第106話 王都の商業ギルド

 

 周りがざわついたが、今日のところはひとまずこれで終わる。

 明日以降も必要に応じて買いに来ると言い残して店に戻った。


 店に戻り、各部屋にベッドを配置して周り、みんなを連れて食事に出た。

 今度は奴隷となった者たちにも高級店を知ってもらうということにして、ゼブラの知る割と有名な高級店に連れて行ってもらった。

 ここは貴族相手と云うよりも、王都の富裕層相手の店なので、それほど格式は高くない。

 それでも高級店であることに変わりがないので、サービスはしっかりとしているという話だ。

 後日、バッカスさんに聞いた話では、この店もバッカスさんの店から酒を仕入れているということなので、彼も度々利用しているという話だ。


 その日は、店の一番のおすすめ料理をみんなで頼み、少しばかり酒も飲んで王都での初日を終えた。


 翌日から、店の開店のためにみんなで奔走する。

 店の調理場についての準備を店長の娘であるマリアンヌに金を渡して準備してもらう。

 ダーナを護衛兼荷物持ちとして一緒に買い物に出てもらうとして、俺はカトリーヌとゼブラを連れて、バッカスさんの店に向かった。


 流石に朝一番だったので、バッカスさんは店にいた。

 いや、この時間だと下手をすると娼館から帰ってないことがある、いや、その方が多かったのだが、昨日聞いた通りバッカスさんも忙しいのか、店に戻っていた。

「おはようございます」


「おお、レイさんか。

 お、今日は綺麗どころを連れているな」


「ええ、昨日お話ししましたように、王都の店主を務めるカトリーヌとドースンさんのところから先日買ったばかりの奴隷のゼブラを連れてきました。

 カトリーヌは王都の店の主人として働きますので、色々とご贔屓に」


「あれ、ひょっとして彼女って娘さんと一緒に買ったという」


「ええ、よくご存じで。

 でも、もう奴隷ではありませんよ。

 先日フィットチーネさんに解放してもらいましたから。

 ですが手を出さないでくださいね。

 カトリーヌは私の愛妾ですからね」


「レイさんの愛妾か。

 それなら手は出せないな。

 でも解放奴隷か……」


「何か問題でもありますか。

 前に奴隷だと色々と有るようなことを聞いたので解放したばかりなのですが」


「いや、問題無いだろう。

 解放奴隷でもレイさんの愛妾なのだろう。

 なら、いらぬちょっかいをかけるバカは……いるかもしれないが、そんな時には俺に相談してくれ。

 大抵のことは俺の方で何とか出来るだろうからな」


「ありがとうございます。

 カトリーヌからもバッカスさんによくよくお願いしておくようにな」


「バッカス様。

 ご主人さま同様、ご面倒をお掛けしますが良しなにお頼み申します」


「これはご丁寧に。

 でも、娼館遊びをしないレイさんも隅に置けないな。

 こんな美人を愛妾にできるのなんて」


「奴隷として買ったからですよ。

 でなければ俺なんか目にも止まらなかったでしょう。

 あ、それと、カトリーヌを補佐するためにゼブラも連れてきました。

 彼女は奴隷ですが、貴族館でメイド頭を務めていたようで、一緒に買った奴隷たちの面倒を見てもらっております。

 彼女もよろしくお願いします」


「ああ、外ならぬレイさんの頼みだ。

 それに何より俺の頼みを聞いて王都に店を出してもらった借りもあるしな。

 お二人さん、問題があれば遠慮なく俺を頼ってくれ」


「はい、その際はよろしくお願いします」

「ありがとうございます」


「それで、バッカスさん。

 店はバッカスさんの言う通り飲食を始めます。

 当分は昼だけにするつもりですが、酒は出します。

 で、あの店の酒も仕入れもしておこうかと。

 いつものように、高級な物を頼みます」


 いつものように金貨で10枚分の酒を仕入れておいたが、その場で持ち帰らずに運んでもらうことになった。


 まあ目と鼻の先にある店だ。

 店の丁稚たちが小走りに酒を抱えて俺の店の方に向かっていく。

 俺はバッカスさんに一言断ってから一度店に向かった。


 店のカウンター奥にある棚に、丁稚たちが酒を並べていく。

 何か異様に慣れた手つきだ。

 丁稚の一人を捕まえて話を聞くと、いつもの配達でする作業とのこと。

 王都内の配達では、酒のディスプレイまでもが仕事のようだ。

 俺はその場で、ダーナに仕舞ってもらっているから、なんか損をしたような気がして来た。

 あ、その分かどうかは分からないけど俺は金額でまけてもらっていたわ。

 うん、それで納得しよう。

 それに何より流石にモリブデンまで配達には来ないだろうし、何より店に酒を飾っていなかった。


 俺は酒が並べられるのを見てから、今度は商業ギルドに向かった。

 今度のメンバーも朝と同じだ。

 商業ギルドに、店の開店に向け諸手続きや注意事項などを聞くためだ。


 ギルドの受付で、前にも、そうだ、オークションについて丁寧に説明してくれた受付嬢がいたので、彼女に訪問の趣旨を伝えると、すぐに奥に通された。


 商業ギルドの主任という肩書の男性がすぐに部屋に来たので、その場で訪問の趣旨を話すと丁寧に教えてくれ、その場で諸手続きを済ませてくれた。


 あの店を買った時点で王都での登録は済ませて会費まで払ってあるので、この場では業種の申請と従業員の登録だ。

 ゼブラを連れていたので、二度手間にならずに済んだ。


 何せ俺はまだメイドたちのことをよく覚えていない。

 あまり褒められた話ではないのだが、まだ手も付けていないし、そうなるよね。

 だって、健全な男だもん。


 うん、脱線したが、どうもここで従業員登録を済ませておくと、貴族からの無理やりな引き抜きに対してそれなりの効果があるとか。


 特に見目麗しの女性など、好色な貴族の餌食になることもあるようで、商業ギルドでは、その被害防止のためにいろいろと動いているとか。


 早い話が、ギルドが代表して陛下に陳情してくれるとか。

 尤もこんな内容をいちいち陛下が取り上げないだろうが、貴族たちの取り締まりをする部門に対して申し送りがされているようだ。


 なので、それなりの効果があるとかで、ギルド登録の大店はほとんど従業員までも登録しているそうだ。


 俺は大店では無いのだが、店の立地が貴族街に近いハイソなエリアとあって登録を勧められた。


 俺は素直に登録したけど、しっかりと費用を取られた。

 それも一人につき金貨一枚も取られた。

 まあ、これは年会費じゃなく、従業員が辞めるまで一生効力があるとか。

 でも金貨一枚は高い。


 あとでバッカスさんに話したら、俺の店、店長以外はみな奴隷なので店長だけの登録で済んだようだ。


 何せこの国では奴隷の所有権はしっかりと守られているので、商業ギルドで守ってもらわずとも大丈夫とのことだ。


 騙されたわけではないが、損した気分だ。

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