第169話  お姉さん方の身請け話

 

 波止場からお姉さん方と一緒に店にも寄らずにフィットチーネさんのところに出向く。

 フィットチーネさんの店を訪ねたら、フィットチーネさん本人が出てこられた。


「レイ男爵様……」

「え?

 フィットチーネさん。それは流石に無いでしょう。

 酷すぎます」

「「「??」」」

 俺の返事に周りが驚いている。

「レイさん。

 どういうことですの」

 流石に誰も聞けなかったのかお姉さん方の一人が俺に聞いてくる。

「私とフィットチーネさんとのお付き合いですよ。

 それに私の方が何度も助けられていたというのに、さすがに『レイ男爵様』はあまりに冷たい対応ですよ。

 お願いですから今まで通りに『レイ』で頼めますか」

「さすがに、男爵……レイ様。

 それは無理だというものですよ。

 領地持ちの貴族になられて、晴れてお国入りまで済ませたのならば私のような……」

「私が常識に疎いのはわかります。

 しかし、私も好きで貴族になった訳でも領地を拝領した訳でもありません。

 全部はやり病のせいなのですから。

 それもこれも、フィットチーネさんが知り合いとつるんでこの町で病院を開かせたのが原因ですからね」

「それは存じておりますが……」

「王都ではバッカスさんたちはすぐに元に戻してくれたのに。

 わかりました、この際私の方が譲りましょう。

 公の席では貴族として扱ってください。

 ですが、それ以外では今まで通りでお願いしますよ。

 特に私たち関係者以外がいない席では、私の方がお世話になっている側ですから私がフィットチーネさんの方を敬いますからね」

「え?

 それは……」

「お願いしますね」

 その後お姉さん方の助けもあり、その場は収まり俺たちはフィットチーネさんの店の中に入っていった。


 俺は本来この場に来たのはシーボーギウムで新たに始める船乗りの学校についての相談だったのだが、この町についての騒ぎもあり、先にお姉さん方の件を片付けることにした。


「フィットチーネさん。

 お姉さん方の件を先ほど聞きました。

 私としてはすぐにでも嫁に迎えたいのですが、店もあるようですし、そのあたりの相談をしたいと思っております」

「あの三人のことですね。

 私が引き取った時に、すでに彼女らは自分たちで自分を自由にできるお金を持っておりましたが、何分王都の貴族どもが煩くて、一旦モリブデンに来るまではと奴隷としておりました」

 そこからフィットチーネさんの説明があったが、すぐ前にお姉さん方から聞いた話とほとんど変わらなかった。

 だが、今後についての話だけはちょっと違った。

「今すぐに自由にしても、王都の貴族連中からの横やりが問題ですね。

 すぐにレイ様が身請けするのも、貴族となられたレイ様にとって果たしてよいことなのかどうか」

 フィットチーネさんの心配している内容としては、貴族ではあるが俺が男爵であることが問題らしく、これがただの商人だったほうがかえって問題にならなかったとも言っていた。

 何せ男爵位は貴族ではあるが下級貴族に類するもので、上位貴族にはなかなか逆らえないのが普通だという。

 奴隷の身分は主人がいることで保障されているのだが、その主人が男爵であれば上位貴族、特に王族あたりから無理を言われる恐れがあるとかないとかで、彼女たちを守るのにどうすればいいのか最近そればかり考えていたという。

 本当に俺はフィットチーネさんに迷惑ばかりをかけているらしい。

 頭の下がる思いだ。


 いろいろと相談の結果、お姉さん方はフィットチーネさんの奴隷のままでシーボーギウムまで連れていくのがいいという結論になったが、どのように連れていけばいいのかが問題になっている。


「それでしたら、フィットチーネさんもシーボーギウムにいらっしゃいませんか。

 何も拠点を移す必要はありませんが、シーボーギウムにもフィットチーネさんの店を出してもらえば、一緒に娼館も向こうで立ち上げて、その流れで彼女たちに来てもらうのです。

 シーボーギウムまで来てしまえば、他の貴族はいませんし、出入りする商人も今のところ商業連合から来てもらったフェデリーニ様くらいで、あとは彼の知り合いというか、病院の共同経営者のラザーニャ様がちょくちょく顔を出すくらいでしょうか」

「なら、安心ですね。

 あ、そういえばそのラザーニャ様から聞きましたが、シーボーギウムでも新たな事業を始めるとか」

「あ、そうそう、本来はその件を相談したくて戻って来たのでした」


 その後は、フィットチーネさんにラザーニャ様と話し合った船員養成の学校について相談を始めた。

「結論から言いますと、やはり船長などのキーとなる船乗りの確保につきますね」

「ええ、全てを奴隷で賄えればそれに越したことは無いのですが、奴隷にこだわるつもりもありません。

 いずれ奴隷仲間で人員をそろえられればいいだけですから。

 それよりも奴隷以外に宛などありますか」

「ここはこの国最大の港町ですが、腕の良いしかも性格まで良いのとなると……」

「え?

 性格も必要ですか」

「ええ、海賊上がりなどでは学校などできませんよ。

 しかし、人に教えられるくらいの船乗りとなると難しいかもしれませんね」

「となると、今頼んでいる船の船長にでもお願いするかな。

 今でもかなり拘束しているから、いい返事は期待できないけどな」

「そうですね。

 聞くだけ聞いてみるのも手ではありますかね」

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