第85話 ジンク村の孤児
ガントさんには、連れていた子供たちと一緒に食事テーブルに座らせ、一度落ち着かせてから、話を始めた。
あ、ガントさんにはお茶代わりに酒を出してあるけど、子供たちには水だけだ。
そう言えばこの世界に来てからお茶を見ていない。
無いわけでは無いだろうが、今度探してみよう。
「お久しぶりという感じじゃないですね、ガントさん」
「ああ、あの時ジンク村で別れて以来だからな」
「それで、今日はどのようなご用件で。
ガントさんが私を訪ねて来るなんて初めてなものですから、皆目見当がつかなくて」
「ああ、今日はあんちゃんに頼みがあってな」
「頼みですか?」
「ああ、これも全てあのロクデナシのせいだがな」
ガントさんはそう言ってから話を始めた。
早い話が、ジンク村には時々ドワーフの孤児が生まれるそうだ。
生まれると云うのは語弊があるが、各地で親を亡くしたドワーフの子供たちは、ごくたまにだが、旅する同胞に助けられて、ジンク村に連れて来られるそうだ。
そんなのが集まって村の皆の助けもあり、どうにか生きているのだそうだが、その中でもガーナに
子供たちはガーナと離れたくないとのことで、村でも面倒を見ていたガーナがいなくなり、面倒を見る者の手も足りずに困っていたそうだ。
そこで、ガントさんが、子供たちを連れて俺に頼んでくると言って村を出たのが昨日だ。
で、今日早速ついて、俺のところに来たという。
元々腕の良い親方のガントさんはモリブデンの商業ギルドと顔なじみでもあったので、一度商業ギルドを訪ねて俺のことを聞いたと云うのだ。
「子供たちですか……」
「ああ、子供と言っても、ガーナが面倒を見ていたこともあり、ガーナの手伝いくらいはできる。
村も子供たちの面倒を見る手が足りずに困っているし、頼めないだろうか」
「ほかならぬガントさんの頼みですから、構いませんが、一つだけ心配事が」
「心配事?」
「ええ、私の処は、商売上秘密が多く、そのために従業員は全員が奴隷なんですよ。
まあ、子供たちには、あまり秘密を教えるようなことはしませんが、ここで見知ったことを他に漏らされると少々困ることに」
「ああ、それなら大丈夫だ。
我らドワーフは恩は絶対に裏切らない。
俺からも良く言い聞かせるから、俺が保証する」
「それなら安心ですね。
となると、寝泊まりする場所の確保ですか……
当分はここで雑魚寝になるけど、直ぐに用意するからそれまで待てるか?」
俺は子供の一人に聞いてみた。
一番年長の少年のように見える男の子だ。
彼は力強く「大丈夫です」
すると他の子たちも「屋根壁があるだけで十分に恵まれています」
「外に雑魚寝も覚悟してましたから」
とまで言っているので、当分は問題なさそうだ。
それに作業をするのに人手も増えたのは俺にとっても都合がいい。
子供たちを引き取って、ガントさんと別れてから、店の全員を集めて子供たちを紹介した。
ガーナから一人ずつ名前を呼ばれて紹介していく。
男の子3人と女の子3人の増員だが、どこまで戦力として期待できるか分からない。
「ということで、ここでこの子たちを面倒見ることになりました」
「私からもお願いします。
彼らは私が村で面倒を見ていた子供たちでした。
私がこういうことになってしまい、心配していましたが
幸い、ご主人様も快く引き受けてくれましたので、私ができる限りの面倒を見ますから、どうかここに彼らを置いてください」
「ご主人様が了解しているのなら、私たちに反対などできる筈もありませんよ。
安心してください、ガーナ」
「でも、ご主人様。
あの、私たちって……」
「ああ、秘密が多いと云うことだろう。
子供たちにも話したが、ここで見聞きしたことは一切他での他言はしないと約束してある。
これはガントさんも保証してくれているので、信じることにしているが、子供たちにはできる限り関係ない仕事に就いては触れさせないのでそのつもりでいてくれ」
「え、それって……」
「ああ、仲間外れにしたいんじゃないぞ。
秘密が多いってことは、それを狙われやすいともいえる。
そうでなくともギルドの一部からは目を付けられていそうだしな。
俺達が子供らに秘密を教えなければ、子供たちも襲われる可能性が少なくなると云うものだ。
それでも襲う連中は容赦なく懲らしめるつもりだがな」
結構、強いことを言っているが、果たしてそういう荒事専門の連中を俺らが懲らしめる事が出来るのかどうか。
まあ、ナーシャ辺りならどうにかなりそうだが、そこも含めてより一層レベルを上げて行かないといけないかな。
そろそろ本格的に魔法も覚えたいし、魔法使いの奴隷なんか安く手に入らないかな。
その後は、子供たちの処遇について話し合った。
とにかく当分は、この食堂スペースで雑魚寝になるのはやむを得ないが、部屋をどうにかしないといけない。
そういう事なので、これから作る浴場兼作業場に子供たちの生活スペースを作ることで、間取りが決まった。
あれほど決まらなかった間取りが、ひょんなきっかけであっさり決まったのには驚いたが、明日からレンガを使って実際にその間取りで浴場兼作業場を作ることになった。
その日は、子供たちの歓迎の意味も込めちょっとしたご馳走をふるまった。
久しぶりに、唐揚げも作り、ポテトフライまでも作ってみた。
子供たちは、初めての味に最初はおっかなびっくりだったが口に入れてみると、気に入ったのか涙を流しながらたくさん食べていた。
子供たちの笑顔やうれし泣きの姿って癒される。
まあ、もうほとんど大人と変わりない年齢に達しているので、この辺りでしっかり技術を身に付ければ独り立ちできそうなのだが、そういう意味でもガーナが面倒を見ていたのだろう。
翌日、子供たちには粘土からレンガを作る作業をしてもらう。
男の子には窯の面倒も見てもらい、一挙に作業が捗る。
ダーナも時々失敗はするが水抜きもできるようになってきているので、その辺りを任せて、俺は建築現場で基礎工事を始めた。
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