第99話 訳あり奴隷

 

 よくよく話を聞くと、若い奴隷の多くが、ドースンさんの経験上での話だが、ほとんどすべてといって良いくらい、貴族当主か、その家族たちのお手付きとなっているそうで、その奴隷が孕んでもいたらややこしいことになるとか。


 まあ、今回はお取りつぶしになった家の奴隷なので、それほどややこしいことになりにくいとも思えるのだが、どうも今回は事件そのものが闇深く、ほとぼりが冷めたころに例の男爵は寄り親に騎士爵あたりに昇爵されそうだというのだ。


 奴隷商の間では、ほぼ常識となっているとかで、そうなると孕んだメイドなど完全に厄介ごとの塊にしかならないとかで、取引を嫌がっている。


 俺には、ドースンさんの云う厄介ごとがわからなかったので、詳しく聞くと、要は相続できる資格を持つ隠し子扱いになるとかで、そうなると相続問題が発生すると間違いなく相続の競争相手から殺し屋がやってくるのだとか。


 そんなの誰が聞いても勘弁してほしいとしか思わない。


 そもそもの話が、貴族が抱える一般奴隷については正式に貴族当主から孕んでいない証明書を出してもらい取引がなされるのだが、今回はその当主が取り潰されたため存在しない。


 その当主が処刑されていても、貴族の血筋があるのでいつ何時、親戚筋の相続問題に巻き込まれるかもわからないとあっては誰もがそう言うメイドの取引に二の足を踏むだろう。


 まあ、そういう奴隷を抱えることもごくまれにはあるそうだが、そういう場合、一年は奴隷商で、その奴隷を抱えておき、絶対に貴族の血筋がないことを証明してからの販売とするのが奴隷商の間では常識とされている。


 しかし、今回は王室からの依頼で預かった奴隷なので、一年も寝かせるわけにもいかないようで、ほとほと困っていたところだ。

 何せ事情を全く忖度しない王族からの依頼だ。

 すぐにでも処理しろと言われているらしいし、かといって奴隷商が買い取る選択肢もないとのことだ。


 奴隷商の沽券にかかわるとかいう話で、他の奴隷商から売れ残りの買取りを馬鹿にされるらしい。


 何より、付き合いを無くすので、商人としては致命になるからどうしても捌かないとと、俺に愚痴る。


 今回そんなメイドばかりを王家から依頼されたうちで、一番立場の弱いドースンさんが多数引き取らされたとかで、今まで王都で相当に頑張ってきたところに、俺がネギをしょって現れたというわけだ。


 もうこうなると、バッカスさんから勧められた店のレベルでない状態で、断れない。


「何人いて、いくらになります」

 俺はあきらめて、ドースンさんに力なく聞いてしまった。

 いざとなれば俺が損を被れば良いだけだ。

 問題が起こりそうならばさっさと奴隷を開放して、どこかにやってしまえば良いだけだ。


「そ、そうか。

 悪いな。

 今回ばかりは俺の在庫処分に付き合ってもらうことになるから儲けなしで良いよ」


「だから、何人でいくらになるのですか」


「お、そうか、まだ言ってなかったな。

 10人で金貨300枚、いや、税金などあるからな。

 それに登録料と、俺の儲けはもらわないけど、登録料だけは取らないとギルドから文句が来るから、え~い、面倒だ。

 税金等もろもろ合わせて金貨500枚でどうだ」


「ちょっと待って。

 儲けはいらないって言っていたよね。

 しっかり儲けだしているじゃん」


「バカ言え。

 俺は一人当たり金貨30枚で引き取らされたんだよ。

 普通なら、これに儲けを最低でも10枚は載せるから、全部で金貨550枚になるところを俺の重要な儲け分50枚を割り引いた価格だ。

 登録手数料などはそう簡単にまけられないんだ、勘弁してくれ」


「いきなり10人の奴隷か。

 俺もたいがいだけど、見ないで買ってしまった」


「面倒ごとを除けば、相当なお買い得品だぞ。

 何せ貴族の屋敷でしっかりと教育された奴隷、それも10人が全員美人で若いときている」


「若い??」


「ああ、ほとんどが若い。

 だが二人ばかり至宝の方と同じくらいのが居るな。

 メイド頭と、メイド主任を務めていたのが二人いるけど、あとの8人はみな若い。

 教育が終わった者ばかりのような年齢だが、年齢的にはそうだな……」


 ドースンさんはそう言いながら、いつもの資料を調べ始めた。

 そのあと、面倒になったのか、俺に資料をそのまま渡してきた。

 18歳~22歳の女性8人がメイドとして働いていた一般奴隷だ。

 彼女たちは潰された男爵家が昔から抱えていた一般奴隷の家族の出で、幼いころからメイドとして働くために教育されていたので、メイドとしてはベテランと何ら変わらないくらいの仕事はできるそうだ。

 問題は、奴隷メイドたちの上司に当たる二人だ。


 28歳の主任と、31歳のメイド頭の二人だ。

 しかもこの二人は奴隷出身ではない。

 例の男爵が加わる貴族グループの騎士爵の出だ。


 それが、男爵と一緒に騎士爵までもお取りつぶしとなり、立場の弱い女性たちは生贄として奴隷落ちされたとのこと。


 流石に、俺は面倒ごとになりそうなので、ドースンさんに詳しく聞いてみたけど、ドースンさんも資料以上のことは分からなかった。


 なので、直接彼女たちに聞くこととして、一人ずつこの場に呼んでもらった。


 最初はメイド頭を。奴隷落ちする直前に昇進したという31歳の女性からだ。


「私が君たちの主人となるレイだ」


「レイ様ですか。

 この度は私どもをお助け頂きありがとうございます。

 私は皆をまとめる役目を仰せつかっておりましたゼブラと申します」


 俺は資料を見ながら先生にお出ましを頂いた。


 ゼブラ・オズマスク

 オズマスク騎士爵家 3女(妾腹の出)

 サイズ……


 色々といらない情報が出て来た。

 しかし、最近の先生はどんどん進化しているのか情報が詳しくなってきている。

 しかも要らない。

 だって、初体験の年齢、それに相手までも教えてくれ、更に好きな体位まで、これって必要な情報なの。


 でも、その情報も地雷しかないだろう。

 だって初体験が実の父親に13歳で無理やり奪われているって、これって絶対にトラウマにしかならない。

 しかも、働き先の男爵家では男爵家の三男に、これもほとんど無理やり襲われたってあるし、この人男に関して恨みを持っていないのかな。

 先生鑑定スキルはそんなことは言ってきていないが……」

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