第206話 伯爵邸からのお呼び出し

 だが、あまりゆっくりともできない。

 まずはあいさつ回りからだが、さっそく目の前の店からバッカスさんがおいでになった。


「レイさんが戻ってきたようだが」


「あ、これから挨拶に向かおうかと思っていましたのに、バッカスさん」


「それよりも、レイさんや。

 あんた何をやらかしたのかな」


「え?

 どういうことですか」


 俺がバッカスさんにいきさつを訊こうとしたところでエリーさんが店に戻ってきた。


「レイ様、お帰りなさい」


「え?

 なんでここに至宝の一人が……」


「だって、私はレイ様のものですから」


「レ、レ、レイさんや。

 どういうことだ」


 俺がなんと説明したらよいか迷っていたら、あっさりとエリーさんが爆弾を落としながら説明していく。


「レイ様が領地持ちの貴族になられましたので、私たちもレイ様に付いて領地に行こうかと思いまして、身請けしていただきましたのよ」


「そ、そ、そんなことが可能なのか」


「可能かどうかと訊かれましても、いつの間にか外堀も埋められておりまして、時機を見て妃にでもと」


「いえ、それは前にも話しましたが、私たちは側室にだって不相応ですが、レイ様の意を汲んで側室にしていただきたいかと」


「ということらしい」


「しかし、身請けするにしても相当な金額が……」


「貴族になったこともありますし、そのあたりについては一応コメントを控えておりますが」


「まあ、そうだよな。

 こんなことが知れ渡れば大変なことに……あ、大変な事ついでだが、王都でなにやら怪しげな噂が……」


「シーボーギウムへの荷止めのことですか」


「ああ、そんなこともあったけど、レイ様の不正がどうとか」


「へ?

 なんだ、その不正って」


「そのことですが、私も情報を仕入れてまいりました。

 領地運営で不正があったとかで侯爵家が王宮に訴えているとか」


「どの部分に不正があったのかまでは分かるかな」


「いえ、旧領主から金品を奪ったとからしいのですが」


「は~?」


「今のシーボーギウムの港の活況からは、相当な金額が動いているはずだとかで、王宮に調査の必要性を訴えているとかで」


「もし、王宮からの調査が来ても、まともに調べられるのかな。

 こういう場合、結果ありきのような気がするのだけれど」


「貴族の派閥争い中ですから、普通ではそうなりますね。

 ですが、レイ様の場合、宰相閣下の意向もありますから、宰相閣下の手のものが調べるのでは」


「それって、まともに調べられると困るのは前の領主たちではないかな。

 バトラーさんも相当こぼしていたことだしね」


「ですが、どちらにしてもそのままとはいきませんね」


 確かに、しかし敵さんはとんでもないことを言い始めたようだ。

 横領だっけか。

 これって、真剣に調べられると少なくとも前領主はまずかろうに。

 それに、前領主とつながる貴族だって無事でいられることも無いだろうが、そのあたりについて侯爵は、自分たちで調査団を派遣するつもりのようだが、果たしてそれは可能なのか。


 もし、可能だとしたら少なくとも宰相辺りもグルでないとできない話だ。

 そもそもそんなに惜しい領地ならば俺に与えることなどせずに自分たちでどうにかしていればよかったんだよ。


 別に俺から欲しいと言ったわけでもないし、考えてきたらどんどん腹が立ってきた。


「ああ、一応挨拶を兼ねて伯爵様を訪ねてみるよ。

 悪いが、先触れを出しておいてください」


 王都の店から先触れを出したらすぐに来いということなので、俺は急ぎ伯爵邸に向かった。

 屋敷に着くと家宰が俺を伯爵の書斎に案内して、面談が始まる。

 貴族にありがちな面倒な挨拶など全てすっ飛ばしていきなり本題を切り出された。

 これには正直ありがたいが、あまり王都の状況はよろしくないらしい。


「早速で悪いが、侯爵もいい加減限度を知らないらしい」


「限度ですか」


「ああ、男爵に横領の嫌疑をかけているようだ」


「それって、正直身に覚えが無いのですが、理由は分かりますか」


「ああ、男爵領が魅力的に見えるらしい」


「魅力的? ありえないでしょう。

 お国入りした時にはほとんど壊滅状態でしたよ」


「ああ、そうらしいな。

 それは以前男爵から聞いているが、それでも最近はそうでもないのだろう」


「ええ、やっとですが落ち着いた感じですかね」


「侯爵は港が活況なのをどこからか聞いたようで、それを欲しくて仕方がないとか」


「え?

 あそこが欲しいのならば私に渡される前に、ご自身でどうにかできたでしょう。

 侯爵様くらいになればいくらでもやりようがあったように思いますが」


「確かにな。

 だが、男爵に領地を下賜された時には、王宮内では皆男爵が貧乏くじを引かされたと噂していたくらいだから、侯爵も同じだったのだろう」


「え?

 伯爵様。

 なんですか、その貧乏くじって」


「疫病で壊滅した領地を誰も引き受けたくはない。

 病気治療に詳しい男爵だからこそ、落ち着くこともできたのだと私は思うが、どうもそれが侯爵には気に入らないらしくてな」


「それで私に横領の罪ですか。

 そもそも、何を横領すればそうなるのですか。

 正直あそこにはお金になるものなんぞ何もなかったようですがね」


「ああ、奴隷にできる領民までもが王都まで連れてこられたしな。

 だが、そこが侯爵だ。

 かなり無理をして男爵を貶めたいようだ」


「私は何をすれば……」


「とりあえず目立つことだけはしないでほしい。

 後は、まずは私の所で開くパーティーだな。

 その席に、モリブデン領の領主である辺境伯も招待している。

 そこでの話し合いになるが、すぐにどうこうなるものでもない」


「わかりました、伯爵。

 それで、そのパーティーに向け私の方で何かすることはありますか」


「いや、ああ、そうだ。

 料理のレシピの件だが、あれは助かる。

 それくらいしかないので、おとなしく王都で待っていてほしい」


「わかりました。

 パーティーまで時間もありませんし、モリブデンにも行けませんしね。

 領地に戻りたいとは思いますが、時間が足りませんのでとりあえずおとなしくしておきます」


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