第198話 伯爵からの呼び出し
「ああ、前に約束しただろう。
チョークもいよいよモリブデンできちんとした商品として売られていくわけだから、ここにチョークの作業場を作る。
みんなは今まで浜でよくやっていてくれた」
「え?
私たちクビになるのですか」
「へ?
何を聞いていた。
ここでみんなにチョークを作ってもらうんだよ。
広すぎるから、一緒に黒板も造らせるけれどもね」
「ですが、ここからだと……」
今まで浜で作業をしていたから、通うのに困らなかった子供が心配そうに独り言をつぶやいていた。
「今、どこに住んでいるか知らないけど、みんなは今日からここに住んでもらうから、そのつもりで」
俺がこういうと、数人の子供たちが何か言い辛そうにしていた。
「親や兄弟と一緒に住んでいるのもいるよな。
そういう人は今までみんなを世話していたお姉さんに教えてほしい。
親や、兄弟も一緒にここで生活してもらうから、大人の人が説明に行くから」
俺がこういうと、先ほどまで悲しそうな顔をしていた子供も顔色が変わった。
やはりそうだよな。
親や、兄弟と一緒に住んでいたのもそれなりにいた。
後で聞いた話では、親よりも幼い兄弟と一緒に住んでいた方が多かった。
親と一緒に住んでいたのは一組だけで、それも幼い兄弟も一緒だったとか。
しかし、病気治療を優先してきたとはいえ、孤児や寡婦が相当数この町には住んでいそうだ。
仕事ならばそれこそいくらでもあるし、無ければいくらでも作れる。
いや、今のところ俺が作る仕事の方が多くて、人が足りないくらいだ。
まずは、ここで生活させるために住居スペースとなる商店の方から掃除を始めさせる。
当分は、チョークは作れそうにないかもしれないけど、まずは住むところから用意していく。
浜に子供たちを見守るために順番で付いてくれていたメイドも、そのままここでも順番で面倒を見てもらっている。
今は子供たちに掃除の仕方を教えているけど、俺から見たら少し厳しそうだ。
あれって、どう見ても屋敷でメイドがしているような掃除の仕方だ。
まあ、そのあたりも含めて一切を任せているので、俺は口を挟まないけど、そのメイドたちが子供たちの引っ越しに際しても率先して協力してくれて、チョークをつくっていなかった家族も一緒に、ここに連れてくることにも成功していた。
その後の俺は、チョークつくりの作業場引っ越しで中断していた使っていない家屋の処理について手伝いというよりも邪魔になっているような気はするが、一応手伝っていたが、そんなある日屋敷からメイドの一人が慌てて俺を探してきた。
「レイ様。
王都よりお手紙が……なにやら慌てているようでしたので」
そう言って俺にその手紙を差し出してきた。
そういえば俺の方にも手紙が来ていたな。
忙しくて……嘘です。
ただ忘れていただけなのだが、返事が来ないので心配になった王都にいる連中が同じような手紙をここにいる別な者に出したのだろう。
すっかり忘れていたけど、急ぎ案件だったようでダーナに慌てて送ったようだ。
それだけ重要である内容なのはもちろん急いでいるのだろう。
俺は手紙を受け取りその場で確認する。
「この内容は……」
「ええ、ダーナ様宛でしたのでダーナ様と一緒に拝見させていただきました」
そう答えてきた。
手紙には俺に手紙を出したのに返事をくれないから返事を聞いて欲しいとある。
それに合わせて簡単に経緯も書いてあるが、そこには王都の伯爵が俺を呼んでいるとあった。
俺は、簡単に書いてあることだけではよくわからなないので、先に俺に送られていた手紙を取り出してそちらも確認する。
そこにも俺を呼び出すことについての状況がごくごく簡単に書いてあるが、そっちには理由らしきものも書かれている。
どうも伯爵の寄子たちを集めたパーティーが開かれるようで、それに合わせて俺を紹介したいらしく王都に来てほしいとあった。
そういえば屋敷を拝領してからも忙しくて、伯爵様にはあいさつ程度にしか伺っていない。
最近は王都に行っても伯爵に会うことすらしていなかった。
でも、まだ次の社交シーズンには時間があるはずだ……というよりも俺が屋敷を拝領して男爵位を賜ったのがその社交シーズンの幕開けにあたる陛下主催のパーティーだったこともあり、現在はそのシーズンが終わった頃にあたるはずなのだが……俺があまりにそう言ったパーティーに顔を出さないものだから呼び出しでもしたのだろうか。
俺には貴族の風習が分からないので、手紙を届けてくれたメイドに聞いてみた。
「どうも、俺にパーティーに参加しろとあるようなのだが、王都でのパーティーに参加しなかったのがまずかったのだろうか」
「そうですね、確かに貴族同士の付き合いの初歩はパーティーに参加してになりますが、レイ様の場合、拝領した領地の緊急事態でもありますし、それほどまずいとは言い切れないかもしれません。
ただ、領地を持たない法衣貴族では絶対にできないことでもありますが」
「絶対にできないことって……」
「王都に屋敷を構えている法衣貴族では、全くパーティーに参加しないという選択はありえません。
貴族の責任とまでは言いませんが、寄り親もおりますし、招待でもされたらまず不参加なんかは出来ませんね。
確かに人付き合いですから顔を合わせたくない貴族もいるでしょうが、たいていの場合、首に縄を付けられてでも無理やりでも参加させられるのが普通です。
以前勤めていた男爵様も、同じ派閥以外のパーティーには参加を嫌ってはおりましたが、それでも最低限の付き合い程度には参加されておりました」
「そうなのか……今の説明を聞いても良くわからないけど、俺の寄り親になっているのだろう、伯爵様は」
「ええ、そうなります……かね?」
「そこで疑問形なのは気になるが、そこからの呼び出しがある以上出向かないとまずいよな」
「ここではよくわかりませんが、王都に残している者たちからの様子を鑑みると、かなり慌てているようなので、相当圧力でも感じているようですね」
「なら、すぐにでも動くか」
「そうしてください」
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