第83話 新たなサービス
尤も王都にいた時から予約が簡単に取れる訳では無かったので、以前と変わらないだろうが……かわいそうに、ドースンさん。
彼の夢は潰えたようだ。
でも、俺の借りは返したから、何かを言われる筋合いはないよな。
しかし、まだ隣でエリーさんはぶつぶつ言いながら考えているようだけど、大丈夫かな。
流石にこんな大浴場で一人を接客する訳にはいかないだろうし、かといって複数の客を同時になると、それこそ乱交のような状況になるから、あまり紳士的とは言えない。
何より、乱交では高額を取れないだろう。
俺の常識とこの世界の常識が異なるから一概には言えないが、それでも俺としては乱交は嫌だな。
となると個室に風呂を設け、そこでの接客って、それこそ日本の誇るべき文化ではないか。
あ、いや、令和の時代では
イヤイヤ、話を戻すが、個別に風呂となると、一番の問題はお湯だな。
ここが温泉地ならばともかく、そうでなければ水まではどうにかなっても、その水を沸かすとなると、ちょっと工夫がいるか。
まあ、直ぐにでは無いだろうから、俺の店に作る風呂で、工夫でもしてみよう。
それがもし実用に耐えるようなら、それこそ話をもって行って新たな商売のネタにでもできるかもしれない。
俺はエリーさんにお礼を言ってから店に戻った。
あれ、今日も一人でゆっくりとは程遠い風呂だったな。
まあ、気持ちが良かったから良しとしよう。
翌日からガーナにも仕事をしてもらう。
当分は、レンガ作りをしてもらいながら、新たに作る作業場兼浴場の設計からだ。
「ガーナ、今日から働いてもらうよ」
「はい、ご主人様。
で、何をすれば良いのですか」
「ああ、ここにレンガ作りの風呂場を作りたいのだが……」
「あの、以前依頼のあった件ですか」
「ああ、でもあれから事情が変わり、風呂場だけでは済まなくなったので、作業場に風呂場を併設する感じにしたい」
「え、それですと予算が……」
「ああ、あの時には金貨で100枚は下らないと言ってたな」
「あ、それは多分……」
「ああ、あいつのことだ。
相当吹っかけて来たのだろうが、それでも水回りなどを考えるとある程度の金額になるのだろう」
「あ、はい。
でも、私はそういうのは良く分からなくて……」
「それは構わない。
でも、他に頼んでも状況は同じだろう。
相当の出費が掛かりそうだから、今回は俺達だけで作ろうかと考えている。
何より、ちょっと試したいこともあるから、失敗も考えないとな。
それに何より、予算がな。
ガーナの出費がちょっと痛かったかな」
「すみません……」
声が小さく詫びてきた。
「あ、いやいや。
すまん。
どちらにしても、新たな奴隷を購入しようとしていたのだし、金も商売をすれば直ぐに溜まるから気にしないでくれ」
「はい、ありがとうございます」
「その商売だが、前にガーナの両親にも話したが、俺達には秘密が多い。
なので、他に頼みたくない事情もある。
そんな訳で、大変だろうが、俺達だけで作業場を作ろう」
「私はなにを…」
「レンガで作っていくつもりなので、そのレンガから作る。
材料はそこにあるし、その作業をしてほしい」
「ガーナさん。
私がやり方を説明しますから一緒に作りましょう」
「ダーナか。
助かるな。
悪いが頼む。
ナーシャもダーナと一緒に手伝ってくれ。
レンガはいくつあっても足りないくらいだからな。
あ、それにダーナは水抜きの練習もしていてくれ。
失敗は気にするな。
俺も初めはほとんどできなかったから」
「水抜き?
何ですか」
「ああ、そうか。
泥をレンガの型に入れた後、乾かすだろう。
何日も待てないから、アイテムボックスを使ってレンガを乾燥させるんだ」
俺はそう言ってから、実際にダーナの前でレンガから水だけをアイテムボックスに入れるのをしてみせた。
「え、え、どういうことですか」
「ご主人様、今何を…」
え、前にもしていたから今更のような気がするが。
あ、見ていたのは俺の作業に興味を持ったナーシャだけだったか。
なので、ナーシャはみんなが驚いていたことに驚いていた。
「乾燥前のレンガから水だけをアイテムボックスに取り込んだのさ」
そう言ってから、詳しくダーナに説明をして少し作業をさせてみた。
初めはうまくいかなく、俺と同じように、完全に水分を除いて、せっかく型にいれ形にしていたレンガをただの砂状のものにしたところで俺は話した。
「そこまで出来れば、コツは掴んだな。
後は、全部の水分を抜くのではなく、だいたいこれ位の量だけを取り込むんだ。
練習しながらゆっくりと作ってくれ。
俺は、仕事があるからちょっと出かける。
昼には無理だが、今夜はガーナの歓迎会もしよう」
俺はそう言い残して、昨夜頼まれた石鹸を自分のアイテムボックスに移してから向かいの娼館に出掛けた。
娼館では、お姉さん方三人が俺のことを待っていた。
「え、そんなに石鹸が必要でしたのですか?」
「そんな訳ありますか。
それよりも、聞きましたよ」
「は?」
「何です、泡踊りでしたっけ。
あれ、何ですか。
私王都でも聞いたことがありませんよ」
「ええ、そもそもわざわざ娼館に来てまで風呂を楽しむ殿方なんかいませんでしたから」
「でも、あれ。
レイさんとても気持ちよさそうにしていましたよね。
あれサービスに取り入れたら、ものすごく人気が出ませんか。
レイさんもそう思いますよね」
「気持ちが良いかと聞かれたら、どんな男でも口をそろえて『最高』と答えるでしょう」
「ほら、やっぱり」
「でも、ここでの営業は無理だと思いますよ」
「無理?」
「ええ、あの時は広い浴場に二人きりでしたが、営業となると、ここの浴場に一人しかとらないとなると、コストと云うか……、それなら、幾人かいっぺんでとなっても、それこそ乱交になりますし、そう言うのを好む男もいますが普通は嫌がりますしね」
「それなら、あのサービスは諦めないといけないのかしら……」
「このままなら、諦めた方が無難でしょうね。
ですが、別館を一から作るのなら手が無いわけではありません。
尤もその場合でも、超えないといけない課題はありますが」
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