第207話 王都の噂
伯爵から聞かされた状況ではすぐにどうにかなるわけでもないらしい。
いきなり令状を持った官憲が俺の元に来てからの家宅捜査などは無いと聞いた。
しかし、いい加減どうにかならないかな。
今まで使った分だけでもお金を返してもらえるのならば今すぐにでも領地を返しても良いけど、俺が領地を返納すれば港も元の様 になるだけなのだが、そのあたりを理解しているのだろうか……いや、理解していれば俺を追い出すようなことはしないはずだと思うが、貴族の人たちの考えなど令和日本の社畜にはわかりそうにない。
要らない仕事を無理やりこさえるのなんか自殺行為以外にないし、そんなことは俺なら死んでもお断りだ。
いっそのこと宰相にでものし付けて返してしまおうか。
……いや、先の伯爵の弁ではそれが許されそうにないな。
今では俺も立派な伯爵の派閥に属するようだし、派閥の弱体につながる行為は許してもらえそうにない。
結局伯爵の呼び出しは現状の説明と、それを聞いた俺が王都で暴走などしないように釘を刺してきただけのようだ。
すぐにどうこうなる問題でもないらしいし、元々から侯爵率いる派閥から無理筋を言い建てられているだけの話で、伯爵としてもいい加減面倒を感じているらしい。
でも、流石に派閥の長でもあるだけのことはあり、いくら面倒だとしても派閥内の面倒は最後まで見てくれるらしく、今派閥内の引き締めを行っているとか。
そういう意味でも今度開かれるパーティーは重要な政治の舞台になる。
尤も俺には料理以外には何も望まれてはいないが、それでも面倒を見てくれるらしいことを聞いたら俺は伯爵邸から解放された。
店に戻ると王都に残って色々と調べてもらっているエリーさんが戻ってきた。
「レイ様、おかえりなさい」
「あ、エリーさん。
出かけていたの?」
「ええ、レイ様の件で昔の知り合いにあってまいりました。
しかし、とんでもないことになっておりますね」
「とんでもない?
何それ、少し怖いんだけど」
「ええ、侯爵様はレイ様の領地にある港の権益をよほど欲しているようですね」
「権益、なんだよ。
そんなものなんかあったのか」
「いえ、私も直接領地で拝見しておりますので、存じておりますが、噂は怖いものなんですよ」
エリーさんはこう切り出してから色々と調べてきたことを俺に教えてくれた。
それによると、俺の拝領した領地は、当初とんでもないくらい荒れているとされており、力を持つ貴族たちは自分らにそれらが押し付けられることを恐れていた節がある。
俺がその領地を拝領した直後からは、貧乏くじを俺が引いたと王都中に噂がなされていたとか。
確かにお国入りした時には、俺でもそう思ったよ。
あの宰相はとんでもないものを俺に押し付けてきたものだと。
だから俺は頑張った。
本当によく頑張ったと俺自身をほめたい。
少なくとも、俺がお国入りした後は、俺の知る限り流行り病で死んだ者は出ていない。
あの後の流行り病の発症も聞いていないので、お国入りした直後からの活動が良かったと今でもそう思っているから。
だが、状況が落ち着くと新たな問題は見えてくるものだ。
食べ物が無かった。
あのままにして置いたら、流行り病での被害以上に餓死者が出たことだろう。
そういう意味では、俺の持つ人脈は大したものだと。
あ、その人脈ができたのも病気治療からだから、俺の現状があるのもそのためだった。
なまじスケベ心を出して美人エルフを助けるためにしたことが、結果とんでもないことになったものだ。
幸い、俺の領地には港があったので、すぐに外国から食料を運び込めたのだが……あ、そう言うことか。
商業連合からの食糧の緊急輸入が、モリブデンや他から見たら急に港が活況を取り戻したように思えたのだろう。
エリーさんの説明でもそのようなことを言っている。
「今の説明を聞くと、もし俺があそこを離れたらダメだろう」
「ええ、そうなりますね。
何せ、前領主の時代では酷かったですから」
「そのようだな。
港はかなりいいつくりだったのに、もったいないよな。
尤もそのおかげで俺が楽に使わせてもらっているが」
「ええ、そうですね。
それだけは幸いでしたね」
「前の領主に戻すにしろ、他をあてるにしろどうにかなるかと思うか?」
「いえ、どうにかなるようでしたら、レイ様にあそこを任すようなことにはならなかったでしょうね」
「流行り病が落ち着いてもか」
「ええ、そもそもその流行り病も領民の暮らしが酷かったために起きたようなところがありますからね」
エリーさんが領地に出向いた時に仕事を手伝ってもらっていたので、領地の状況についてはしっかりと把握している。
前の領主が悪政を敷いたために、ちょっとしたことから瞬く間に病気が蔓延したことを正確に理解している。
俺が、病気対策で色々と施行したことで、どうにか病だけは落ち着かせたが、食糧事情が改善しない限りあそこの運営は無理だ。
「とにかく、住民がいないことには食糧事情が改善されませんね」
「そう言うことか。
確かに、今の住民だけでは港の維持だけでもいっぱいだしな」
「ええ、付近の村も潰しましたし、食料は当分他からの輸入に頼らないと無理ですね」
「それを侯爵が行いたいと?」
「いえ、それは無いでしょう。
今の繁栄をそのままご自身の手のものにとでも考えておられるような。
そんなうわさがしきりに王都を賑わせております」
「もし、俺があそこを離れたら……」
「一月もしないで、領民に餓死者が出ますね。
その前に次の領主は逃げ出すでしょうが」
「は~~~」
「ご安心ください。
そのあたりについても宰相は薄々ですが存じているようです。
今のところ侯爵からの申し出を無視しておりますから」
「今のところ俺が逃げ出すわけにもいかないと」
「そうですね。
そうなりますか。
ですが、私も聞きましたよ。
レイ様は、あそこで色々となさっておられるとか。
それを捨ててまであそこを離れるようなことは……」
「俺がしているのは、食糧確保のための銭稼ぎだ。
そもそも、食糧事情がというか俺が領地を失うようならそう言うのもいらなくなるしな。
まあ、最悪外国にでも逃げるか」
「もし、そのような時には当然私たちもお連れくださいますよね」
「俺に付いてきてくれるのならば、船でも用意して連れていくよ」
「船ですか……なら、逃げるときには一番で王都から離れませんといけませんね」
「ああ、置いていくようなことはしないよ。
それにアイテムボックス通信があるから俺の逃げ先もすぐにわかるだろう。
安全に逃げられる算段をしてからだから安心してくれ」
「逃げることが前提なのが、気になりますが今は良いでしょう」
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