第121話 三人の治療

 

 そんな彼女たちをマリアンヌやメイドたちが風呂に連れていき、石鹸を使いながら体を洗っていったそうだ。


 俺がフィットチーネさんと立ち話を終えて中に戻ったら、ちょうど彼女たちが風呂に向かったばかりだとか。


 俺は、ナーシャとダーナと一緒に彼女たちが風呂に行っている間に治療の準備を始めた。 

 アポーの実をすりつぶして、その中に前に森で見つけたケシの実をこれもすりつぶして入れた。

 多分ケシの実で合っているはずだ。

 俺の鑑定先生がそう呼んでいたから、食べられるし、味もケシで間違えないと思われる。

 七味に入っているものだから、うどんなどで食べればおいしく頂けるはずなのだが、栄養価の高いものですぐに用意できるのは、過去に実績のあるアポーの実だけなのでそれとあわせて食べさせる。

 甘いリンゴに七味…いや、六味は除かれるから一味になってしまうが、トウガラシの一味でないので大丈夫だろう。

 味はおいしい筈はないが、この際我慢だ。


 彼女たち向けの食事の準備ができたころになってやっと三人は風呂から出てきた。

 さすがに汚い服をまた着せる訳にもいかず、今店の者が古着屋に向かっているが、間に合わなかったようだ。

 大きめの布で体を包んだ状態で俺の前に来た。

 栄養状態がよくそれなりに女性らしく肉がついていたのなら、これ以上に無い拷問になるのだろうが、幸いなことに今の彼女たちにはそれほどの性的な魅力を感じない。

 ガリガリすぎるのだ。

 少し痛々しくも感じた。


 俺は、彼女たちにこの後のことについて説明を始めた。

「君たちの病については聞いているが、君たち自身は知っているのか」

 俺が問いかけると、三人とも力なく頷いてきた。


「なら、話が早い。

 俺は君たちの病の治療法を知っている」

 三人が全員俺の言葉を聞いて驚いていた。

 驚いてはいるが信じてもいない様子。

 これも後で聞いた話だが、この時代では脚気は死に至る病で魔法でも治らないらしい。

 というか、病気のほとんどが治らないらしい。

 病気の治療は自然治癒に頼るしかなく、自然に治るかサヨナラの二択だとか。

 ヒールという治療魔法はあるのだが、はっきり言ってこのヒールってそれほど万能ではない。

 どちらかというと外科治療というか、とにかく怪我が治る程度で、病気には無力だそうだ。

 病気には、まれに状態異常からの回復魔法が利くこともあるそうだが、この世界の治療がよくわからない。

 薬としてポーションなどもあるようだが、これも効いたり効かなかったりで、とにかく病気は難しいらしい。


 その中で特にこの『生き腐れ』は不治の病に属するようだ。

 ちなみに、脚気は船乗りの間でも珍しい病気に当たるようで、同じ病にされてはいるが別の船乗りの職業病でもある壊血病もあるが、これまた不治の病扱いだそうだ。


 まあ当たり前で、脚気も壊血病も一緒くたに『生き腐れ』病としてあつかわれているのだから、そのせいなのかは定かではないが、とにかく病気にはほとんど治療がされてこなかったようだ。


 この話を聞いて、俺は背中が寒くなるのを感じた。

 おちおち風邪もひけない世界に来たもんだ。


 尤も令和の世界でも風邪の特効薬など存在しないのだが、そういえば令和の世界ではその風邪の一つになるコロナ何とかとかいうものの治療薬を作るのだとか言っていたけどできたのかな。

 小さなころから風邪の特効薬などできないと聞かされて育った俺には無駄な努力のような気がしてならないが、俺には関係ないか。


 こちらの世界でも令和同様風邪には対症療法しかないが、その対処の仕方が確立されていないから問題だ。

 できるだけ早い段階で解熱薬くらいは作っておこう。

 それと、ペニシリンくらいはどうにかなるか。


 話を戻して『生き腐れ』病の内で脚気はビタミンB何某が不足だったはずだから七味唐辛子を作れればと採取していたケシの実を食べてもらえば治るはずだ。

 うちの鑑定先生も治療が可能って言っていたし、とにかく栄養をたくさん取って清潔に保てば他の病気にもかからないだろう。

 とにかく今の状態では他の病に感染が一番怖い。


 そのあたりについて非常に簡単ではあるが説明してから、まずそうなアポーのすりおろしケシの実入りを食べさせた。


 そうこうしているうちに古着を買い出しに行っていたものが戻ってきたので、食事を終えたものから買ってきた古着に着替えさせた。

 正直古着も洗ってから着せたかったのだが、あとでそのあたりどうにかしたい。


 俺が美女たちの生着替えをにやけながら見ていると、フィットチーネさんが先に港で分かれた奴隷商を連れてやってきた。


 店の外から俺をフィットチーネさんが呼んでいる。


 呼ばれて外に出ていくと、フィットチーネさんは馬車の中に先ほど会ったばかりの奴隷商を連れていた。


 この後フィットチーネさんの店で話がしたいそうだというので、俺も一緒に馬車でフィットチーネさんの店に向かった。


 店の中に入り、応接に通されるとすぐに先ほどあった奴隷商に病気のことを聞かれた。


「『生き腐れ』病ですか。

 『生き腐れ』病とは呼ばれてはいませんでしたが、同じ様な病は私がいた村にもありました。

 とても珍しい病らしく、私自身は見たことが無いのですが、村の古老の話では治ると聞いておりました。

 もっとも、私の記憶もところどころ抜けておりますので、色々と怪しくはありますが……」


 とにかく、それなりのストーリーをすぐにでっち上げて説明しておく。

 これ、覚えておかないと後々つじつまが合わなくなりそうなので、古老より聞いた治療法として覚えておく。


「その治療であの『生き腐れ』病が治るというのですか」

「わかりませんが、試してみる価値があったので彼女たちに試そうと思い、フィットチーネさんに声をかけてもらいました」


「もし、もしですが、その治療法を教えてもらう訳には……」

「まだ、治ると決まったわけではありませんし……」

 意味ありげに俺は言葉を濁した。

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