第37話 ダーナのスキル

「ダーナ。

 どうも今までしていた治療の効果が出始めてきたようだな。

 一部だが、魔法経路って言えばいいのか、それが繋がってきたようなんだ」


「そ、それはどういう……」


「どうも、魔法が使えるようになってきたと言うんじゃないかな。

 少なくとも、使用ができなかったアイテムボックスが使えるようだぞ」


「ええ~~。

 ほ、本当ですか」


「ああ、あくまでも俺のスキルではそうなっている。

 少し練習してみるか。

 俺も最初はうまく使いこなせなくてな」


「是非、お願いします。

 私はどうすればいいのですか」


 俺はアポーの実をアイテムボックスから取り出して、ダーナの目の前でもう一度アイテムボックスに仕舞った。


「今のを見たよな。

 アポーの実を自分の中に仕舞うという感覚よりも、取り込むっていう感じかな。

 こればかりは感覚なんでやってみないと分からないかとは思うが、ダーナもやってみようか」


 俺はそう言ってから、もう一度アイテムボックスからアポーの実を一つ取り出して、ダーナに渡した。


「これを、自分の中に取り込む感覚ですか」


 ダーナはしばらく色々と工夫を凝らしながら何やら始めた。


「直ぐには使えなくとも、ダーナはアイテムボックスというスキルが使えるようになったんだ。

 焦らずに練習してみると良い」


「はい、ご主人様」


 流石に今日は色々と有った。

 一番はやはり、初物を頂いたということか。

 俺の初物はあのお姉さん方に食べてもらったが、俺が初めて初物食いをしたわけだ。

 正直、張り切り過ぎたきらいはあったが、それでもがっつかずできたので、俺の中では満点をあげたい。

 それに、俺のアイテムボックスの新たな機能には驚いた。

 入れたものを俺の知る範囲で分解できるという機能だ。

 これはものすごく便利な機能だ。

 海で、海水を取り込んでから塩を取り出すだけで商売ができる。

 いきなりモリブデンで塩の商いをするにはトラブルを呼び込みそうだが、上質な塩が手に入れる算段が付いたわけだし、王都で少しならば売りさばいてもさほど問題にもされないだろう。

 なら、王都で何か仕入れてモリブデンで売りさばき、海に寄ってから王都で塩を売る商売で当分は稼げそうだ。

 まあ、とにかく方針としては当分の間はモリブデンと王都を行き来して商いをしていく。

 商いの方針が決まったことで安心できたのが良かったのか、急に眠たくなってきた。

 色々と今日もあったしな。


「ナーシャ。

 今日も夜営だが、少し疲れたので、先に寝たい」


「ご主人様?

 任せてください。

 火の番は私がしますから」


「ああ、だが順番ですることだ。

 3時間ばかりしたら起こしてくれ。

 私が代わるから」


「いえ、私もいますし、ナーシャさんと交代で番をしますからご主人様はゆっくりお眠りください。

 こういう事は奴隷の仕事です」


「え、そうなの、ダーナ」


 ナーシャも知らなかったようだ。

 そういえばダーナの方が年上だし、当然冤罪になる前はそれなりに仕事をしていて経験もあるのだろう。


「なら二人に任せるから、とにかく交代でな。

 それに何かあったらすぐに起こしてくれな」


「「はい、わかりました」」


 翌日は午前中にジンクの町を寄らずに通り過ぎ、まだ日のあるうちにモリブデンに着くことができた。

 俺は門を過ぎると、そのままフィットチーネさんの屋敷に向かう。

 しかし、本当にこの人は分からない。

 フィットチーネさんの執事であるバトラーさんは俺がお屋敷に着く前から門の外に出ており、俺たちを待っていた。


「おかえりなさいませ、レイ様。

 直ぐにご主人様のところにご案内いたします」


 どういう仕組みかは分からないが、本当に気持ちの良い位にできる人だ。

 俺はバトラーさんについて奴隷を連れてフィットチーネさんの執務室に向かった。


「おかえりなさい、レイさん。

 ちょうど先ほどですよ。

 王都のドースンさんから至急便の便りを貰ったばかりなんです。

 まだ内容を確かめていませんが、何かご存じですか」


 俺は、フィットチーネさんにドースンさんから預かった手紙を渡しながら簡単に経緯を説明した。

 フィットチーネさんは「失礼します」とことわってから俺から受け取った手紙の中身を確認してから、至急便の方も確認していた。


「ふ~~」


 何故だか、フィットチーネさんは大きくため息をついて困ったような顔をしている。


「どうしましたか、フィットチーネさん」


「ええ、ドースンさんからの頼み事はよくわかりました。

 私が王都を出る時にもそうとしつこく私に言ってきた話ですし、頼みごとの件はどうにかしたいのですが……」


「え、もうお姉さん方は予約でいっぱいだとか。

 それとも高貴な方しか相手できないとかって話ですか」


「いずれはそうなるかもしれませんが、今はそれ以前なんですよ。

 私が王都での商習慣というものをよく知らなかったのが原因ですが、建物だけではダメなようなんです。

 最低でも酒を用意しないと」


「酒ですか。

 それならこの町でも買えるのでは」


「ええ、私もそう考えておりましたが、彼女たちが納得しないんです。

 自分たちの格に合うお酒でないと私に迷惑がかかるとか言って」


「それはどういう……」


 フィットチーネさんの代わりにバトラーさんが俺に説明してくれた。

 自分たちも普通の小娘として扱っても問題無いと彼女たちは言ってきたが、それは世間が許さない。

 では王都ほどではないが、格式を持つ娼婦として扱うように準備を進めて来たのだが、建物には王都以上とまで評してくれたようだが、それ以外がまるでなっていないとダメ出しをされたそうだ。

 最低でもお客が支払う金額に見合うお酒を用意しないといけないそうなのだが、高級な酒はほとんどが王都で販売されており、モリブデンでも売っていない訳では無いが商売で使うほどの量を買う訳にもいかないという話だ。

 理由は明白で、そんな高級酒なんかそうそう売れる筈も無く、需要を満たす分しかこの町に在庫がないとか。

 新たに仕入れるにしても仕入れルートが見つからない。

 今、フィットチーネさん達は、王都からのお酒の仕入れについて色々と手配を始めたばかりだというのだ。

 あれ、それって俺にとってチャンスじゃないか。

 昨日、俺の商いの方針として王都から仕入れて売れるものをこれから探そうかと考えていたが、それなら今までさんざん世話になったフィットチーネさんのために俺が王都から酒を仕入れればこの問題は片がつく。

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