第五章 新たな門出
第58話 奴隷契約
俺はそう言ってから、簡単に今の仕事や、それに至る経緯などを彼女に説明しておいた。
ついでに、隣にいるダーナについても簡単に触れておいた。
ダーナは彼女の先輩になる訳だし、仕事についてはカトリーヌやマリアンヌの方とすることになるが、それでも食事や、その他色々と一緒になるから、できるだけ仲良くなって欲しいという俺の気持ちもある。
俺との話し合いで、彼女の中に何かしらの変化はあったようで、まだ表情は暗いが、それでも明らかにこの部屋に入って来た時と格段に変化していた。
もちろん良い方向にだ。
さて、問題の根深さでは今のマイの方が重いのだろうが、小心者の俺としては、次のユキの方が気持ち的には苦手だ。
だってかなり怒っているようだし、あれがもしデレればツンデレ特性でご馳走にでもなるのかもしれないが、あいにく俺はまだツンデレの魅力が分からないので、ちょっと気持ちが重い。
だが、一緒に買ってしまったので、逃げる訳にもいかないので、バトラーさんに次もお願いした。
ユキもまた直ぐにバトラーさんに連れられて部屋に入ってきた。
部屋に入るなり、おれのことをにらみつけてくる。
ちょっと怖い。
綺麗なんだけど、怖いと云うか、俺の苦手なヤンキー気質って奴、コンビニの前で、悪そうな男どもを従えて屯していそうな人に見えるから、なおさら苦手。
だが、ここでひるむ訳にも行かず、俺は巨大なドラゴンに一人で立ち向かう勇者のごとくユキに対した。
「明日、君は俺の奴隷として手続きをする」
「フン!」
やはり、意にも返してこないか。
まあ、家族から裏切られて娼館に奴隷として売られると聞かされていたのなら、ある意味納得ができる反応だ。
男どものおもちゃとされると分かっているだけで、今できる精一杯の反抗なのだろう。
分かっているが、どうしても俺の方が一歩引いてしまうが……
俺のそんな様子を見てか、ダーナがユキに何やら話している。
するとユキの表情に変化が表れて来た。
まだ、面白くなさそうな顔をしているが、話だけは聞いてやるって言った感じだ。
そこで、すぐ前に面接したマイと同様に同じ話をしてみた。
あの復讐の話も、同じようにユキにも提案してみると、どうやら先ほどダーナからも同じようなことを言われていたのか、さほど驚いたような表情は見せないが、興味深げに俺の話を最後まで聞いた。
その後に、俺にこう言ってきた。
「本当に私を大事に扱ってくれるのなら、ご主人様に従う。いや、従わせてもらいます」
まだ、表情には嫌々ながら、いやちがうか、どうしていいか分からないといった感じか。
でも、ユキもマイ同様に、納得してくれたようだ。
納得と云うよりも、とりあえず様子見と言った感じかもしれない。
でも、今日の用件は済んだ。
その後、もう一度フィットチーネさんの執務室を訪ねてから帰ることにした。
ナーシャに任せきりのドワーフたちも気になる。
店に帰ると、件のドワーフたちは内検を終わらせて、何やらメモのようなものを書いている。
「すみませんでした。
別件で、店を離れていましたか、お相手できずに」
「いや、改造するのも見て回っただけだから、問題無い。
それよりも、店の中に風呂を作るのは諦めた方が良い。
狭いし、無理だ」
「そうですか。
なら中庭になりますかね」
「そうだな、中庭に別棟を作るのならできない話では無いが、金掛かるぞ」
「どれくらいかかりますか」
「そうだな、水回りもあるから金貨100枚は下らないな」
金貨100枚か。
ここに来て、奴隷を増やしたので、直ぐにはちょっとな。
決して出せない金額では無いが、一月ばかり様子を見たいな。
「金貨100枚は、こちらとしても想定しておりませんでした。
暫く考えさせてください」
俺はそう言うと彼に今日の手間賃として金貨1枚を渡して、彼らを帰した。
「ご主人様。
どうするのですか」
「ああ、風呂は欲しいが、流石に金貨100枚は出せないかな。
しかもだ。
彼の話ではそれ以上かかるかもしれないというのではないか。
ここのところの忙しさ対策で、今日新たに仲間を4人フィットチーネさんにお願いしてあるし、その支払いもかなりの金額になったしな。
風呂は、もうしばらく貰い湯だな」
そう、夜遅くなると、近くの娼館の風呂は空く。
娼婦は皆、個室に移りそれぞれの仕事にかかる。
その空いた時間帯に、俺たちは貰い湯をしている。
まあその代償に、俺から娼館の従業員たちに食べ物などを差し入れしているし、娼館主のフィットチーネさんの許可も、お姉さん方の了解も貰っている。
毎日でも良いと言ってくれてはいるが、俺の方が遠慮して3日おきに貰い湯させてもらっている。
新たな奴隷たちを連れてだと、ちょっとした団体になるし、どうにかしないといけないが、直ぐには無理だ。
まずは増産して、稼ぐ方が先決だ。
俺は今日の件を食事の時に、みんなに話し、明日の儀式にはダーナの代わりにカトリーヌを連れて行くことにした。
「悪いが、明日はカトリーヌが俺と一緒に来てくれ。
彼女たちの面倒をお願いしないといけないからね」
「私がですか?」
「ああ、カトリーヌがこの店の店長だと思ってほしい。
俺らは、王都に仕入れに行かないといけないしな。
まあ、ここにいる時には手伝うが、そのつもりで」
「はい、わかりました」
カトリーヌは俺の言った店長という言葉に異様に驚いていたが、それでも希望を聞いた訳でなく、いわば命令だと理解して、その場で返事した。
俺としては、やってほしいとは思うが、無理やりやらせたいわけでないので、そこまで考えなくとも良いのにとは思った。
現にカトリーヌは、今でも俺たちが王都に行っている間、ここを守っていてくれているので、やる事は変わらない。
強いてあげるとしたら、娘の他に4人の面倒を見ながら、ポテトチップスの製造に励んでもらうことくらいか。
従業員の監督といった側面もなくはない。
一番の年長だし、それくらいはできるだろう。
翌日に、俺はカトリーヌを連れてフィットチーネさんの店を訪ねた。
既に4人の奴隷登録の準備を整えていたようで、俺が着くとすぐに登録を始めた。
慣れないことなのだが、流石ファンタジーとでも呼べばいいのか、俺の血液をそれぞれの名前と一緒の掛かれている魔方陣に垂らしていく。
すると彼女たちに奴隷紋が浮かび上がり、奴隷登録は終わる。
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