第107話 いよいよ開店

 

 商業ギルドから帰ってからは店の開店準備にかかる。

 まずは飲食といっても、何を提供するのかだ。


 これはお任せ料理を昼に酒と一緒に提供するつもりで、準備する。

 昼の食事はメニューは一つだけで、いわゆる日替わりという奴だけだ。


 食事の他には昼過ぎ辺りの客に対して、おつまみと酒や茶請けとお茶のサービスをして、夕方には店を閉める。


 はっきり言ってあまり儲けを出すつもりもないし、儲けられる気がしない。


 俺が王都にかかりきりになればそれなりにいろいろと考えるのだが、とりあえず維持費だけでも出せればと思っているのだ。


 調理用具と、皿などの食器類をそろえて、材料の仕入れ先まで決めたらとりあえず開店は出来そうだ。


 当分、料理については唐揚げやコロッケ、メンチカツなどを日替わりで、それにポテトフライやサラダをつけ、ワンドリンクって感じで、銀貨5枚で営業を始める。

 値段については状況を見てから変更も考えるが、仮営業としてバッカスさんやドースンさんを招待してそのあたりについて相談してから営業するつもりだ。


 あとは、食事時が過ぎたら、ポテトチップスや、ポテトフライに唐揚げなどをつまみで提供して、酒類の販売と、午前中からだが、紅茶を、お菓子と一緒に提供していくつもりで準備している。


 紅茶やお菓子類についてはゼブラをはじめ元貴族のメイドたちにとってはなじみ深いもので、仕入れ先からサービスまで、彼女たちに任せた。


 いよいよ関係者をご招待してのお披露目だ。


 王都に来てから1週間が経ってしまったが、それでも早かったらしい。

 しかし、その間にお買い物やらのこまごました仕事ばかりで、ダーナはいいが、ナーシャが飽きてきているようで、少々機嫌が悪い。

 ことあるたびに『まだ~、まだモリブデンに帰らないの』とばかりだ。

 本当に申し訳ない。

 彼女には全く仕事がない訳ではない。

 それどころか、元メイドたちに料理を教えていたので、彼女も忙しくはあったようだが、それでも、冒険のように、狩りなどができないと暇を感じているようだ。


 そういえば、ナーシャとは王都とモリブデンとの間の旅が本業になっていた。


 今は副業というよりも家のお手伝い程度、お手伝いばかりをさせられていれば飽きるのも道理、俺は彼女に、今日のお披露目が終わればまた元の生活に戻るとなだめての今日のお披露目だ。


 といっても、お客様はドースンさんとバッカスさん、それに商業ギルドでお世話になったあの主任さんに、受付嬢、それとドースンさんたちが日ごろからお世話になっている王都の高級娼館のお姉さま方数人だ。


 まずは、お茶とビスケットをお出しして、簡単な説明を店主のカトリーヌから。


 それが終わり、昼食にと唐揚げをお出しして、それにつけ合わせのフライドポテト、あと生野菜のサラダ。

 お酒は一応注文を聞いてからグラスじゃないか、磁器かな、何か陶磁器のようなもので造られたコップについで食事とともに楽しんでもらった。


 これで一応はお披露目が終わり、集まったみんなから意見を聞いて料金設定だ。

 営業時間については朝遅めに開いてから夕方まで、昼からは酒を出しての営業ということにして、と説明はしてある。


「昼に商談にでも使ってください」

 俺はそう言って締めくくった。


 三々五々に招待客は帰り、残ったのはドースンさんとバッカスさん。

 お二人とも喜んでいた。

 とりあえずは良かった。


 料金の設定も、お姉さんがたの意見を商業ギルドも納得したようで、俺に勧めてくるので、昼はワンドリンク付きで銀貨で5枚。

 お茶については、茶請けをつけて銀貨1枚。

 おつまみなどは適当な時価で、あとは酒だが、それもバッカスさんのアドバイスに従って高級酒をコップ売りにしていく。

 客が酒を頼めば、相当な儲けになるだろうとのこと。

 しかし、俺でもわかるが料金設定がおかしくないかな。

 それこそぼったくり価格だ。


 まあ、俺のところの料理はモリブデンの娼館でしか食べられないものばかりだし、そこの価格がこれまたものすごいから、あながち間違いではないのだが、まあいいか。

 客さえつけばの話だ。

 少なくとも適当にバッカスさんとドースンさんくらいは来るだろうから、それでよしとしておく。


 翌日にはバッカスさんの店で、モリブデン用の仕入れを済ませてからモリブデンに帰っていった。


 さすがに王都で1週間も滞在していたので、モリブデンの方が少しばかり心配にはなったが、まあ、俺は店について大したことはしていないし問題ないだろう。


 結局、モリブデンを出てから半月ばかり留守しての帰宅だ。


 店の方も、酒の方の在庫がぎりぎりだった。

 危うく穴をあけて信用を無くすところだった。


 これはどうにかしないといけないとは思うが、仕入れの量を増やしてもなぜかしら、売れていく。


 そう、ここモリブデンは景気がいいようで、高級酒が飛ぶように売れていくし、その高級酒を在庫切れなく提供できるのはどうやら俺の店だけらしい。


 そろそろ酒の仕入れについて、どこかに頼んだ方がいいのかもしれない。



 モリブデンの店ではいつもの通り、唐揚げのもとになるたれや、ポテトチップスを中心に売れていたが、それ以上に忙しそうにしていたのは鍛冶仕事に従事している者たちだ。


 風呂の増設などの大工工事は相変わらず受注残を残してはいるが、工事の方は忙してもたかが知れているし、何より欠陥工事などはどこでも困るので、マイペースでの工事をしている。


 なので、忙しいとは思うがブラックまではなっていない……と思う。


 だが、そんな俺でも、さすがに無いわと思うのが、先に挙げた鍛冶場だ。


 これは、風呂の工事受注による、例の太陽光温水器に使うパイプ作りから、ポンプの制作までを忙しくしているが、問題なのがそのポンプだ。


 このポンプだけの単体での受注をいくつか受けているようだ。

 そのため、鍛冶場はその注文をさばくために遅くまで作業を強いられていた。


 これはあかん、ブラックになっているとさすがに思い、一旦彼らの手を止めてもらい、注文の整理から行った。


 その際に、店に残る者たちにも手伝ってもらい、注文の分類から始めた。


 どうして単体での受注になったかを聞き取り調査すると、どうも商業ギルドのあの主任からの圧力があったようで、さすがにこれには俺も頭に来た。


 俺の留守中に何をするのだ。

 俺は、店に残る者たちに注文の整理を続けさせ、商業ギルドに乗り込んでいった。


 商業ギルドで、あの主任を大声で呼び出し、その場でクレームをつける。

 だがあの主任は涼しい顔をしながら受け流している。


 俺は、商業ギルドの主任の上司を呼び出して、事の調整に入る。


 商業ギルドも契約を取り出して俺に迫るものだから、いっそのこと王都にでも引っ越そうかとつぶやくと、初めて向こう側が慌ててきた。

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