第111話 人手不足

 

 しかし、本当に毎日忙しそうだ。

 俺は人手は足りているかとカトリーヌに聞いてみると、今のところはまだ大丈夫と言ってくれたけど、まだ大丈夫だと云うのは、その内ダメになると言っているのと変わりがない。

 モリブデンに帰る前に一度ドースンさんのところに寄って相談してみた。


 ドースンさんは、俺が彼の問題をまとめて引き取ったことで前ほどの忙しさは無くなったようだが、それでもまだ前ほど暇ではないと言っていた。


「いや~、レイさん。

 今日はどうしましたか」


 最近のドースンさんはおかしい。

 まじめに仕事をしている。



「レイさんがどんなことを考えているかはおおよそ想像がつくがね。

 俺も暇じゃない。

 でなければ王都で奴隷商なんか維持できないよ」


 確かにドースンさんの言い分は正しい。

 しかし、やっぱりドースンさんの偽物?


 て、それどころじゃないか。

 俺も暇じゃない。


「おかげさまで王都の店も順調のようなんですが」


「それは何よりだ。

 俺も昼にちょくちょく利用させてもらっているが、盛況のようだしな」


「ええ、そうなりますと人手の方が心配になりまして、パンクする前に相談しておこうかと思いましたので」


「奴隷を増やすのか。

 しかし、レイさんの所は奴隷といっても普通じゃないしな」


「ええ、旦那様。

 レイさんの所ですと妙齢の女性で、しかもしっかりと教育がされていませんとちょっと」


「そうだよな。

 しかもレイさん面食いときている。

 性別や年齢だけでなく器量まで要求されるのだから、下手な高級娼館よりも条件がきつい」


「え、え、そんな。

 確かにうちには女性しかいないので、彼女たちのことを考えると、乱暴な男性は遠慮したいとは思いますが、そこまで条件を絞るつもりはありませんよ。

 あ、あ、それに今回は店の安全も考えて冒険者上がりでも良いかなって考えています」


「冒険者?」


 俺はモリブデンでのことを話して、ダーナやナーシャのように荒事にも対応できる奴隷も欲しいかと説明してみた。


「それは災難だったな。

 それこそ、いっそのこと王都に来ないか。

 店も繁盛していることだしな」


「ええ、それも考えましたが、フィットチーネさんのこともありますし、義理を欠いてまでではないかと」


「それもそうか。

 まだ、メイドでも抱えていたらすぐにでも預けたいのだが、おかげさまですべて売れたしな。

 他を聞いてみようか」


「え、あれってジョーカー案件でしょ。

 問題を抱えているのはもうたくさんかな」


「しかし、そうなるとといっても、今のうちの在庫では条件に合うようなのは……」


「旦那様。

 捕虜奴隷でもあたってみては」


「捕虜奴隷??」

 初めて聞いたような奴隷だな。

 前に奴隷の種類を聞いた時には出てこなかったやつだよな??


「ああ、悪い。

 レイさんにはわからないのも当然だ。

 『捕虜奴隷』って、いわゆる隠語だ。

 隠語というよりも王都の奴隷商の間で使われている業界用語のようなものだ」


 そう言って、説明してくれた。

 ドースンさんの説明よりもそのあとで家宰さんが詳しく説明してくれた方がわかりやすかった。


 それによると、『捕虜奴隷』っていうのは、戦争で捕まえた捕虜のうち、期限が来ても身代金が支払われない者たちを王宮が奴隷市場に放出する。

 まず、捕虜になる者たちは、一般の兵士たちではない。

 一般の兵士たちも捕まえては来るが、捕虜にはされずにすぐに奴隷市場に売りに出される。

 これは同時に捕まえてきた住民たちと一緒にだ。

 うちのカトリーヌ親娘なんかはこの住民たちに当たる。


 捕虜となるのは、兵士たちを率いる者たちで、ほとんどの場合貴族階級に属する者たちだ。


 中には兵士から腕一本で成り上がる者もいるが、そういうのはほとんどが戦死するか、逃げおおせるので、まず捕虜にはならないそうだ。


 そのうち、奴隷まで落とされる捕虜にも特徴があり、そのほとんどが下級の貴族の子弟なのだそうだ。


 男爵家の次男三男か子爵家の6男7男など、絶対に貴族社会の華やかな場面では活躍できない者たちだそうだ。


 捕虜を出す貴族にとっては早い話が損切りにされた連中だ。


 貴族だから戦場に身内を送らないといけないが、戦死も含め捕虜交換に際してもすべて貴族の責任において処理される。


 その損失まで含めて貴族には領地も含め特権が与えられているのだ。

 これは敵国に限らず、どこの国でもほとんど状況は変わらないとか。


「あれ、貴族には騎士階級っていうのがありましたよね。

 騎士は戦場に出ないのですか」


「いえ、どちらかというと戦場の主力になりますね」

「ならば騎士は捕虜にはされずに、全員が戦死ですか」


「いえ、騎士階級って、ほとんど財産がないのですよ。

 捕虜となっても身代金は用意できませんね。

 ですので、ほとんどの騎士の捕虜については寄り親や、国が身代金を払います」


 説明によると、騎士階級にはそれほどの領地も与えられておらず、まず身代金は払えない。

 戦争に行くのがやっとというのだ。

 だが、いざ捕虜となった場合に、奴隷にされるとなると、戦力の重要な部分を占める騎士階級が働かなくなる。

 戦争に勝つよりも戦死や捕虜とならないように積極的に戦わなくなってしまうのを防ぐために、その騎士が属する上級貴族、伯爵や侯爵などがまとめて身代金を払うらしい。


 尤も、まとめて支払いが発生するので、交渉で一人当たりの身代金は値切られるのが慣例となっている。



 これもあくまで慣例なので騎士階級でも身代金が支払えずに奴隷にされる者もいるが、ごくごく少数という話だ。


 その『捕虜奴隷』っていうのが近々放出されるというのだ。

 あ、この『捕虜奴隷』っていうのは奴隷商間で使われている用語で、王宮では『捕虜放出』とか『放出奴隷』とか言われているらしい。


 なので、戦力という分には文句は無い。

 また、貴族階級に属しているので、読み書きをはじめそれ相応の教育もされている者がほとんどなので、俺向けには問題ないだろうというのだ。


 まあ、戦場で捕まえてきているので、その多くが男性になるという話だが、中には女性もいるそうで、ドースンさんは女性を探してみると約束してくれた。


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