第84話 ジンク村からのお客様
「課題?」
「ええ、娼館として営業するならば、個室が最低の条件です。
その場合、個室ごとに浴槽を設けるとして、課題はお湯の供給ですか」
「あ、そうですね。
今は、魔法で一気に大浴場のお湯を作ってもらっていますが、それでも魔法使いの方数人にお願いしていますし。
それを個室ごととなると……」
「冷えることも考えますと、ちょっと無理ですかね~」
「今、うちに浴場を作ろうとしています。
その際に、いくつか実験をしていくつもりです。
別館の建設を急がないのでしたら、うちの実験が済むまで待ってもらえませんか」
「実験?」
「ええ、お湯の件ですが、魔法使いに頼らずにお湯を作れないかと、アイデアはあるのです。
それを試そうかと考えています」
「あの泡踊りでしたっけ。
諦めるには惜しいですし……良いでしょう。
私からフィットチーネさんに伝えますから、その実験を待ちましょう。
皆もそれで良いよね」
「ええ、でも、レイさん。
浴場を作ったら、ここには来ないの」
「風呂を借りには来ませんが、モリブデンにいる限り毎日でも営業には伺いますから、それで勘弁してください。
うちには、何故かどんどん奴隷の女性が増え、そろそろ貰い湯だけでは申し訳なくて」
「まあ、良いでしょう。
で、その実験はいつ頃になりそうなの」
「すみません。
浴場造りの準備を始めたのが極々最近なもので」
「費用面なら、多少は相談に乗れますよ」
「実際に、その時になりましたらお願いに伺います」
とりあえず、
でも、これなら急ぎ浴場だけでも完成させないとまずいかな。
レンガは作りながらでも良いが、そろそろ間取りだけでも案を固めないとまずい。
俺は店に戻りながら、そう考えていた。
店に戻り、中庭で作業中のガーナ達と合流した。
彼女たちは、俺の指示通り、せっせとレンガを作っていた。
「ただいま」
「おかえりなさい、ご主人様」
最初に返事を返してくれたのはダーナだった。
彼女は俺の教えた通りにレンガから水分を抜く作業を練習しているようだが、うまく行っていないようだった。
少し落ち込んでいるようなので、俺は彼女に『大丈夫だ』とねぎらいの言葉をかけてからみんなを集めた。
みんなと言っても、ナーシャとダーナ、それにガーナの三人だが、直ぐに集まって俺の話を聞く。
「作業を中断させて悪かったな。
先ほど、あそこの
俺はそう切り出してから、先ほどお姉さん方と話した内容を伝えた。
「そういうことだから、ここの作業を急ぐ必要が出て来たからそのつもりで頼む」
「ご主人様。
急ぐのは分かりましたが、間取りはどうしますか」
「そうなんだよな。
間取りも決めていなかったから、今日明日くらいまではレンガ作りに集中するけど、夜に店の皆も集めて、間取りの相談をしよう」
一応ガーナを納得させてから、俺は型に入れてある粘土から水分を抜く作業を始めた。
その様子を一生懸命にダーナは見ている。
どうもまだ一度も成功させていないばかりか、俺が失敗したように完全に水分を抜くことすらできていなかったようだ。
そこで、俺はダーナを近くに呼んでから、一度水分を抜く作業をゆっくりと説明しながら見せてみた。
「良いか、ダーナ。
この粘土には水がいっぱい含まれている。
粘土を乾かすと云うのは粘土に含まれている水分、いわば水だな。
これを取り除いているだけな話だ」
俺はそう言ってから、前に一度失敗したように粘土から完全に水分を抜いて、水を近くにぶちまけた。
バッシャー。
「キャ!」
ダーナは驚いている。
このレンガの型に入っている粘土にはこれだけの水が含まれている。
それを完全に抜くと……
俺はそう言ってから粉になった粘土の成れの果てを見せた。
「これは水を抜き過ぎだな。
完全に抜くと、砂のようになってしまうので、抜く水の量が問題なんだ。
こればかりは慣れてもらうしかないが、まずは完全に抜くことを始めてみると良い」
そう言ってから、ダーナに続きをするように促してから、自分の作業をしていく。
とにかく、乾燥レンガをできるだけ作ることだけに集中していく。
明日からは、簡単に作ってある窯に乾燥レンガを入れて、焼く作業を並行して行う事にしている。
夜には、食事に集まったみんなを前に、先ほど中庭で話した内容を全員に伝えた。
「え、ここにも風呂を作るのですか」
「え、それ、前に言わなかったっけ」
「ええ、ですが、見積もりの金額が合わなくて中止になったものだと思っていたものですから」
「ああ、あの時の話は中止にしたけど、結果から言うと良かったよ」
俺はそう言ってから、あの糞イケメンの話をしてからガーナについても簡単に話した。
「酷い話ですね」
「ガーナさん。
確かに酷い話ですが、そのままその人と所帯を持たなくて良かったじゃないですか。
それにご主人様に拾ってもらえ、かえって幸運だと思いますよ。
私も色々ありましたけど、ご主人様に拾ってもらえてからは幸せいっぱいですから」
「直ぐには切り替えは無理でしょうけど、ゆっくりと考えていけば良いのでは。
それよりも、先ほどの話ですが……」
「ああ、風呂造りの件だが、中庭に俺達だけで作ろうかと考えている。
幸い仲間にガーナが加わったからできない話では無いしな。
今は、中庭で材料のレンガを作っているけど、問題は、作ろうかという建物の間取りについてだ。
皆に相談したかったのは、そのことだ」
その後は、みんなでワイワイガヤガヤ。
流石に女性ばかりで姦しかったが、結構楽しかった。
だが、結論は決まらない。
その日は、とりあえず、みんなにそれぞれに考えてもらうことで、その場を終えた。
数日中に建設にかかれるかと思ったが、結局間取りが決まらずに5日が過ぎた。
そんな感じで時間ばかりが過ぎていたころ、突然に、商業ギルドのあの女性職員が、ガントさんと、数人の子供たちを連れてやってきた。
「え、ガントさん??」
「レイさん。
ジンク村のガントさんがレイさんを訪ねてまいりましたので、ご案内しました」
「あ、なんかお手数をおかけしてすみません」
「いえ、これも仕事ですから」
彼女はちょっと冷たく返してきた。
そう言えば、彼女の上司に当たる主任さんの要望を断ったようなものだったし、俺に対して良い感情を持っていないのかもしれないと、諦め、ガントさんを店の中に入れて、ギルド職員と別れた。
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