第98話 男爵家にいたメイドたち
いくら忙しいとバッカスさんから聞いたと云っても、直接ドースンさんから聞いた訳ではないし、なにより王都での商売に使う奴隷なのに、モリブデンにいるフィットチーネさんだけにしか声をかけないと後で何を言われるかわかったもんじゃない。
さすがに初めて仕入れた奴隷だけで店は出来ないので、モリブデンから連れてこないとまずいだろうから、この件絡みで、フィットチーネさんにも話をもっていかないとまずいだろうが、まずは王都にいるドースンさんに声を掛けるのが仁義だとも思っている。
なにせ、ガーナの件ではドースンさんに無理をさせてしまったようでもあるし、それに俺の事情をよく知るドースンさんなら、こちらの希望も色々と言えそうだ。
俺は、王都の商業ギルドで物件の手続きを済ませたその足でドースンさんの店に向かった。
「これは、レイ様でしたか。
今回の訪問のご趣旨は?」
俺はさっそくドースンさんに迎えられてって訳ではなく、ドースン奴隷商の家宰にいつものように迎えられた。
しかし、今日は珍しくドースンさんが仕事をして在宅だというので、ドースンさんに面会を求めた。
ドースンさんの執務室に入ると、ドースンさんはこれまたいつものように素のままで俺に声を掛けて来た。
「レイさんか、久しぶりだな。
それよりもバッカスから聞いたぞ。
モリブデンでフィットチーネの奴が面白い事を始めたらしいな」
ドースンさんも別館のオープン記念行事には招待されていた筈なのだが、本当に、珍しく仕事で行けなかったようで、そのことで相当ストレスが溜まっているようだ。
しかも、その記念行事に参加した大人遊び仲間のバッカスさんが良い思いをしたようで、散々自慢されるのだからたまったものではない。
今すぐにでもモリブデンに出向き、試したいと思っているようだが、仕事の方がそれを許してはいないようだ。
まあ、そのおかげで助かっているのが店の従業員たちだ。
特に家宰さんなんかは仕事が捗ることで、機嫌がいい。
俺が訪ねても直ぐに執務室に通してくれ、最高のおもてなしをしてくれた。
「どうせ、あれもレイさんが関わっているんだろう。
ひょっとしたらレイさんの持ち込みか」
「どうでしょうか。
お姉さん方から、娼館の拡張ができないから別館を検討しているとは聞いていましたが……」
「それでか。
フィットチーネからの依頼だけではレイさんも動かないかもしれないが、流石に至宝の三人からの頼みとあれば断れる男は居ないからな」
「え、フィットチーネさんにも日ごろからお世話になっていますから、頼まれればできる限りのことはしますよ。
現に邸宅の改築も請け負いましたからね」
「ああ、何でも風呂を作っているんだっけか。
やっぱりレイさんのところから出た話じゃないか」
「いえいえ、お姉さん方からのアイデアに少しばかりの意見を少し言っただけですから」
「まあいいか、これ以上何を言ってもしょうがないしな。
それよりも、今日はどうした。
まさか挨拶ってだけでもないよな」
「ええ、実は……」
俺は、ここで初めて王都の店の件を話して、奴隷購入についての相談を始めた。
するとドースンさんは、やっぱりといった感じの顔で俺に言ってきた。
「あの件で、レイさんまで話が行ったか。
それで、王都でもいよいよ商売を始めるのか」
「ええ、破格の条件でしたから、店は先ほど抑えてきました。
これから出店のための準備です」
「それで奴隷が欲しいと」
「ええ、既にモリブデンでも人手が足りなくなってきていますしね」
「俺が言うことではないけど従業員を雇ってはどうかな。
そっちの方が安く済まないか」
「それも少しは考えましたけど、私のところは秘密が多くて。
それに何より、私が普通に従業員を扱えるとは思えなく思っております。
それなら絶対に裏切らない奴隷でならばと……」
「そういう考えもあるな。
実際王都でもそういう感じで大店を経営している者もいることは聞いているし実際に俺のお得意さんでもあるしな。
それで、どんな商売をするつもりなんだ。
どんな感じの奴隷が欲しいのかな」
俺はとりあえず王都では酒を出すおつまみの店でも出そうかと考えていることを話した。
「あのあたりで酒を扱う店か。
となると給仕と料理作りか。
それに会計もいるか」
「そんな感じです」
「それならもってこいのがいるな」
俺の話を聞いたドースンさんが何でか喜んでいる。
よくよく話を聞くと、今忙しくしていることと関係があった。
ドースンさんの話では、ついこの間、俺が無理を言ってガーラを買った時まで遡るが、あの時一斉検挙した中にある男爵と関係が深いものが多数いた。
そこからその男爵の不正がどんどん明るみになり、寄り親の伯爵程度では抑えられずに、その男爵家はお取りつぶしとなった。
潰された男爵は寄り親の手助けもあってか、爵位を取り上げられ平民とされただけで、かろうじて助命されたようだが、当然財産はすべて没収となったために、彼の抱えていた奴隷たちはその財産の一部として没収され王室の管理とされた。
また、彼のとばっちりを受けた雇用人たちなどの一部が奴隷に落とされた。
今回王室が抱えた奴隷たちは、すべて一般奴隷扱いとなっていたために、いつものように犯罪奴隷を扱うわけにもいかず、比較的王室に近しい奴隷商が集められて扱うことになったと、ドースンさんが説明してくれた。
ここで、説明が終わればさすがやり手の商人、王室とも商いをしていると俺は尊敬もしただろうが、ここから長々と愚痴を聞かされた。
まあ、聞かされた愚痴に全く価値がなかったわけではなく、奴隷たちの経歴などを詳細に聞くことができたのでとりあえずは良しとする。
それによると、ごくごく普通の貴族と同じように一般奴隷は問題なく取引ができるようだが、執事として教育された奴隷ならば、それこそ引く手あまたに取引がされるので、扱うことのできた奴隷商は笑いが止まらないそうだが、メイドとなると話が変わってくるそうだ。
俺なんかが思うに、どこに違いがあるのかと思ったのだが、メイド、それも若い奴隷のメイドはジョーカー扱いのようだ。
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