解放だけで店を任せようかな。


「側室ですか。

 そんな畏れ多い。

 愛妾だけでも望外な望みなれば、愛妾で結構です。

 是非お願いします。

 もし無理なら、今のまま奴隷でいさせてください」


「へ??

 奴隷でいさせてほしいの……

 ちょっと待って。

 奴隷の身分だと色々と問題があるから奴隷のままだとまずいんだよ。

 とりあえず解放の方向で。

 で、ひょっとしてカトリーヌは俺の愛妾だっけ、それになってくれるということで良いのかな。

 俺が王都に出向くたびに、俺の相手をしてくれるということで」

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