第196話 再びの緊急領地運営会議

 


 あ、そこまで考えて思い出したというか、ひらめいたのだが、付近の森を相手にする冒険者も足りていない。

 現在、俺が奴隷としたこの町出身のエルフの冒険者を中心に、奴隷たちが魔物を間引いてもらってくれてはいるが、いずれそれも冒険者か、この町の兵士たちに任せたい。

 尤も現在兵士と呼べるものは一人もいないが、それも準備していく必要があるとか。

 この国シルバーランドが国境を接するのは聖アルマイト教国とゴールタニア帝国の二か国で、海を挟んではそれ以外にもカッパー商業連合などとも交流があるが、緊張関係にあるのはゴールタニア帝国だけで、その国とも今のところ軍事的には衝突しそうにない。

 尤も、戦争となってもここからだと国を挟んで真反対の位置になるので、俺たちに出兵要請は来ないというのが俺の寄り親である伯爵の見立てだが、それでも領地持ち貴族の責任とかで、領地軍の整備が必要らしい。

 ほとんどの領地持ち貴族は騎士爵などを抱えて、騎士団を作っているので、俺のところもそうしろとか言われたが、さすがにいきなりでは無理だ。

 まあ、兵士の教育程度は王都にいることが多い元騎士爵のスジャータに任せるつもりだが、幸いなことに今はこのシーボーギウムに連れてきている。

 現在はこの町出身のハーフのダークエルフであるダーナと一緒に周りの森で魔物の間引きをしてもらっているが、間引いた魔物から得られる貴重な部位もかなり集まっているらしい。

 まあ、フェデリーニ様がこの街を離れる時に持てるだけ持ってこの街を離れて行ったのだが、それでも毎日のように魔物を間引いてはそれらもすぐに溜まる。

 その扱いについても、そのうち考えよう。

 任せられるのならばフェデリーニ様に任せるのだが、俺らもちょくちょくモリブデンに出かけているので、ダーナ辺りを連れてモリブデンの冒険者ギルドにでも出向くとするか。


 しかし、毎日の対応だけに追われて一向にこの領地どころか領都であるこの街の復興が見えてこない。

 幸い、街そのもののハード面には一切の影響が無かったので、そういう意味での人手には必要性は無いが、街そのものを運営する住民の数そのものが足りないというか、街の規模からして今の住人が少なすぎる。

 現状は、壊滅した周りの村からこの町に人を集めてはいるが、それでも少ないので、そろそろこの町の再整備をする必要がある。

 まずは町割りを決め、中心から離れた家屋については廃棄する方向で考える必要がありそうだ。

 街の住人の規模に合わせて、街つくりをするにしても、最盛期に合わせた状態での家屋が林立しているので、人のいない家が多い。

 これって、正直街の治安を考える上でもまずいことらしいが、幸いここは国のはずれで、よそから人はやってこない。

 不心得者がいないのが幸いだ。


 浜から屋敷に戻り、エリーさん達に領地の町割りの再編について相談してみた。


「レイ様。

 また唐突にそんな大それたことを」


「ええ、いきなりですよ」


 二人からはかなり不満を言われたのだが、俺の考えを丁寧に説明していく。


「ああ、確かにそうだが、この街って本来今の倍以上の人が生活していたのだろう。

 しかし、今では見る影もない。

 でも、この領地の復興を考えると、まずこの街から始めないと始まらないし。

 そう考えていくと、正直今のこの街って実情に合わないくらいに大きすぎると思うのだが」


「それで、町割りをし直してどうするおつもりなのですか」


「ああ、建物を取り壊すにしても人手が足りないので、今は入り口などを塞いで中に入れないようにして、無視できるようにしていきたいと思っているのだが」


「確かに、その方法しかないでしょうね……」


「そうなりますと、塞ぐ家と使う家が出てきますね。

 その使う家をどう割り振るかということですか」


「ああ、そうなんだけど、どうしよう」


 そこからまた始まる緊急領地運営会議だ。

 お姉さん方は急ぎ手隙の人を集めだした。

 ちょうど森から帰って来たばかりのジーナや元騎士爵のスジャータがいたので、たぶん彼女らは初めての参加になるとは思うが訳分からずの状態で、この場に呼ばれた。

 バトラーさんや屋敷の運営のために雇っている使用人たちは慣れたもので、『またですか』って感じで集まって来た。

 俺から説明してもよかったのだが、すでに俺の考えをお姉さん方に伝えてあったので、マリーさんが議長役として話をリードしていく。

 さすがに王族相手でも一歩も引けを取らない人だけあって、上手に会議をリードしていく。

 結局のところ、町割りについては港周辺とこの屋敷回りは、できるだけ使わずに残し、魔物の住む森と反対側に屋敷に近い順番に住人を動かすことで話がまとまる。

 後は、その実行だけだが、そのあたりについてはバトラーさんがしてくれるらしく、手伝いに俺のところから手隙の者たちを遣わすことになった。

 特に空き家の封鎖にはうちから住民の治療のために連れてきた魔法使いの三人が割り振られた。

 住人の治療もすでにひと段落がついており、キョウカやムーランだけでも問題ない……というか正直二人もいらない。

 まだ、モリブデンの病院で患者がいないので、帰る必要も無いがそのうち一人は病院に戻そうと考えている。

 いい加減あちこちにある店もいくつか整理したいと思うのだが、俺一人で経営していても柵などでそう簡単につぶせそうにないのだが、病院はフィットチーネさんを含めて三人の共同経営となっているので、俺の一存で潰すことはできない。

 しかし、効率を考えると、病院だけでもそのうちここシーボーギウムに移転も考えてもいいかもしれない。


 しかし、最初にお姉さん方に相談した時に言われたが、拠点を整理していきたくはなるな。

 モリブデンの娼館や病院はこっちに持ってきてもいいかもしれない。

 尤も、客のことを考えると娼館の移転は当分どころかいつできるか分からないが、病院ならば問題ない。

 病院の移転……潰すのでないので問題は無いどころか、案外良い考えのようだ。

 そもそも、あの病院はモリブデンに各地から連れてこられる人の治療を想定していたので、それならば連れてくる病人をモリブデンではなく、船でこちらに直接来てもらえば済むだけの話だ。

 それと王都だが、拝領している屋敷は維持しないとまずいが、店の方は……無理だな。

 店もつぶせそうにない。

 バッカスさんやドースンさんだけならば無理押しもできないことも無さそうなのだが、すでに常連さんに貴族の子弟も多くおり、また、以前にその子弟の方たちに助けられたこともあるのだ。

 まあ、王都の店は屋敷と一緒にやっていくしかないとあきらめるが、モリブデンについては真剣に考えよう。

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