第122話 病院事業へ参入か

 

「そうですね。

 もしも、『生き腐れ』病が治れば画期的なことですし、騒ぎにもなるでしょう。

 レイさんの云われる古老の治療法も簡単に教えてしまう訳にもいかないでしょうし」


「そうですね。

 それこそ大商いに繋がるでしょうから、簡単に漏らしてもいい話ではないでしょう」


「どうでしょうか。

 もしも治るようならば、治療法を使った治療院でも作られてはいかがでしょうか。

 もちろん私も出資しますし、いや、出資させてください。

 一緒に治療院を作りましょう」


 なんだか、話が大ごとになっていく。

 しかし、先にも考えたのだが、この世界では病が一番怖い。

 特に不治の病でもある『生き腐れ』病は船乗りが多く集うこの町では大して珍しくもなく、また、そのために多くの船乗りが死んでもいるだけに、関心度が高い。


 フィットチーネさんと顔見知りでもある海外の商人さんも同様で、いや、船で外国との商いをしているだけに自分も罹病のリスクを抱えているだけに本当に食いつき度が違う。


 まあ、自分の命すらかかっているだけに治療のできるところを確保しておきたい気持ちはよくわかる。

 あれよあれよということで、治療院の話が具体的になっていく。


 俺は、この世界の常識という面でははっきり言って自信が無いのだが、病気の治療に関しては教会などの宗教勢力が絡んでこないか正直不安があった

 そのあたりを聞いてみると、この国ではそれほど宗教勢力が政治に絡んできていないらしい。


 なので、闇の治療をしていたとしても神敵認定されての襲撃や拘束などは無いらしい。

 病気を含めて、すべては自己責任だとか。

 まあ、この辺りを治めている貴族がいるので、治安維持のために最低限のことはしているから、明らかに詐欺行為は官憲につかまることもあるらしい。


 絶対捕まると言う訳ではないので、正直怖いところではあるが、これはどこの国でも同じようだ。


 教会など宗教勢力としての、治療行為などについては、ヒールや聖水などを使うらしいのだが、先に説明した通り、どれも病気にはいまいち決め手を欠いているらしい。

 また、そのヒール魔法の使い手は当然教会関係者に多くいるが、教会関係者である神官も多数冒険者として活躍しているので、別に治療のためだけに教会に来るわけでもないらしく、そこらじゅうの路地で怪しげな治療でもとがめられることは少ないらしい。


 治療の話に戻すが、詐欺まがいで貴族にでも目をつけられれば色々とあるだろうと言われるが、船乗り相手でしかも治療実績があるようならば問題ないと言っていた。


 俺も話し合いの場に入るが、治療院建設の方向でどんどん話が進んでいく。

 あまりにものすごい熱量だったので、俺が二人を落ち着かせ、とにかく俺の所にいる三人の様子を見てからということで、この場を収めた。


 俺がこれ以上に商売を広げるわけにもいかないだろうが、かといって他の人が治療できるはずもない。

 いや、治療は簡単で、とにかく必要な栄養を取らせればいいだけなので、問題は診断の方だ。


 これは鑑定魔法の使える者が必要だ。

 どうせ、治療院も俺が面倒を見る羽目になりそうなのだから、そのあたりもおいおい考えていく。


 とにかく、その日の打ち合わせで治療院をモリブデンに作ることまでもが、決まった。


 あれ?

 様子を見てからではなかったっけか。


 どうも、件の商人は待てなかったらしい。

 まあ、目の前に大きな商機がぶら下がっていればまともなあきんどは指をくわえて待つことなどできないことは理解できるが、それでも俺としてはもう少し待ってほしかった。

 特に俺の気持ちというか、俺の仕事の都合の面での話ではあるが。


 一度店に戻り、彼女たちの様子を面倒を任せているマリアンヌに聞いてみた。

「彼女たちはご主人様の用意してくださったご飯をおいしそうに食べてから、ご主人様の指示通り隅で横になっております。

 寝ている者もいるでしょうが、起きている者だけでも呼んでまいりましょうか」


「いや、それほど広い屋敷じゃなるまいし、隣にいるのだろう。

 俺の方が行ってみるよ。

 今日はありがとうな」


 俺は店番をしていたマリアンヌにお礼を言ってから風呂場の上に向かった。


 マリアンヌが言うように彼女たちは隅で寝かされている。

 俺の指示通り、店で販売している畳マットを並べて敷いてその上にそのまま横になって気持ちよさそうに寝ている。


 うん、一応畳を敷いているからまだよいとしても、病人の寝床じゃないな。

 そういえば、この世界でベッドは見たけど、ベッドマットは見たことがない。

 一応何かを敷いているが、硬いことには変わりがない。

 固い寝床は健康に良いと聞いたことはあるけど、限度というものもあるだろう。

 何より病院でも床のように固いベッドなどありえないし、この辺りについても考えないとまずそうだ。


 彼女たちは相当疲れていたのか、気持ちよさそうに寝ている。

 こんなに騒がしい食堂の隅で、しかも床のように固い寝床では気持ちの良い筈はないのだが、そのあたりについてどうにかしないといけないかな。

 俺の寝床の改善にもつながることだし、畳マット辺りを改良して考えよう。


 そんなことを考えながら、俺は食堂を出た。


 ナターシャたちが暇そうにしていたこともあり、彼女たちを連れて祭りの会場でもある港にもう一度向かった。


 港は既に祭り一色で、非常ににぎやかだった。

 で店も多く出ていたが、そのほとんどがモリブデンの食堂などからの食べ物屋ばかりだ。

 買い食いなどしながら回ったこともあり楽しかったし、何より警護として連れているナターシャやダーナたちからは感謝された。


 美人を二人も侍らしての祭りなんか、前の世界では考えられないくらいの贅沢だ。

 もうご褒美以外にないだろう。

 この後店に戻れば風呂や寝床で楽しめる訳でもあるし、先ほど寝床の改善に努めようとしていた決意など簡単にどこかに行ってしまった。


 この国以外からも多くの商人が出店などをして、他の国の産物も売っていた。


 俺は、酒などで面白いものでもあればとついでに見て回ったが、すでに王都でも見たことのある物ばかりだった。


 酒は保存がきくし、値段も自由にできるという性質上、交易品の代表格になる。

 当然王都では、主だった交易品は集まるので、俺はこの市では掘り出し物を見つけることはかなわなかった。


 帰ろうかというときに、綿を大量に売っている出店を見つけた。

 布団を作るにはちょうど良いかと、買えるだけの綿をその場で買い求めて店に帰った。

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