第48話 少し気まずい顔合わせ

 相手の、特に母親にはお相手するご主人様を見極めようかとする、ある意味失礼のない範囲で観察するような感じで俺のことを見つめて来る。

 娘の方は、同年代になるダーナや、妹のような年のナーシャの方を興味深げに見ている。


「ご主人様?

 この人たちは?」

 そんな空気を全く読まずに、ナーシャが俺に聞いてきた。


 いつまでもお見合いをしている訳にもいかない。

 直ぐにでもドースン奴隷商についてしまうから、その前に簡単に挨拶だけでもしておかないといけない。


 目の前の二人は俺が買い取ったけど、まだ俺の奴隷では無い。

 ダーナの時もそうだったが、この後資格を持つ奴隷商に俺の奴隷として登録してもらわないとならないのだ。


 とにかく挨拶して、俺の奴隷たちを紹介だけでもしておこう。


「ああ、この人たちはモリブデンで作っているあれの手伝いのために買った奴隷たちだ」


「そうなんですか。

 二人も来ればもう少し楽になりますね。

 ありがとうございます、ご主人様」


「ああ、それよりもだ。

 まずは挨拶からだな。

 俺の名前はレイという。

 モリブデンで商売をしている。

 君たちには、今聞いた通り、モリブデンで商品つくりを手伝ってもらう。

 でだ、今俺に話しかけて来たのが、君たちの先輩になる奴隷たちで、名前をこちらがナーシャで、こっちがダーナだ。

 これから一緒に生活をするので、仲良くしてほしい」


「はい、ご主人様」

 母親の方が小さな声で返してきた。

 これは思ったよりも弱っていそうだ。

 俺は母親と娘をよくよく見た。

 すると俺のスキル先生が教えてくれた。

 二人とも病気等にはかかっていないが、疲労と空腹のために若干ではあるが衰弱している。


「疲れているとは思うが、まずは名前を教えてほしい」


「ゴールタニア帝国の国境に近い、まだ名の付いていない開拓村からきましたカトリーヌと言います。

 開拓村には借金奴隷として町から連れて行かれましたが、そこで……。

 で、こっちにいるのが娘のマリアンヌです。

 娘も私と同じで、借金奴隷でした」


 カトリーヌとマリアンヌか、本当に美人によく合った名前だ。

 しかし、借金奴隷だったとは。

 あれ、この場合どうなるんだ。

 俺は一般奴隷として買ったのだが。


 そんなことを考えていると、俺たちを乗せた馬車はドースン奴隷商に着いてしまった。

 俺たちは新たな仲間に加わった二人と一緒に奴隷商の中に入っていく。


「しかし、また奴隷を買ったのか」

 俺が二人を連れて店の中に入るとドースンさんが俺に言ってきた。

「今度はどんなものに化けるのかな」

「そうそう、ダーナのようなことは起こらないと聞いていますよ」

「ああ、普通ならまず起こらないな。

 だからだよ。

 レイさんは、普通ではないからな。

 あの気難しいバッカスにも気にいられるし、何か持っているな。

 しかし、また美人とは。

 しかも親娘連れとはな。

 気を付けないと、本当に腹の上で死ぬかもな」


「ドースンさん。

 まだ日のあるうちから、そんな話題を、しかも縁起でもない」

「はははは、すまない。

 それよりもすぐに所有の手続きをするのだろう。

 フィットチーネさんがあっちで待っているぞ」

 え、フィットチーネさん……さん付けだよ。

 あ、本人の前では野郎呼ばわりしないか。

 でもなじめないな。

 それよりも、フィットチーネさんを待たすのはまずい。


「これから俺の奴隷として手続きをするから二人は付いてきてくれ。」

 俺はそう言うと、カトリーヌ達二人を奥の部屋に連れて行く。

 部屋の中では、既に準備を整えているフィットチーネが待っていた。


「お待たせしました」

「いえいえ、では始めましょうか」

 ダーナの時もそうだったが、直ぐに全ての手続きは終わった。

 この後は二人のケアになるが、サリーさんが俺に聞いてくる。

「この後、お二人はどうしますか。

 後から別の女性も来る奴隷達と一緒にケアしますか。

 3日は王都にいることになるとは思いますが」

「いえ、確かに二人は衰弱していますから、ケアは必要かとは私も思いますが、それはナーシャ達と一緒の私がケアをしようかと思っております」

「なら、先に宿に帰ってください。

 私は後から来るのを少しケアしてから宿に戻ります」

「え、新たに宿を取るつもりでしたので」

「何を言いますか、レイさん。

 流石に今夜は無理でも、最終日くらいにはこの人たちを交えて一緒にね。

 だから、王都にいる限り、レイさんは私と同じ宿に泊まるのよ」

「そ、そこまでして頂けるとは」

「遠慮しないで。

 これは私へのご褒美なのだから」

「ありがとうございます。

 では、今日のところはこのままあの宿に戻ります」


「あ、ちょっと待って」俺が店から出て行こうとすると、サリーさんから止められた。

「二人はこのままだと、ちょっとね。

 ドースンさん。

 浴室は借りられますよね」


「ええ、そのつもりで準備は済んでおります、サリー嬢」

「では、二人は私に付いてこっちに」

 サリーさんはそう言うと二人を奥に連れて行ってしまった。


 暫く待たされて、サリーさんが二人を連れて来た。

「お待たせしました。

 最初見た時に、きれいな人だとは思いましたが、汚れを落とすと、見違えますね。

 こんな人なら店に来てもらいたかったんですがね。

 レイさんにとられてしまったのならしょうがないか」


 そう言いながら二人を俺に引き渡してきた。

 確かにサリーさんの言う通り、本当に二人とも美人だ。

 買った時にもそう思ったのだが、今はそれよりも2割増しに美人に見える。

 しかも、あのオークションで着ていた見るからに奴隷と言った貫頭衣では無く、ドースン奴隷商のユニホームかとも思える、ドースンさんの店で売り出してる奴隷たちが来ている衣装を着ていた。

 この服は質は劣るが町娘の着る服とあまり変わりがない。


「この服はレイさんだからサービスしておくよ。

 だから今後も良しなにな」


 ドースンさんの店からのサービスのようだった。

 でも、さっきよりも格段におしゃれをしたような感じで、うん、良い感じだ。


 俺は気持ちよくドースン奴隷商から出て、歩いて宿に向かった。

 3日は王都に滞在することになるらしい。

 彼女たちの買い物は明日にでもすればいいだろう。

 今日のところはまず食事だ。

 消化によさそうなものを少し多めに食べてもらい、明日あたりから一緒のを食べられるようにしていきたいな。

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