第112話 従業員の補充検討
あまり長くモリブデンをあけるのが心配だ。
さすがにこれ以上ギルドがらみで問題は出ないだろうが、それでも心配にはなる。
一方、王都の店の方といえば業態が飲食業なので、店の中で騒ぎがあっても、モリブデンのようにややこしい話にはならないだろうし、何より目の前がバッカスさんの店だ。
何かあれば、従業員がバッカスさんの店に助けを求めに行くことになっているので、まず問題は起こらない。
まあ、俺もちょくちょく王都には顔を出すし、当分はモリブデンだけを気を付ければいいだろう。
それに、先ほど話に出た『捕虜奴隷』を購入できれば用心棒としても安心ができそうだ。
俺は、王都での仕入れを済ませた後に、モリブデンに帰っていった。
いったん自分の店に戻り、様子を確認した。
相変わらずの繁盛のようで、カトリーヌが抜けた後に、店長を任せているマイを捕まえて状況を確認したが、売り上げの方は順調に推移しているようで、他からの妨害行為や嫌がらせもなかったようだ。
店の前から暁さんたちを見かけなかったから聞いてみたら、ギルドより引き上げさせるとの連絡を受けているとある。
モリブデンを発つ前にしばらくしたら護衛も下げると聞いていたから予定通りといえば予定通りなのだが、お礼も言えずに護衛が無くなった。
そのうち暁さんたちに会うこともあるだろうから、その時にでもお礼を言うことにして、一度商業ギルドに向かった。
商業ギルドに入るとすぐに奥に通されて、ギルド長と面会をした。
ギルド長から事件の捜査も終え、暁の護衛も終わらせるとの連絡を受け、あの事件の処理をすべて終わらせた。
こちらとしてもこれ以上あの事件にかかわっても良いことないので、さっさと終わらせる提案には大賛成だ。
俺は商業ギルドを後にして、フィットチーネさんの店に向かう。
「これはレイさん。
お久しぶりです」
「ええ、フィットチーネさんお久しぶりです。
前に、フィットチーネさんに面倒をおかけした商業ギルドの件ですが、先ほどギルド長にお会いして、すべてが終わったことを確認してきました。
いろいろとありがとうございました」
「それはよかったですね。
私はほとんど何もしておりませんからお気になさらずに。
それよりも本日はそのお知らせで」
「ええ、それもありますが、相談したいことがありまして、少しお時間をいただいても……」
「ええ、本日はほかに予定もありませんから。
で、そのご相談とは」
俺はそこで、初めて従業員の補充について相談してみた。
その際に、王都でドースンにも同様な相談をして、近々放出される『捕虜奴隷』を探してもらうことを報告したうえで、モリブデンでも護衛もできる奴隷について相談してみた。
「捕虜奴隷ですか、ここでは聞きませんね。
王都で修行中には当然扱ったこともあります。
値は張りますが、良質の奴隷が多く、ほとんどコネでもなければ購入は無理ですから、レイさんは運がよろしいかと」
「そうなんですか、フィットチーネさん。
しかし、そうなると金額が問題ですね。
相場としてはどれくらいかわかりますか」
「相場ですか。
私が王都で修行中に扱った時には相場はなかったかと思いますよ。
それだけに、仕入れも難しく高値つかみもしたこともあります。
尤も。高値で仕入れても赤字にはなりませんでしたが。
年齢や能力で大きく値が違いますが、王宮からの放出価格は身代金が基本となります。
身代金に手数料を上乗せした金額で王宮からは放出されたはずです。
それをいくらで市場に出すかは、それこそ奴隷商の腕の見せ所という感じですかね。
尤も、相場も知らない奴隷商でもオークションに出すだけでもしっかり儲けられますしね。
あ、ここでいう相場というのはオークションに出品される奴隷たちの相場です。
レイさんもご存じの通り、これは本当に奴隷の持つ商品価値によりピンからキリまでありますしね。
多くの場合、『捕虜奴隷』と言われる人たちは豊富な戦場経験から冒険者や貴族の護衛用にと高値で取引がされているようですね。
そういう方たちはここモリブデンでも高値になりますし、そういう意味での相場からしたら大抵の場合には、放出価格は破格の安値で出されております。
これなどは王宮が犯罪奴隷などの処理に迷惑をかけている奴隷商に対する補填の意味合いもあるようですね」
「ありがとうございます。
内部の貴重な情報を教えてくださり、ドースンさんの勧める奴隷は言い値で買い取ることにしておきます」
そうなると補充についてはドースンさんからの話を待つだけか。
問題は価格だが、いくらになるのか。
前にオークションに出たこともあるが、相当高値になるんだよな。
俺はたまたま鑑定先生のおかげで訳ありを安く仕入れられたのだが、今度ばかりはそういうわけにもいかないだろう。
俺が予算について考えているとフィットチーネさんが話しかけてきた。
「購入価格ですが、もしよろしければ私のほうで用立てても……
いえ、きちんと利子はいただきます。
それに、その『捕虜奴隷』ですが、レイさんのところで持て余しても私のほうで簡単に処理できますし、何より十分な利益も望めますしね」
正直フィットチーネさんのこの申し出はありがたかったが、俺の懐にはまだ盗賊から奪ったお宝が処理できずにあるから、いよいよ困ったら王都で処理しても問題ない。
俺はフィットチーネさんにお礼を言ってから店を出ようとしていたら、最後にフィットチーネさんが思い出したようにこう言ってきた。
「来月にはなりますが、ここモリブデンで開港祭が行われます。
毎年開催されていますが、レイさんは初めてですよね」
「ええ、開港祭ですか。
前に王都であった建国祭のようなものですか」
「はい、そう思っていただけたら違いないかと。
尤も王都ほど盛大ではありませんが、王都と違うのは異国からの商人がたくさんやってきます。
その際に、外国の奴隷商も王都以上に船でやってきますので王都よりも奴隷が売りに出されます。
毎年掘り出し物もたくさんやってきますので、そちらもお考えに入れてはどうでしょうか」
はい、とても魅力的な提案を頂きました。
「そうですね、開港祭の時はフィットチーネさんにお願いしましょう」
そう言ってからフィットチーネさんと別れて自分の店に戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます