第205話 モリブデンの太陽は黄色かった

 


「レイ男爵。

 まず、大前提なのですがモリブデンは港町です。

 その港を止めるようなバカげたことはありえません」


「ギルド長。

 俺のところからの船に絞ればできるのではないか」


「いえ、それも無理でしょう。

 何せ、船の船籍など自己申告ですから意味がありませんし、何より商業連合や諸国連合の船がここを利用して男爵領まで行くようならば、意味をなさないでしょう。

 そんなことは領主様だけでなく、港で生活するものならば誰もが知るところです」


「ということらしい、ペンネさん」


「そうですか、せっかくの商売チャンスと思ったのですが」


「いえ、私どもの港は閉じておりませんので、いくらでもお越しください。

 尤も、まだ復興中ですので食料や日常品以外では取引があるか怪しいですが」


「それでも、魔物の素材などはかなりあると聞いておりますよ」


「ええ、現在それくらいしか売り物は無いので。

 そのうち農産品や、工芸品など売り物が増えればいいのですがね」


 そこから、ギルド長を含めて交易に関しての話し合いがもたれた。

 ギルド長としても、新たな市場として俺の領地を見ていたようで、そのうち相談したいと考えていたようだ。

 今回ちょうど良いとばかりに、相談してきた。

 また、同席しているペンネさんもそれに一枚も二枚も加わりたいと話に割り込んでくる。


 本当にこの時代の商人はたくましい。


 今は、魔物の素材くらいだが、そのうち扱い商品が増えれば港からの貿易も盛んになりそうな気がする。

 ますますやる気になってきたのだが、横で聞いていたサリーさんが横から俺をつついて来る。

 これ以上無理をするなと言うことらしい。

 でも、そのうち黒板やチョークは大々的に売り出すことになりそうなのだが、ひょっとしなくとも、モリブデンよりも先に商業連合だけで売り物が無くなるかもしれない。


 これもすべては前の領主や、その取り巻きのせいだと文句がきたらそう言いふらそう。


 それくらいならば意趣返しをしても許されるだろう。


 最後に、モリブデンの領主が王都に出るときにギルド長もご一緒するけど、俺もどうかと誘われた。

 来週の出発らしいが、流石に俺はその場で断り、急ぎ店に戻った。


 店に戻り、サリーさんたちとの会合を持った。

 ガントさんは、俺からの依頼もあり王都にいたままなので、風呂の工事関連については現場を監督してくれているメイドたちにでも聞くことにした。

 それで、とりあえず商売関連の現状の確認からだ。


「それで、現状ではどんな感じなのかな」


「ええ、それほど変化はありませんね。

 相変わらず娼館向けでの酒類の販売の他につまみ関連は急激な需要増はありませんが、それでも順調に伸びてきてはおります」


「大丈夫か、人の方は」


「はい、私たちが慣れてきたこともあるので今のところは……ですが、ギルドからは他にも販売先を増やしたらとの提案もありますが」


「え?

 さっき会った時には、そんなことは聞かなかったけど、どう思いますかサリーさん」


「ええ、先ほどお会いしたのがギルド長ですからそうなんでしょうね。

 もし、受付にでも行けばきっとすごいことになっていたかもしれませんよ」


「そういうものかな。

 あ、でも増やさないでいいからね。

 人の都合がつかないしね」


「また、奴隷でも使うご予定は……」


「その奴隷に当てが無いんだよ。

 今も、領地向けで人が足りないから頼んではいるが、なかなかね~」


「それで、レイ様はいつまでモリブデンに」


「明日にでも、王都に戻らないとまずいかな」


「明日ですか」


「ああ、あまりゆっくりとできなくて済まん」


「レイ様は王都で伯爵様がお待ちですから」


「サリー様。

 それはどういうことで」


「ああ、せっかくだから俺の置かれている現状をここで共有しておきたい」


 俺はそう言ってから、今まであったことを簡単にみんなに説明した後、この後王都で開かれる伯爵様のパーティーの件も伝えた。


「そうですか、レイ様も色々となさるから」


 モリブデンの店を任せているマイやユキからは色々と言われたのだが、既にこれは領地であるシーボーギウムや王都の店でも言われていることで耳にタコができるくらいだ。


「レイ様。

 私の話を聞いていましたか」


「ああ、済まないな、マイ。

 同じことを王都でも、領地でも聞かされていたのでいいささか……」


「私の話が右から左にと」


「あ、いや、そう言う訳ではないのだが。

 だが、言い訳をするわけではないが、俺のせいばかりでは無いぞ」


「いえ、レイ様は広げすぎです」


「だが、領地を放りだせる訳ないしな」


「ええ、ですが……」


「知っているかもしれないが、王都の店はもう閉じることはできないぞ。

 それに、ここもだ。

 お姉さん方の開いた娼館を閉じることができれば、一緒に閉じて領地にでもと考えなかったわけではないが、無理なことくらいはみんなも理解できるだろう」


「ええ、そうですね……」


「それに、ここモリブデンには今までさんざん世話になったフィットチーネさんもいるしね。

 一度、俺の領地に誘ったことがあるが、あっさりと断られたよ。

 まあ、こことシーボーギウムとでは町の規模が違うしな」


「わかりました、もういいです。

 それ以外に何かありますか」


「いや俺の方からは……」


「では、少し早いですが店を閉じますので、お待ちください」


 どうも俺が明日王都に出かけると聞いた時から店を早じまいすることを決めていたようで、この後何をするかというと……


 翌日も太陽が黄色かった。


 王都には、モリブデンに帰る時と同じメンバーで向かった。

 この旅も急いだおかげで、行きと同じように3日で王都の到着した。


 まあ、俺の行動はアイテムボックス通信で王都にもモリブデンにも筒抜けであったので、別に驚かれることなく店に入った。


「おかえりなさいませ、レイ様」

 早速店主のカトリーヌから挨拶された。


「何か変わったことは?」


「いえ、別に」


 そりゃそうだよな。

 行くのに3日帰りも3日で向こうに1日しかいなかったことだし、10日もかかっていない。

 何より、ここを出た時も、緊急なことは無かったし、もし何かあればそれこそアイテムボックス通信で知らせてきたはずだ。


 俺がモリブデンに向かった時のように。

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