第57話 面接

 支払いなどの決済処理はすぐに済んだが、奴隷制約はまだしていない。

 やるのなら一度にしたかったので、明日4人まとめてすることでフィットチーネさんと話を付け、今日は、この後フィットチーネさんに部屋を借りて一人ずつ呼び出して、話をすることにした。

 こちらからは、奴隷の先輩になるダーナもいるし、何か質問があっても困らないだろう。


 まずは、双子から一人ずつ話を聞こうとしたら、ダーナが二人は双子なのだから、一度にした方が良いと言ってきた。

 初めて会うご主人様なのだから、今まで二人一緒の行動してきたのに、ここで二人を別けるとかえって不安にさせるというのだ。

 どうも、オークションに出される前の奴隷商で、似たような経験があったという。


 ならばということで、家宰のバトラーさんに頼んで応接室で、面接をすることになった。

 ほとんど待たされることなく二人がバトラーさんに連れられて部屋に入ってきた。


 入社面接ならばここで、椅子にでも座らせての面接となるのだが、今日はただの様子見だし、何より、この世界では奴隷たちは椅子に座ることが少ないとも聞いている。

 郷に入ってではないが、常識が無いと陰口を叩かれないように、立ち尽くす奴隷たちを前に俺は座りながらだが、話を始めた。


「明日、手続きをするが、君たち二人を買った商人のレイだ。

 俺のところでは、ある商品を作るのを手伝ってもらう」


 俺はそう言いながら、二人を見る。

 先生出番です。


『レン 15才 81-59-81 C

 双子姉妹であるために色んな差別を受けて来たが、元から犯罪奴隷の家で生まれたので、気にしていない。

 早くから親から離されていたこともあって、妹のランとは仲良し』


 またまたですか。

 うん、相変わらずいい仕事をしてますね、先生は。

 それで、15才と言えばこの世界では立派な成人であり、俺のお供をしてくれるマリアンヌとも同じ年だった筈。

 見た目はそれよりも幼く見えるが、数字からはもう十分すぎる体になっているようだ。


 で、隣にいるのが妹ですか、どれどれ。


『ラン 15才 83-60-82 D

 姉と一緒に早くから親と離されているので、彼女のなかでは家族と言えば姉だけという認識だ』


 うんうん、そうですか。

 それにしても、こちらも同じ年であることは聞いていたが、妹の方が若干成長が早かったようで、もう十分にけしからん体格になっている。

 もし彼女たちもだとすると、ナーシャが仲間外れとなるので、少しこの後のことを考えないとまずいか。


「ご主人様?ですか」


「ああ、明日からだがな。 

 うちにはそこにいるダーナを始め、現在4人の奴隷がいるが、どうしても忙しくなったので、今回君たちの他もう二人を合わせて4人明日手続きをすることになった。

 しっかりと面倒を見ることを約束するので、君たちもしっかりと働いてほしい。

 明日もう一度ここに来るが、何か質問はあるかな。

 遠慮なく聞いてほしい」


 物おじしない性格なのか、妹のランの方が急にダーナに聞いてきた。


「ダーナ先輩。

 今幸せですか」


 え、この子何を聞いてくるんだ。

 ここで、ちょっとでも言われれば俺のメンタルは持たないぞ。

 するとダーナは満面の笑みを浮かべ彼女に言い放つ。


「ええ、ものすごく幸せです。

 ご主人様は、本当に私たちに良くしてくださいますし、とてもよくかわいがってくれますから」


 そういった後に顔を赤らめる。

 それもちょっとな。


 今の回答で、バトラーさんにばれただろう、俺たちの仲が。

 あ、前にフィットチーネさんにやった後に彼女のスキルが使えるようになったと言ったことがあるので、とっくにバレているか。

 そう言えば彼女たちにはスキルが見えてこないので、多分無いのだろう。


「分かりました。

 ダーナ先輩、ありがとうございます」


 そう言って、今回二人との面談は終わった。


 うん、彼女たちなら問題は無いだろう。

 問題と言えば、次に会う二人だ。

 フィットチーネさんの話では、落ち着けばすぐに良くなるという話だが、メンタルケアは、俺の専門じゃ無いし、ちょっと心配だ。

 残りの二人は一緒では無く、一人ずつ話を聞いておきたかったのもあるので、続けてバトラーさんに呼んでもらった。


 最初は初夜後に売られたマイさんの方からだ。

 すぐにマイさんがバトラーさんに連れられてやってきた。


「マイさんですね」


 俺から声を掛けると、彼女は静かに頷いた。


「先ほども会いましたが、お話がしたくて呼んでもらいました。

 申し訳ありませんが、もうしばらく私にお付き合いください」


 俺が、奴隷に対してまず使われないくらいに丁寧なあいさつをすると、感情など既に殺していたかのような彼女も、一瞬だが驚いたような表情を見せた。

 良かった。

 まだ、彼女には感情が残っているし、何より良識を判断するだけの判断力もあった。

 判断力が無ければ、驚くことなどしない。


 その後、俺がマイを買ったことを伝え、俺のところで仕事をしてもらうことを伝えた。

 だが、この時には表情に変化は見られない。


 まあ、そうだろうな。

 そこで、俺は少し冒険に出た。

 先に貰った資料には売られたことは書かれているが、それ以上に詳しい事は書かれていない。

 だが、その資料を見ながら、彼女にこう言った。


「あなたが、あの人に対してどのような感情を持っているかはわかりませんが、一つ提案があります。

 あの人に復讐してみませんか」


 俺のこの言葉に、この部屋に居る全員が驚いた。

 マイも、先ほど見せた以上に驚いた表情を見せている。


「復讐と言っても、対象に対して殺人などをするつもりはありませんし、させるつもりもありません。

 でも、少し考えてください。

 あなたが、その人以上に豊かで幸せな生活を送っていれば、それだけで十分な復讐になりませんか。

 あの人があなたを売り払ったことが、結果的にあなたの幸せに繋がれば、それだけでも楽しいではありませんか」


 するとマイは驚いた表情を見せながら、かすかな声で俺に聞いてきた。


「私があなたのところに行くだけで、本当に幸せになるというのですか」


 うん、彼女は言葉使いもしっかりしている。

 これなら店番でも使えそうだ。

 もう少し明るい表情を出さないといけないが。


「私のところに来るだけではだめですよ。

 一緒に働いてもらわないとね。

 少し今の私の現状をお話ししましょう」

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