第103話 改めて王都へ


「結構大変そうですね」


「そうですね。

 レイさんは行商から始めると聞いておりましたが、本当に私の予測がつかないくらいに急に商売が大きくなっておりますから、そういうのに慣れないのでしょうね。

 普通は行商をしていくうちにそういう手続きに詳しくなっていき、ある程度経験や人脈ができてからの開店になりますからね。

 あ、でもレイさんの場合、人脈だけは十分あるようですが」


「すべてフィットチーネさんの人脈のお陰ですけどね」


「王都のバッカスさんはレイさんからの紹介ですよ」


「いや、彼は王都のドースンさんの紹介ですから、彼の場合も間接的ですけどフィットチーネさんの人脈だと思いますよ」


「あははは、そういうことにしておきますか。

 でないとこの話は終わりそうにありませんから。

 それよりも、解放は終わりましたが、すぐに王都に向かいますか」


「ええ、そのつもりです。

 あの後、何度も王都に仕入れに行ってますが、行くたびに、『店はどうなった?』とバッカスさんからせかされていますから。

 行ってもすぐに店は開けませんが、準備だけでも始めませんとね」


「そうですか。

 ならちょっと待ってください。

 兄弟子つながりのドースンさんにレイさんの後ろ盾をお願いする手紙を書いておきます。

 それをもっていってください。

 私から頼まなくても、レイさんの方で頼めますでしょうが、それでもね。

 私が王都にいれば私がしっかりお守りするのですが、それもかないませんしね」


「いえいえ、フィットチーネさんには、ここモリブデンで、よくしていただいておりますから、これ以上ともなると、頂いた恩が返せそうにありません。

 ただでさえ、今でも貸せないくらいのご恩を頂いているのに」


「それはこちらの方ですよ。

 何せレイさんは私の命の恩人ですから」


「この話もやめましょう。

 多分終わりそうにありませんから」


「そうですね。

 手紙は後でレイさんの店に届けますので、それをお持ちください」


「いろいろとありがとうございました」


 俺はフィットチーネさんの店から戻り、王都に向け出発の準備を始めた。

 いよいよ、モリブデン以外での商売を始めることとなった。

 果たしてどこまでやれるかわからないが、とにかく俺の幸せのためにも頑張るしかないな。


 今度の王都行きは、王都からモリブデンに来た時とあまり顔ぶれは変わらなかった。

 大きな違いは、今回は自分たちで馬車まで用意したことで、雇いの御者がいないのと、メイドから奴隷となったメンバーが半分になったことくらいか。

 あ、いや、カトリーヌ母娘が同行したことで、人数的には半分になった感じがしない。


 実際、御者を除くと3人減になっただけだ。


 それといつものメンバーであるナーシャとダーナの二人が護衛役だ。


 なので、モリブデンに来るときも馬車の中は狭く感じたが、今度も広く使えるわけではなかった。


 普通、母娘の引っ越しもあることもあり、こんな小さな馬車一台で済むはずはないのだが、そこはそれ、俺たちには強い味方のアイテムボックスがあるので、何ら問題は無い。


 そういう意味ではアイテムボックスが使えるだけで、かなり経費が削減されている。


 基本俺たちの移動では途中にある村は使わない。

 移動はすべて野宿している。

 できるだけ一日で進める移動距離を稼ぐためだ。

 そのおかげで、王都とモリブデンの移動時間が普通よりもかなり短縮されている。


 月明かりがあるときは夜でも移動しているのだ。


 普通の、いや、冒険者ですらまずしない行為だと聞いているが、俺とナーシャたちが移動しているときにしていたために、それが普通の感覚になってしまった。


 メイドたちは、王都から離れて移動したことがほとんど無かったので、驚きはしていなかったが、普通の庶民、それも、移動経験をある程度持つカトリーヌなどは、相当驚いていた。

 でも、俺のことを信頼しきっている彼女は何も言ってこなかった。


 もう、彼女は奴隷でないので、不満があれば言ってきても問題は無かったのだが、短い間だったけど俺たちの間にできた習慣はなくならないらしい。


 俺は、正直ほっとしている。


 奴隷解放時に愛妾となることを約束してもらったとはいえ、王都に行っても相手してもらえるか心配だった。


 この分ならば大丈夫だろう。


 王都からモリブデンに向かう時よりも1日短縮して王都についた。


 馬車でそのまま店まで向かい、乗せている女性たちを店の中に入れた。


「まずはみんなで店の掃除を頼めるかな。

 必要品などがあれば、持たせた金を自由に使って構わない。

 ダーナとナーシャを置いて行くので、買い物は彼女たちにでも聞いてもらえればいいだろうし、メイド時代に使っていた店などが良ければゼブラの判断でそこで買うことでも構わない。

 後のことは店主のカトリーヌの指示に従ってくれ」


 俺はそう言い残してから、一度すぐそばのバッカスさんの店に一人で向かった。


「おや、レイさん。

 久しぶりですね。

 ああ、それよりも店はどうなりました。

 私も最近忙しくてモリブデンに行っていないので、あの唐揚げでしたっけ、それを食べたくてしょうがないのですがね」


「久しぶりは酷いじゃありませんか。

 前と変わらず、定期的に仕入れには来ているでしょ。

 半月前にも来たばかりですよね」


「半月も前じゃないですか。

 それよりも今日はお一人ですが、仕入れでは無いので……」


 いつも仕入れの時にはダーナと一緒に来ている。

 俺のアイテムボックスの方が容量は格段に多いのだが、俺のスキルは今のところ隠しているので、アイテムボックス持ちのダーナを連れてきているのだ。


 ひょっとしたら一人でここに来たのって初めてか……

 取引を始めたころに来たことがあるかもしれないが、いや、あの時でもナーシャは一緒だったし、何よりあの頃はドースンさんと来ることが多かった。


 まあそんなことはいいか。

「ええ、今日はその店のことでお伺いしました」


「え、いよいよ開店か」


「ええ、さすがに今日明日は無理でしょうが、唐揚げ程度なら明日にでもお持ちしますよ」


「それはありがたい。

 で、俺に用とは、店の後ろ盾のことかな」

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