第105話 ダーナのアイテムボックス

 


「それもそうか。

 レイさんもいよいよ王都進出か~

 いずれの話だが、どこかで力を貸してくれる貴族を探しておいた方がいいかな」


「それは……」


「まあ、色々とあるだろう。

 ここ王都は貴族が沢山いるし、貴族の中には、まあそういうのもいるんだよ。

 貴族が絡むトラブルでは、貴族に知り合いがいるのといないのとでは格段に差が出ることも多くある。

 そういうのを防ぐ意味でも、王都のそれなりに儲けている商店では貴族とのパイプを持つものが多い。

 俺もそうだし、バッカスなんか、それこそ王室につながりのある貴族とも懇意にしているようだしな。

 でも、それも儲けての話だ。

 まずは王都の店を繁盛させないとな」


「そうですね。

 繁盛してくるようなら、ドースンさんの忠告を考えます」


「それでいい。

 俺も、店が開店したら食いに行くから」


「ありがとうございます」


 ドースンさんにも挨拶を済ませてから、街をぶらつきながら店に戻った。

 それほど時間をつぶしたつもりはなかったが、それでも結構な時間を使っていたらしい。

 店に戻ると、店のなかではすっかり掃除も終わっており、片付けまでもが済んでいた。


「悪いな、片付け手伝えなくて。

 それよりも、部屋割りは決まっているのか」


「いえ、ご主人様がお戻りになるまで待っておりました」


「勝手に進めてもよかったんだけどもな。

 カトリーヌがこの店の主人だが。

 でも、まあいいか。

 決まっていないのなら、落ち着かないだろう。

 すぐに決めようか」


 店のつくりは三階建てで、一階部分が店になっており、二階と三階が生活空間になっている。

 前の持ち主も、二階で生活していたようで、三階は従業員用となっていた。

 まずは三階から決めていく。

 元のメイド頭であったゼブラからは、メイドたちは数人ごと一部屋で良いとの話だ。

 部屋数からしたら十分に一人に一部屋をあてがえるくらいはありそうだったが、そういう話ならと、二人で一部屋をあてがっていく。

 どうも一人部屋にすると落ち着かないという話だから、無理に一部屋を宛がう必要はない。

 ということで、メイド頭には一部屋を与えて、三階の管理もお願いしておいた。

 二階には俺の部屋に、この店の主人となるカトリーヌの部屋、それに彼女の娘にも一部屋を宛がった。


 部屋割りが済むと、部屋の中を確認。

 簡単な棚くらいはあるようだが、肝心の寝床がない。

 何が肝心かは置いておくとして、これではまずいと、俺はダーナとカトリーヌ、それに王都に詳しそうなゼブラを連れてもう一度街に出た。

 残りは店の中で休んでもらった。

 この店、ほとんど居抜きで買ったので、一階の店の方は客が使う椅子とテーブルだけはあった。

 それもかなり高級そうなものが。


 調理場の方はまだ見ていないが、そちらの方も明日辺りにそろえていくこととして、俺は4人で、家具屋を目指す。


 ゼブラは庶民が利用する家具屋には心当たりがないというが、貴族ご用達の店は知っていた。

 俺はそこでも構わないと、そこに案内をしてもらう。

 別に貴族ご用達の店は庶民に家具を売らないという訳ではないから、問題ない。

 しかし、家具の値段が庶民用の店とでは倍近くするらしく、最後まで渋っていた。

 自分が庶民用の店を探すと言ってきかなかったが、俺が行ってみたいのだから問題ないと、案内をしてもらった。


 案内してもらった家具屋は、店のつくりからして、明らかに上流客しか扱わないといった感じの作りだった。

 しかし、これくらいならバッカス酒店とそんなに変わらないと独り言のように言うと、ゼブラは、


「バッカス酒店ですって。

 そこは王都でも限られた人しか使わない高級酒しか扱っていない店ですよ。

 前のご主人様でも使えなかったくらいの格を持つ店ですが、そことお知り合いですか」


 なんか驚かれた。

 俺の方が驚いたよ。

 あのスケベ親父は、ただのスケベではなかったらしい。

 これは、少し前にドースンさんの話から感じたことだが、王都でも有名なスケベらしい。

 あ、いや、スケベは否定しないけど、有名人らしかった。

 これはドースンさんに感謝だな。

 モリブデンの高級娼館相手の商売だけに、高級酒は欠かせない。

 その仕入れ先としては申し分なかったようだ。

 俺の商売において、そんな高級酒を簡単にしかもそれなりの量を仕入れることができたのだから、これは感謝しかない。

 正直、俺の気持ち的には微妙だが、俺のモリブデンでの商売の成功はバッカスさんとの取引にあったようだ。

 あのスケベおやじと知り合いになったことが成功の元だったとは、なんだかちょっと考えられるものはある。


 気を取り直して、家具屋に目を向けると、こういった高級な店ではとにかく客を覚えている。

 貴族のメイド頭クラスともなると、店の方でも顔を覚えていたようで、すぐに奥に通してくれた。


「ゼブラ様。

 よくお越し頂きました。

 本日はどのようなご用件でしょうか」


 店の主人ではさすがにないだろうが、それなりの責任を持つものが対応してくれた。

 王都の貴族相手の商売をしている高級家具屋だ。

 ゼブラの主人、この場合元になるがその貴族が没落していることくらいは知っている筈なのだが、それでも丁寧な対応をしてくれている。

 貴族はとにかく横のつながりを大切にするから、メイドなどの使用人が他の貴族の家にでも引き取られたとでも考えているのかもしれない。

 まず、ゼブラは自分が俺の奴隷として俺の店で働くことを説明した後に、俺を彼に紹介している。


「レイ様ですか。

 これからも当店をごひいきにお願いします。

 それで、本日どのようは家具をお求めですか」


 俺はとりあえずベッドを見せてもらった。

 俺用に大きめのベッド。

 それにカトリーヌ用の割とおしゃれなベッド、それから従業員用のベッドを買うことにした。

 カトリーヌもゼブラもかなり遠慮していたが、二人には責任者としてふるまってもらいたいので、それなりの値段がするものをそろえた。


 従業員用でも、こういった貴族相手の店では取り揃えていたが、あまり質の悪いものは避け、それなりに値が張ったが、良いものを人数分買うことにした。


「配達は明日にでも…」


 店の者がそう言うから、俺がその場で持って帰るというと驚いていた。

 まず金を払ってから、店の許可を取ったうえでダーナにアイテムボックスに取り込んでもらうと、その場にいた全員が驚いていた。


 そういえばダーナのアイテムボックスについてはカトリーヌをはじめ店に常駐する者たちには見せていなかった。

 ダーナのアイテムボックスを俺の知らない間に容量を増やしていたようで、全部取り込むことができたようだ。

 それでも一杯いっぱいだとか言っていたけど、それでもこれだけ収容できれば大したものだ。

 アイテムボックスやアイテムカバンなどを貴族のメイドを長らくしていれば何回かは見たことがあるだろうが、それでもゼブラはこの容量の物は見たことがなかったらしい。


 うん、ダーナは実に優秀なのだな。

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