第56話 好奇心は猫をも殺す

 そう言えば、俺も良く聞かされた話に『好奇心は猫をも殺す』なんてあったが、そんなことをすっかり忘れて、話を進めてしまった。

 問題の二人はこれまた地方の貧農村でよくある話だが、食い扶持に困った悪い男に騙されて、借金奴隷として売られてきた20代前半の女性だそうだ。


 フィットチーネさんが高級娼館として作っているここで使おうとしたくらいだから、その器量は申し分ない。

 やや難を上げると、男に騙されたことによる心のしこりがどうしても外に出て、雰囲気を暗くしているのだそうだ。


 俺に最初に勧められたことでもわかるように、フィットチーネさんの見立てでは、今の暗い感じは落ち着けば無くなり、本来彼女たちが持つ性根の良い部分も外に出るだろうということだ。


 娼婦用にと買って来た奴隷で、しかも美人というのなら、夜のお楽しみにもお付き合ってくれるということで、俺としてもどうしても好奇心が納まらない。

 それならばということで、一度本人たちと面通しをさせてもらい、基本引き取る方向で話を進めた。


 娼館での用も済んだので、俺は再びフィットチーネさんの屋敷に戻った。

 フィットチーネさんは家宰のバトラーさんに頼んで、執務室に、問題の二人を連れて来させた。


「レイさん、彼女たちなんですが」


 フィットチーネさんはそう言いながら二人を俺に紹介してきた。

 バトラーさんは俺に二人の経歴書を持ってきて、俺に渡してくる。

 これ、王都のオークション会場でも見た奴で、簡単な履歴が書いてある。

 彼女たちは、借金奴隷なので、借金額と、その借金に至った原因などが書いてある奴だ。


 それによると、二人とも20才となっており、不作のため家族を飢えから救うためとあるが、フィットチーネさんも掴んでいる通り、村の男に騙されての話だ。

 金額から、年季が10年となっているが、これはあくまで娼婦として働いての話で、俺のところではもう少し伸ばせるということだ。


 だが俺も娼婦と変わらないことまで要求するから、多分10年もすれば解放することになるだろう。


 さて、一応俺の鑑定先生にお願いしてみるか。

 右側にいて、一際暗い表情の女性を見て見た。


『マイ 年齢25才

 87-57-88 D

 村のイケメンに結婚を申し込まれて直ぐに同意して嫁ぐが、初夜を済ませると、翌日には売り飛ばされたことを恨んでいると同時に、自分のふがいなさを情けなく思っている。

 生きる望みも失いかけ、惰性のみで生きている状態に成りかかっている』


 オイオイ、初めて数字が出て来たが、どう見てもあれだよな。

 しかもメロンサイズまでも出て来たが、この世界にはそもそもそう言う下着は無かっただろう。

 俺へのサービスか。


 嬉しい反面、俺の掴んだ情報では彼女たちは年齢詐称だろう。

 5つつもサバよんでいるが、後で聞いた話だが、この世界の年齢って、全部自己申告なのだそうだ。

 それこそ貴族や豪商の出身でも無い限り、自分の年齢など分からないのがスタンダードになっている。

 先の資料にある年齢は、奴隷商が彼女たちを検分しての推定年齢になるそうだ。


 しかし、彼女の経歴って、何だよ。

 ちょっと酷すぎやしないか。

 これって初めからそれ目的で、近づいてきた、いわゆる結婚詐欺だろう。

 しかも、初夜後に売り飛ばすって、やることだけやってから売るって、鬼畜の扱いだ。

 これなら人生を諦めるのも分かる話だ。

 こんな人生を送ってきて、本当に直ぐに落ち着くのだろうか。


 まあいいや、もう一人はどうかなっていうと。

 こちらはこちらで、何と言うかヤンキーに近いと云うか、ちょっと怖い感じがするお嬢さんだ。

 それで、先生のご意見はと言うと。


『ユキ 年齢23才

 85-53-85 F

 義母の勧めで隣村に輿入れ最中にさらわれて借金奴隷に。

 本人は義母に嵌められたと思っており、元々関係が良くない義母に対してものすごい憎しみを持っている』


 こちらも酷い人生だ。

 貧しさは、人の心も壊していくものだ。

 家族と言っても、彼女の場合、義母とあるから,いわゆる後妻として入ってきた女性に売られたという訳か。

 だが、まだ彼女の方は人生を諦めている訳じゃなさそうなので、更生も俺でもどうにかなりそうか。


 にしても、いつの間にか俺の鑑定先生はいい仕事をするようになった、いや、違う。

 今俺が感じているのは、本当にこの世界は人にやさしくない。


 俺の前にいた職場も決してやさしくは無かったが、流石に犯罪にまでは手を染めない。

 精々違法と言っても粉飾決算と労基法くらいしか犯してはいなかった。

 俺の知る限り、人身売買はもとより、結婚詐欺もしていなかったはずだ。

 個人的にはあいつ(主任)はしていたかもしれないが。


 しかし、彼女たちには同情もするし、何より美人さんだし、俺は今彼女たちを助けることのできる唯一の存在だから、せめて彼女たちにはしばらく奴隷としての身分に甘んじては貰うが、今よりは絶対にイイ生活をさせてやる。


 ただ、やりたいだけの話だが、大義名分を欲して自分を納得させている。


「分かりました。

 彼女たちもフィットチーネさんの言い値で買いましょう。

 フィットチーネさんのお陰で、商売の方も順調すぎるくらい順調なのだし、ここらあたりで、還元しないととも考えておりましたから」


「それなら、彼女たちもお買い上げくださるということで」


「ええ、先に決めた双子と一緒に4人を買わせてください」


「直ぐに手続きをしますか、レイさん」


「いつでも良いのですが、そうですね。

 支払いだけはすぐにしたいのです」


「支払いはいつでも良いのですが、商人の先輩としてひとこと言わせてもらいますと、とても良いお考えですね。

 いくら親しい間柄でもお金の貸し借りは無い方が良いですから。

 分かりました、直ぐに処理をしますが、大丈夫ですか、4人で金貨600枚にはなりますよ」


 俺は、一旦戻りダーナを連れて再度フィットチーネさんの自宅に向かった。

 実はその場で、支払いはできたのだが、俺のスキルは一応秘密扱いなので、金庫代わりにダーナのアイテムボックスを使う。


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