第50話 組んずほぐれずの大運動会

 一日ゆっくりと休ませた奴隷たちも、昨日よりは元気になる者もいるが、なかなか元気を取り戻すまでいっていない者の方が多そうだった。

 だから王都で3日を掛けるのか。

 俺はフィットチーネさんの滞在の意図を理解した。


 俺は釈迦に説法になるかもしれないが、最後に支配人に「十分に食べさせましたら、まずは寝かせて体力を回復させた方が良いですね」とだけアドバイスを送った。


 ここでの俺の仕事は終わったと理解したので、ここでサリーさんとも別れて一旦宿に戻り、みんなを連れだして王都の町に出た。


 朝もゆっくりと寝ていた為か、先ほどドースン奴隷商で見たどの奴隷たちよりも元気そうなカトリーヌ親娘だ。


「すみません、ご主人様」

 母親のカトリーヌは俺に詫びて来た。

 奴隷が一番遅くまで寝ていたことで怒られるのかとでも思ったのだろう。

「もう大丈夫ですか、カトリーヌ」

 危うく『さん』付けするところだった。

 もっとも『大丈夫ですか』といった段階でアウトなのだが。

 年上では無いのだがこんな美人だと、どうしても気おくれがする。

 喩え奴隷という身分であっても、お姉さん方に対しては何も考えずに俺はさん付けで呼んでいるから、どうしてもカトリーヌにもそうなりそうになる。


 でも、この世界の常識としてはダメだそうだ。


「ええ、もうすっかり良くなりました。

 昨日いただいたあれが良かったのでしょう」

「朝食は食べましたか」

「ええ、先輩方と同じ物を頂かせていただきました」

 すると、ダーナが俺の傍まできて教えてくれた。

「パンとアポーの実を丸ごと頂きました」

 ダーナのアイテムボックスに入っている物だけで済ませたのだろうが、もう少し栄養のある物を食べないとダメだろう。


 宿に頼んでおけばよかったような気がする。

 まあ後の祭りだ。


 まずは仕事にと、バッカス酒店を目指す。


 ゆっくりと歩いてきたので、朝と言うには昼に近い時間になっていた。

 酒店に入ると前に俺を店内に案内してくれた使用人がすまなそうにしている。


 何でかなと思っていたら、店の外の方が騒がしくなった。

 店主が戻ってきたのだ。


 え、今まで店主が不在だったの。

 すると先ほどの使用人がさらにすまなそうに「昨夜から娼館に行っておりまして」と一言。


 なるほど、そう言うことならすまなそうにした訳も分かる。


「レイさん。

 良くおいで下さいました。

 危うく入れ違いになる所でしたね」


「ええ、昨夜はお楽しみだったそうで」

 一度は言ってみたかったセリフだが、絶対に言われたくないセリフでもある。

「おや、バレましたか。

 まあ、あの屑やお連れのフィットチーネさんと一緒に行っていればバレますね」


 え、ドースンさんは分かるが、フィットチーネさんも一緒だったの。

 これは驚いたが、まあフィットチーネさんも男だし、羽を伸ばしたい時もあるかな。


 後で聞いた話だが、フィットチーネさんは王都での娼館の実情を知りたくて、視察としてドースンさんに行きつけの高級娼館に連れて行ってもらったそうだ。

 娼館仲間のバッカスさんも連れだってだから、いわゆる豪遊に近い形で遊んでいたとか。


 視察という名のっていう気もしないが、その辺りは詮索しても碌な結果にならないから、お仕事大変でしたねとしておこう。


「ああ、今日来たのは納品ですね。

 5樽をお願いしておりますが、できればもう少し多くできませんか」


「すみません。

 今日は5樽が限界ですね。

 それしか持ておりませんから。

 でも、やっと念願の従業員も補充できましたので、次には倍の10樽は納品できそうです。

 それでよろしいでしょうか」


「10樽ですか。

 できればそれ以上欲しい所ですが、とりあえずそれでお願いします」


 俺はダーナに言って、ポテチを5樽取り出してもらい納品を済ませた。

 その後は俺の買い付けだ。

 お姉さん方からリクエストの有った酒を中心に金貨で15枚分を仕入れた。


 バッカス酒店での商談を終えて、王都の町にみんなで散策に向かう。

 途中、カトリーヌ親娘に先ほど酒店に納品したものと同じポテチを数枚取り出して渡した。


「今あの酒店に納品した物で、ポテトチップスと呼んでいる。

 これを、モリブデンに戻ったら、作ってもらうからそのつもりでな。

 造る者が知らなければ良い物が作れないから、試しに食べてみてくれ」


 二人は俺から手渡されたポチを珍しそうに見た後に口に入れた。

「ご主人様!」

 カトリーヌは急に俺を呼ぶ。

「どうした?」

「これ、とてもおいしいです。

 ですが、これは何ですか」

「ジャガイモの加工品だ。

 お酒のつまみとしてかなり好評のようだな。

 結構高級品扱いとなっているから、俺にとってはいい商品なんだが、最近特に需要が高まって手が足りなくなっているから、君らを買った訳だ。

 モリブデンに帰ったらよろしくな」


「「はい」」

 親娘揃って元気に返事が返ってきた。


 その後は王都の街をぶらぶらと散策しながら、みんなの物を買い歩いた。

 ナーシャを除く三人は買い物をするたびにしきりに恐縮しているが、これも福利厚生の一環だと言っても通じなかった。

 当たり前か。

 でも、俺の職場はもうブラックにしないとこれだけは強く思っているので、みんなの態度を気にもせずに買い物を続けた。


 夕方になって、俺たちは宿に戻ると昨日とは違い、既にサリーさんは部屋に戻っていた。

 まだ食事前だというので、俺たちは連れ立って宿の食堂に行きみんなで仲良くかなり豪華な食事を取った。


「え、私たち奴隷なんですが、こんな豪華な……」

「あら、わたしもフィットチーネさんの奴隷ですよ。

 しかも娼婦もしていますけど、ご主人様のフィットチーネさんからは許可を頂いておりますから、レイさんに問題が無ければそれでいいじゃないですか」


 当然俺は即座に許可を出した。

 むしろ楽しめと命じたくらいだ。


 その後は、みんなで仲良くお酒も頂きながら楽しく食事を取った。

 その後は、酒も入っていた為か、絶対にサリーさんの計略だろうが、ノリと勢いでみんなで宿の風呂場に突入して、いわばあれですよあれ。

 皆に囲まれて泡まみれになり、とても気持ちの良い時間を過ごした。

 そのまま風呂の後は、全員でのコースになったが、今日は昨日とは異なり、初めて参加の人が二人、しかもその一人は処女だということで、サリーさんの手ほどきを受けながら先に娘のマリアンヌを美味しく頂きました。

 ええ、それはそれは美味しく頂いた後に、母親も直ぐにご馳走になり、その後は全員参加の組んずほぐれずの時間となりました。

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