第97話 人手が足りない

 

 従業員として人を使う力量が俺にあるとは思えない。

 せいぜい騙されて事業を乗っ取られるのが関の山だろう。

 となると、奴隷?

 しかし、これ以上の奴隷となると、俺の方が問題だ。

 今でも、奴隷も増えすぎて、少々きつくなってきてる。


 何がきついって、何がだよ。


 何も奴隷全員に手を出さなければいいだけの話なのだが、これも男の性と諦めよう。

 いや、俺の業かもしれない。


 教育事業の方は、そろそろ終わりが見えてきている。


 あの東洋美人の二人の他にも禿上がりの女性を数人相手にしていたが、こちらも俺の基準では十分に客を取れるレベルになってきている。


 多分そんな感じまで仕上げられてきていることもあり、別館は来週にはオープンとなるそうだ。


 お姉さん方三人全員に俺の知るテクニックは伝授してあるし、何より最初に教育したランさんとレンさんは、ほぼ完ぺきに風呂場でのテクニックをマスターしているので、安心して別館をオープンできるという話だった。


 オープンしたら、俺の仕事も終わる。

 あとは、彼女たちが、後輩たちにテクニックを伝授していくようだ。


 そもそも娼館というのはそういう仕組みらしい。


 ということで最近の主軸としていた教育事業もしばらくは無い。

 暫くと云うよりも、多分あんな美味しい仕事は二度とないだろうが、俺はいつもの仕事に戻っていった。


 あれから少しばかり過ぎた頃、俺はいつものようにナーシャとダーナを連れて王都に仕入れに来ている。

 いつものように、正直商売とは全く関係性が見えないバッカスさんとの会話の中で、ふとした拍子にバッカスさんが俺に新たな商売のネタを紹介してきた。


「レイさん。

 あんた、王都で商売する気はないかね」


「え、今のところモリブデンでの商いが順調なので、そんな余裕がありませんよ」


「まあそうだよな、何でも風呂工事まで手を広げたそうだと聞いたぞ。

 フィットチーネさん処の新たな娼館もレイさんが関わっているんだろう。

 あれは良かった。

 少々高いが、それでも十分その価値はあったよ。

 毎回とはいかないがそれなりに通わさせてもらっている」


 え、既にバッカスさんはあそこに行ったのか。

 まだあそこがオープンしてそれほど時間も経っていないのに、多分フィットチーネさんからの紹介だろうけど、本当に好きだな。


 よくよく話を聞くと、あそこのオープン記念行事にドースンさんと一緒に招待されてから何度か通ったとか。

 そこで相手をする女性は皆若い。

 若いのにそれでも一晩で金貨10枚は取られるそうで高いとは言っていたが、不満は無いようだ。


 モリブデンの紳士諸君の中には経験の少ない初心者に金貨10枚は高いと云うのもいるようだが、今までにないサービスなので、そのサービスが病みつきになる紳士諸君も多くおり、あの娼館は既にモリブデンでは人気の場所となっている。


 今までの本館の方も相変わらずの盛況で、他の娼館主からは妬まれているとか聞いたが、大丈夫だろうか。


 まあ、あそこの売りは風呂だ。


 その風呂と云うのが既に贅沢品となっていることもあり、他の娼館ではまねができない。


 まだ俺たちのあの給湯システムはそれほど知れ渡っていないので、風呂を沸かすのに魔法使いに頼むしかないので、共同浴場的にサービスはできても個室サービスまではコストが合わない。


 だからあそこで金貨10枚をとっても、今のところ客からはそれほどクレームは聞いていない。


 だいたい風呂場でキャッキャウフフは大貴族くらいしかできない本当に贅沢な遊びなのだ。


 しかも、貴族以上のことをあそこではサービスで提供している。


 今まで貴族でも、体を洗ってもらう時に少しいたずらするくらいしかできなかったようだ。

 だいたいが風呂場では床が堅いからそれ以上のことができなかったのに、俺が持ち込んだ畳マットのお陰で、横になってのサービスがストレスなく受けられる。


 まあ、これが知れ渡れば、どこでもと言っても一部貴族くらいだろうが、真似されると思うが俺は構わないと思っている。


 それに、俺達が受注している風呂工事にもその畳マットが一緒に注文を受けているのだ。


 風呂作って、自宅でもと考えているのかな。


 奥さんや子供もいるのに、よくやるよ。

 大きなお世話か。


 余談だが、一緒に招待されていたはずのドースンさんはと云うと非常に珍しい事に、仕事の都合で一緒に行けなかったらしい。

 しかも、まだ相当忙しいらしく王都を離れることができずに、あそこがオープンしてから一度もモリブデンには行ったことがないとか。

 本当に珍しい事もあるものだ。

 忙しいと云っても、ドースンさんは王都を離れることができないだけで、王都で遊ぶ分には問題がないのでしっかりと遊んでいるとも付け加えて来たが、それでも以前のように昼すぎまでとはいかないようだ。


 話がだいぶそれたが、バッカスさんが俺に勧めてきた王都での商売の件だが、俺がモリブデンの娼館に教えていったおつまみが目的のようだった。


 娼館でお姉さん方と一緒に食べたあの料理の数々を王都でも食べたかったようで、前々から俺に王都に進出しろと勧めていたが、今回はもう少し違う。


 どうも、バッカスさんの店のそばの一等地に手ごろな物件を見つけてきたようで、すでにバッカスさん自身が抑えているとか。


 格安で俺にその物件を回すと、今度はかなり強く俺に勧めてくる。


 しかも、その物件って、前の商売が食堂、いや少しレベルの高いレストランって感じだったのだ。


 バッカスさんは一切のぶれもなく、俺に王都で料理を売らせたいようだ。


 さすがに酒を王都に広く販売しているだけあって、飲食店関係にはめっぽう強い伝手があるようだ。


 今回はその伝手の中で、かなり条件の良い物件、もう掘り出し物といってもいいくらいの好条件の物件だったので、俺の返事を聞かず……返事どころか俺に話を持ってくる前に頭金を入れて抑えてしまったというのだ。


 俺が、金がなければ断ることも……え、金まで貸すって…もう断れない状態で勧めてきている。


 ただでさえ忙しくなってきているのに、俺は退路をふさがれていたこともあって、ありがたくバッカスさんの話を受けた。


 しかし、ここで何をしよう。

 バッカスさんの紹介で手に入れた店に、新たに金をかけたくなければレストランって感じになるが、バッカスさんはそれを狙っているようだが、すぐに開業しなければならないというわけではないので、とりあえず物件の手続きだけ済ませて考えることとなった。


 人も手配しないと、さすがに今いる人員だけでは回せない。


 となると奴隷を新たに増やすしかないけど、そのあたりについても王都で使う人なら一度ドースンさんに声をかけておこう。

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