第55話 新たな奴隷

「あ、それね。

 王都でもお客様から聞いたことは何度もありますよ。

 絶対に、どこかの商人とつるんで、レイさんに圧力をかけているのです。

 私が王都のギルド長に昔聞いた話では、どこかとつるまないとなかなか出世できなかったとか言っていましたし」


「マリーの話が本当なら、レイさんからあれを買い取り転売する商人がいるのでしょうね」


「転売ですか。

 増産は考えているのですが、人手が無くて難しいのですよね」


「レイさん。

 人を新たに雇うのですか」


「あれ、この間王都で奴隷を二人買わなかったっけ」


「ええ、エリーさん。

 良くご存じで」


「ええ、サリーがあの子たちを連れて帰ってきた後に、散々のろけられましたから。

 ああ、そうそう、フィットチーネさん。

 今度は私に命じてくださいね。

 レイさんとの旅行」


「エリーや。

 あれは旅行でなく仕入れだよ。

 だが、この分だと、直ぐにまた王都に行かないと娼婦が足りなくなるかな」


「ええ、ですがあの子たちがきちんと一人立ちするまで待ってくださいね。

 でないと、私たちが客を取れなくなりますから」


 そこで、娼館の運営についても交えた雑談の後に、俺の件を話し合った。


 結論から言うと、いくらあの主任の不正?な事であっても無視するのは良くない。

 だが、そのまま良いようにされるのも、使いつぶされるので、それは絶対にしてはダメだという。

 話し合いの結果、増産後にはなるが、店でも直接売りに出すことにした。

 ただし、店先で売る時の値段を、転売ができないくらいに高価に設定するとした。


 王都で金貨2枚で樽売りをしているが、どうも王都のバッカスさんはそれでも相当に儲けを出していそうなので、店売りの場合に、一樽金貨4枚で売ることにした。

 別に、店先で売れなくとも俺は困らないし、店番を置く面倒も減るから、かえって都合がいい。

 あの主任には睨まれるが、こちらはあいつの要望を聞いたことで、これ以上俺にちょっかいを掛けてこないだろうとお姉さん方は言っていた。


 それでも、ちょっかいを掛けて来るようなら、相談しなさいとまで言ってくれた。


 お姉さん方との睦ごとで、あいつを潰すくらいはできるのだそうだ。

 ちょっと怖い。


「それで、どうしますか」


「へ、どうしますかとは、フィットチーネさん」


「増産の件ですよ。

 人手があればできるのですか」


「ええ、そうですね。

 でも。人を雇いたいとは思えないのです。

 製法が簡単なだけで、簡単にまねされてしまいそうで」


「そうですね。

 信用を置ける人を雇うのは非常に難しい事ですから、我々奴隷商に仕事があるのでしょうね。

 奴隷でも買われますか」


「そうですね、この前王都で買ったばかりですが、買わないとまずいでしょうね。

 居りますか、おすすめできる奴隷って」


「お勧めですが。

 レイさんのところは女性ばかりですから、やはり女性が良いのでしょうね」


「ええ、そうですね。

 今のところ女性の方が、他の奴隷たちのこともあるので」


「となると、借金奴隷しか。

 しかも、ここで娼婦として使おうかと仕入れた女性が二人いるんですが、年季が10年と微妙なんですよ。

 10年で解放されたら、あれの製法が漏れないとも限らないかと」


「あ、それ、考えなくともいいんじゃないかな」


「え、どういう事なんですか、サリーさん」


「だって、10年もすれば、絶対に他でも作っているでしょ。

 あれ、美味しいし、何よりお酒との相性が絶大だもの。

 下手をしなくとも来年にはそれらしきものが売られているわよ」


「そうですね。

 製法そのものは簡単なものですから。

 それこそ、そこらの子供でも作れそうですしね」


「え、子供でも良いのですか。

 それならレイさんにお願いがあるのですが」


「子供ですか。

 あまり幼い子供ですと、こちらとしても面倒を見切れるかどうか……」


「いえいえ、子供と言いましたが、今年成人になりますから、大人の扱いにはなりますから、レイさんの心配は大丈夫かと。

 それに彼女たちも教育ができればここで使いたかったくらいの器量よしですよ」


「一つ良いですか。

 先程から、ここの娼婦として準備していた人ばかりの様ですが、良いのですか」


「いや~、準備はしましたがここでの教育ができなくて」


 くわしく話を聞いてみると、この前王都で娼婦用にと15人仕入れたばかりで、今教育中のようだが、それでもかなり手いっぱいで、至宝と言われたお姉さん方3人は今客が取れず、その教育にかかりっきりなのだそうだ。


 フィットチーネさんが気を利かせて仕入れた訳だが、これ以上は無理とお姉さん方が断られた話だった。


 しかも、子供と言われた成人未満の二人は双子の姉妹で、娼婦以外としては正直奴隷としての価値が極端に低くなるらしい。

 一般奴隷扱いになるが、どうも、犯罪奴隷の間に生まれた子供で、まだまだあっちこっちに残る双子への迷信、それも女性の双子を嫌う風潮もあり、娼婦以外には使い難いのだそうだ。


 親が犯罪奴隷と言っても、どうもこれも色々と訳ありで、同情の余地があり、フィットチーネさんは損を覚悟で引き取ってきたものだそうだ。


 彼女たちも、オークションにでも出せばそこそこの値が付くかもしれないが、行き先は簡単に想像がつくくらい酷いとこになりそうだとして、オークションに出さず、置いておいたものだとか。


 俺なら、夜のお供としても使えるとあって、また、奴隷の扱いも考えられないくらいに丁寧であると、俺にお願いしてきた。

 先にも話に出たが、子供でもできる仕事とあって、俺としてはその二人をフィットチーネさんの言い値で引き取ることをその場で決めた。


「良かったわね、レイさん。

 これで、増産できるわよね」


「それより、後の二人についてはどうしますか、レイさん」


「え、何のことですか」


「だから、さっきご主人様が勧めていた女性たちよ。

 流石に生娘とはいかないけれど、娼婦として働いたことのない人のようよ」


「ああ、ここの娼婦として考えていた人ですか」


「確かにここの娼婦の数は、王都からの15人を入れても全然足りないけど、それにしたって、いきなり全員を迎えられないわ。

 せっかくご主人様が仕入れて来たけど、お願いして、待ってもらったの」


「そうなんですか、フィットチーネさん」


 俺の奴隷の件も決まったので、とりあえず俺の抱えていた問題はここの話し合いで全てが終わった。

 その安心感もあったせいか、余計なことまで首を突っ込むことになる。

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