第49話 奴隷たちのケア

 宿に着いたら、俺はある挑戦をしてみた。

 海水から塩が出せるのなら、できないだろうか。

 アポーの実を磨り潰したものができないか。

 それを念じながらアイテムボックスから取り出してみると、思ったようなものが出て来たが、俺の目の前で『グシャ』

 それもそうだ。

 先に入れ物を用意してなかった俺が悪い。

 宿にある入れ物を借りてもう一度。

 ダーナには悪いが汚した部屋を片してもらった。


 二人の目の前にそれを差し出して、食べてもらう。

 見た目から、虐待しているように思われるのを避けるために、二人にスプーンを差し出す時に簡単に説明しておいた。


「俺にはいくつか秘密があるが、その一つに、君たちの様子が分かるのがある。

 どうも衰弱しているようだから、体に負担の無いものを用意した。

 これはアポーの実を磨り潰したものだ。

 栄養があるが、簡単に体に取り込めるから、これを今日のところはたっぷりと食べてくれ。

 今日は食べるのが君たちの仕事だ」


 二人は恐る恐るスプーンですくって口に入れた。

 これもよく見る光景だが、二人は目を点にして驚いている。

「おいしい」

「あま~い」

 二人はおもわず感想を言っていることに気が付いていない様子。

「気に入ってもらえたのなら良かった。

 どんどんたくさん食べて、早く体力を戻してほしい」

「ご主人様。

 何故私たちに、こんなにも良くしてくださるのですか」

「早く元気になって欲しいからだよ。

 元気でないと仕事を頼めないし、その後の楽しみも楽しめないからね」

 俺の最後の一言で、母親のカトリーヌが顔を赤らめた。

「命じてくだされば、今でもすぐに」

「いやいや、今の仕事は元気になることだ。

 食べたらすぐの奥のベッドで寝てくれ。

 できれば、明日には王都を一緒に散策したいからね」


 その後二人ともアポーの実を磨り潰した、あのリンゴがゆのようなものを三杯程食べさせ、奥の部屋で寝かせた。


 そう言えば奥の部屋はナーシャやダーナ用と言っていたが、結局昨日は使わなかったな。

 みんなこの部屋の大きなベッドで寝てしまったことだし、今日も多分……


 その日は遅くなってから、サリーさんが戻ってきた。

 開口一番に「いや~、流石に15人は多かったわ」だった。

 確かに、衰弱気味の女性ばかり15人にケアは大変だっただろう。

 これが、屈強な戦士だったら、あそこまで衰弱はしていなかっただろうが、いくらか人権の残る一般奴隷であっても、扱いはバラバラで、特に、戦地のような所から素人が運んでくると今回のように衰弱させてしまうのが多々あるそうだ。

 だが、フィットチーネさんが今回仕入れる様な娼婦に向く女性たちは戦士と違い衰弱が酷くなりやすい。

 まあ、それもあってサリーさんのようなベテラン娼婦も今回は同行させたのだろうが、王都にドースンさんのような協力してくれる同業者がいるのはそう言うことのためなのだろう。


 今回、ドースンさんのようにケアのできる奴隷商の協力が無ければ15人の仕入れは無理だ。

 何も援助が無ければ2人、多くとも5人は流石に難しかろう。

 そう言うことも分かっているサリーさんは、あの一言の後に俺に聞いてきた。


「そういえば、レイさんの買った奴隷の子たちは今どうしているの」

「食事を取らせた後に寝かせました。

 今、隣の部屋で寝ていますよ」


「食事って、普通に食べたの。

 後から来た女性たちの中にはあまり食べられなくて、水しか飲めないのもいたけど、大丈夫だった」

 やはり、俺たちのことを心配していたのだろう。

 衰弱していた女性たちの食事について聞いてきたから、俺は素直にアポーの実を磨り潰したリンゴ粥もどきの話をしたけど、どうも理解してもらえていなさそうだ。


「サリーさんも食べてみますか」

「え、まだあるの。

 良かったらくれないかしら」

 そう言われたので、ダーナを呼んであのリンゴ粥を俺のアイテムボックス内で作り、ダーナから取り出すように、取り出してサリーさんに手渡した。

「何これ?」

「アポーの実を食べやすく潰したものです。

 全部アポーの実ですから甘く食べやすいですよ。

 これを食べれば喩え病人だって元気になりますから」

 俺はそう言ってからサリーさんにスプーンを渡した。

 病院食に近いとはいえ、これで元気になるとは思っても居ないが、そこは多少大げさに言ってもいいかな。

 弱っている人に有効だということが伝われば、フィットチーネさんのためになるかもと思ってだ。


 サリーさんは静かに俺の渡したリンゴ粥もどきを食べている。

「確かにこれなら、弱った人も食べられるね。

 明日、今日食事ができなかった人に食べさせてみるけど、まだこれあるかな。

 無ければ王都でアポーの実を探さないといけないけど」

「大丈夫ですよ。

 うちはアポーの実も卸しておりますから。

 モリブデンと王都の間の行き来で、できる限り採取するようにしていますから」


 俺は明日、もう一度ドースン奴隷商にサリーさんと一緒に行くことを約束させられた。


 その日はサリーさんも疲れたのか、やらなかったわけでは無いが一回きりで、そのまま寝てしまった。


 翌朝、俺は早めにドースン奴隷商に行かないといけないので、壺のような容器に多めにあのリンゴ粥もどきを入れ、宿を出て向かった。


 ダーナだけは俺と同じ時間に起きたので、ゆっくり休んでも良いが、ここで待っていてくれと言伝を伝えた。


 俺と、サリーさんは二人で連れだってドースン奴隷商に向かった。

 奴隷商では支配人に差配されている使用人たちがフィットチーネさんの買った奴隷たちの世話を始めようとしていた。


「ちょっと、彼女たちにはこの壺に入った物を食べさせてみてください」と言って、俺の渡した壺を使用人たちに渡していた。

 それを見ていた支配人が不思議そうに俺たちを見て、聞いてきた。

「レイさん。

 あれは何ですか。

 もし差し支えなければ教えてください」


 別に秘匿するようなものでもないので、俺は支配人に作り方までも教えた。

 すりおろし器が無いようなので、棒状のもので潰すか、尤も荒いやすりを使うかして細かくしたアポーの実を食べさせれば割と簡単に元気になることを伝えた。


「確かにアポーの実にはそういう効果もあるとは聞いておりますが。

 何故潰すのですか」


「ええ、体の中に取り込むのには、アポーの実に限らず体の中で細かくしてから取り込んでいる様なんですよ。

 例えば口でよく噛むと良いとか」


「そうなんですか」


「ですがあまり衰弱が酷いと、その体で細かくすることができずに栄養が取り込めないので、細かくすることだけでも元気な者がすれば、弱っている人でも簡単に栄養が体に取り込めますので」

 だいたいこんな説明をしておいた。

 支配人は「これは凄いかもしれませんね」などと言っていたから、今後は何かに利用しそうだ。

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