第102話 初めての奴隷解放

 


 俺、自分で言っていてよくよく考えずとも酷いことを言っているよね。

 自分がかなり下種だとは理解していたけど、流石に自分で言っておきながら俺自身が引いてくる。


「はい。

 是非お願いします。

 愛妾でいられるのなら、王都でもどこでも頑張りますから、決して見捨てたりしないでくださいね」

 でも、この世界しか知らないカトリーヌは俺の提案を喜んで受けてくれた。

 本当に良かった。

 懸案事項も、俺の我儘な願いも一緒に片付いた。


 それからカトリーヌと王都の商売に着いて色々と話し合った。

 結論から言うと、とりあえず少しの間、ここで新たに仲間に引き入れた女性たちを二つに分けるということと、一度王都にカトリーヌを連れて行き、彼女に店の中を見てもらい、その上でもう一度詳細に商売に着いて話し合うということで落ち着いた。


 彼女の娘のマリアンヌを解放するかどうかについては今の処保留ということで。

 新たな女性たちの見極め後に、きちんと考え、マリアンヌ自身に希望を聞いてからということで、その日を終えた。


 翌日から、カトリーヌに王都で買い取った女性10名の教育を任せた。


 主に彼女がここモリブデンでしている仕事を一通り教えてから、料理、特に揚げ物について調理方法を教えている。


 彼女たちには王都では主に接客を任せるつもりなのだが、それでも手が足りないとか調理ができる人が多いほど良いからね。

 ガーナたちに任せている大工仕事や鍛冶仕事についてはカトリーヌたちにもさせていないし、どんな仕事をしているかについて説明だけで、任せるつもりはない。

 それでも、モリブデンでの教育には十分に時間取ったこともあり、ひと月を要した。


 その間に、王都との行き来が今後増えそうだということもあり、うちでも馬車を用意することにして、フィットチーネさんに相談を始めた。

 ガーナは一頭立ての幌付き馬車なら御者もしたことがあるとかで、幌付きの馬車を中古で手に入れ、今、みんなで馬車の扱いをガーナに習っている。


 ここでの時間で一番かかったのは、実は馬車の扱いのためだった。

 俺たちといっても、いつものメンバーである俺の他にナーシャとダーナの三人ならば馬車など使わなくとも、王都までは簡単に行き来できるのだが、普通の人ではあると、どうしても時間がかかってしまう。

 それに移動に際して人も多くなりがちなので、馬車移動も考えたためだ。

 モリブデンと王都の間の道はこの国の大動脈という話だが、令和日本と比べるべくもなく、酷いものだ。

 日本で酷道と揶揄される道なんかよりもかなり酷い。

 江戸時代の五街道よりはましな程度で、馬車が利用可能な分ありがたいが、それでも舗装などされていないので、馬車の揺れがものすごく、歩くよりもやや早い程度しか速度は出せない。

 江戸時代の街道はそもそも馬車利用を考えていないので、箱根なんかは歩くのがやっとといった作りだが、さすがにモリブデンと王都の間には森はあっても峠がないのが救いだ。


 もし峠があったならばどうなっていたのか想像すらしたくない。

 下手をすると箱根よりも酷いことになっていたかも……

 流石に無いか。

 この世界の標準では、貴族など上流に属する人の移動は馬車になるそうだから、そういう人が通る道は少なくとも馬車が使えるようになっているはず。


 それた話を戻して、そんな訳で、俺を含む王都に移動する可能性のある女性たち全員には馬車を使えるようにみんなで仲良くダーナから習っている。

 さすがに御者の扱いについては全員でいっぺんに習うとはいかないので、交代ではあるが。

 まあ、調理場も風呂場の上が広くなったこともあり、前よりは余裕ができたが、こちらも全員では無理だったので、ある意味ちょうどよかったのかもしれない。


 そんでもって一月後に、一度全員を集めてから王都の店について発表を行った。


「皆も、わかっていたかと思うけど、王都に店を構えるために、カトリーヌを奴隷の身分から解放して俺の愛妾となる。

 その上で、王都の店の店長を務めてもらうことになった。

 カトリーヌの娘のマリアンヌも彼女に同行して王都に行ってもらい、母親であるカトリーヌを助けてもらう」


「あの、ご主人様。

 マリアンヌさんも愛妾になるのですか」


「ゆくゆくはそうなるものと考えているが、今回は奴隷のままで王都に行ってもらうことにした。

 結構奴隷って身分は使い勝手がいいらしい。

 娼館のお姉さん方から聞いた話だが、貴族などからの無理強いを防ぐのには最強だとか。

 カトリーヌを解放するので、娘まで解放すると、無理やり貴族などに連れていかれないとも限らない。

 だから、そういう意味でもマリアンヌはそのまま奴隷だ」


「二人で王都の店をするつもりですか?」


「いや、新たに仲間に加わったうち半分を王都に連れていく。

 王都と、こことで交代で詰めてもらうことも考えているが、どうなるかはまだ未定だ」


 こんな感じで説明してから、カトリーヌを連れてフィットチーネさんの店に向かった。

 奴隷から解放してもらうためだ。

 フィットチーネさんの店に入るとさっそくカトリーヌの解放をしてくれた。

 事前に話を通していたこともあり、何ら問題なく処理をしてもらてた。


「前にも話してありますように、彼女のために支払った税金は戻ってきません」


「ええ、それは承知しております。

 しかし、私には彼女以外に王都で店を任せる人がいませんから、税金くらい問題ないですよ」


「カトリーヌさん。

 あなたには今後一般人となるわけですから、今後は人頭税がかかります。

 支払いを忘れますと、今度は犯罪奴隷にされますから注意ください」


「あの~、今年はどうなるのですか?」


「今年は、レイさんが支払った奴隷税のおかげで免除されます。

 支払いは来年からになりますね」


「そういえば私は支払ったことがないのですが、どこに支払えば……」


「え、そういえばそのあたり説明しておりませんでしたね。

 レイさんの場合は、2重で支払っている格好ですかね」


「え、2重って??」


「人頭税は直接の支払いは出来なくもないですが、本当にまれなんですよ。

 ほとんどの場合はギルドに支払う会費から支払われます。

 レイさんは冒険者ギルドと商業ギルドに所属しておりますから、その二つのギルドから支払われていることになりますね。

 カトリーヌさんの場合ですと…… 

 王都の店の店長でしたね。

 となるとまず王都で商業ギルドに申請して、その時に会費を取られますから、それでだいじょうぶになるはずですよ。

 詳しくは王都の商業ギルドに問い合わせください。

 税金関係、特に人頭税については領地ごとに異なりますから、その土地土地で確認が必要になります。

 行商ならばそんな面倒は無いのですが、店を構えるとそういった面倒は増えますね」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る