第197話 作業場の引っ越し
一応、今回の話し合いも無事に終わり、俺は解放された。
しかし、俺を放し飼いにすると、また要らない仕事を拾ってこないとも限らないとかでエリーさんが俺について来る。
放し飼いとは失礼なとは思ったのだが、最近の俺のここでの扱いって、かなり酷い。
ブラック職場担当でも……いや、職場をブラック化していく悪魔的な、そんな感じのだろうか。
とにかく、俺も流石に仕事を作りすぎているとは思っているので、素直にここでの仕打ちを受け入れている。
俺は街の視察を兼ねて、魔法使いの三人と一緒に、使わない家屋の封鎖に付き合って、港に向かった。
この港は、かつては相当栄えていたのか設備は整っているが、使わなくなってから久しくあるようで、あっちこっちで建物の痛みが激しい。
「レイ様……」
「ああ、要らない仕事は作らないけど……」
「ですよね~。
いずれ、ここもきちんと整備しなおさないといけませんかね」
「本当はすぐにでもと言いたいけれど、まずは町割りを始めた以上、そっちからきちんとしないとね。
ガーネット、この家を塞ぐんだよな」
「ええ、バトラーさんから頂いた資料ではこの辺りほとんど全てになりそうなんですが」
「確かに、港で活動しているのなんか、俺が頼んで来てもらったフェデリーニ様くらいか。
後は船乗り養成の学校くらいか。
それで、入り口を塞いでいけばいいのかな」
「いえ、バトラーさんからは、塞ぐ前に一度中を一通り確認してからと言われておりますが」
「それなら、すぐに確認を始めよう」
こんな感じで、どんどん港周辺の元商館だった家屋を塞いでいった。
港にある建屋をそんな感じで塞いでいき、どんどん港から離れていく。
「そろそろ港と呼べなくなってきているな」
「ええ、この辺りからは倉庫街とでも呼べば良いのでしょうか。
港に店を構えていた商店の倉庫が集まっているエリアになりますね」
俺たちはそう言って、倉庫街に近い商店の中に入っていく。
ここは、倉庫街との境界でもあるので、そのまま商店と倉庫がつながっているような造りになっている。
「あれ、ここって、使いようによっては使えないかな」
「レイ様、どういうことですか」
「ああ、チョーク作りを浜で作らせているだろう」
「ええ、そうですね」
「そろそろいい加減に、きちんと作業場をあたえたくてな。
ここなら、倉庫もあるし、作業は倉庫でできるから、この店に子供たちを住まわせることもできそうだと思って」
「そうですね。
確かに……」
「ところで、あの子たちは皆孤児なのだろう」
「ほとんどがそうだと聞いておりますが、中にはそうでない子もいるとかで」
俺は、ここまで話を聞いて、すぐにエリーさんの方を振り返り拝み倒した。
仕事を思いついたのだ。
「エリーさん。
申し訳ない。
誰かに仕事を頼みたのだが……」
「ふ~、またですか……嘘ですよ。
私も先の話を聞いておりましたので。
それでどうすれば」
「ああ、ここに子供たちを住まわせるようにすると、面倒を見る大人も必要になるよな。
もし、今いる子供たちの中に親と同居しているのが居るのならばいっしょにここで生活をしてもらえないかなと思って」
「それは良いお考えですが、そうなりますとその方に相当な負担が……」
「ああ、その他にも通いでも良いけど、大人を派遣したいと思っている。
ここをチョークの製造商店としていきたい。
できれば一緒に倉庫で黒板も造らせたいので集めようかと」
「黒板は現在職人たちに任せていませんでしたね」
「ああ、黒板造りの責任者を、そのまま職人に任せようかと思っているけど、ここの統括にうちから誰かを派遣しないとな。
誰が良いのかな……」
「そうですね、それも考えないといけませんが、ですがまずは子供たちを集めますか」
「ああ、俺は早速浜に行くから、悪いがこの後はよろしくね」
家屋の封鎖の作業を俺は途中で抜け出して浜にエリーさんと一緒に向かった。
浜では今日も子供たちがにぎやかにチョークの生産を続けている。
子供たちはモリブデンでの感触を直接感じて帰ってきた者がいるので、その子供たちを中心になって、精力的にチョークを作っていた。
「お~い、作業中悪いが一度集まってくれ」
俺が浜に向かって大声で子供たちを集める。
俺の声に従って、子供たちは素直に今している作業を中断して集まってくれた。
「前に船で約束していた、チョーク作りの作業場が決まった。
なので、みんなで一度その場所に向かう。
今日は、この後仕事になりそうにないので、いつものように一度片付けてほしい」
俺がこういうと、子供たちの中でリーダー的な一人がみんなに指示を出して片づけを始めた。
「レイ様。
子供たちも随分成長しておりますね」
「ああ、作業場が落ち着いたら、あそこで読み書きも教えていきたいのだがな」
「そうですね、前にレイ様が言っていた学校とかいうやつですか」
「それとは少し違うが……そうだな、いっそのこと一緒にそれも片付けるか」
「え~、また仕事を増やすのですか」
「いや、少しは増えるが、二つのことを一度で片づけるのだから減るのではないかな?」
「なんで、そこで疑問形なのが気になりますが、わかりました。
それで、どうするおつもりで」
「作業場のそばでも空いている建屋がたくさんあっただろう。
あそこに孤児を集める。
そこで一緒に面倒を見ていこう。
まずは、集めた孤児たちに対して勉強を教えていく。
勉強を教えられる者が増えてくるようなら、町全体に学校を整備していけばいいだろう。
今はとにかく、読み書き計算のできる人をたくさん作ることだ」
「なんだか夢のようなお話に聞こえますが……」
何だかエリーさんにジト目で睨まれたような気がする。
そうこうしているうちに、浜の片づけをしていた子供たちが片づけを終えて集まってきた。
「レイ様。
集まってきましたね」
「ああ、それでは向かいますか」
俺は、子供たちを連れて先ほどの商店に向かった。
「領主様。
ここは?」
リーダー的な子供が俺に聞いてきた。
何度も通っただけあって、あそこの集まる子供たちは俺に何でも聞いて来る。
良い傾向だと俺は、どんな質問にも丁寧に答えるようにしている。
まあ、中には答えるのに色々と苦労をする者もあるが、それでも子供たちとはコミュニケーションが取れていると自負している。
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