第113話 非常に高価な捕虜奴隷

 

 店に入ると、中は修羅場のようだった。

 店は変わらず忙しそうだった。

 店頭での販売そのものはほとんどおこなっていないので、店先からは忙しさは感じられないのだが、中ではいろんなものを作るので、人が忙しく働いている。


 ここは王都とは違い、メーカーのような位置づけだ。

 ポテトチップスの製造は今では鍋二つに増やして作っているし、石鹸も増産を始めたものだからそちらも大忙しだ。


 それにこの店にはメーカーとしての顔の他に工務店としての顔もある。

 実際に現場に行っている方は、こちらでは忙しさは分からないし、現場では危険もあるので無理だけはしないよう頼んでいるから別段忙しくしているわけもない筈だが、その資材までもこちらで造る関係上、鍛冶場の方は忙しくなっている。

 事故やケガが出ないようにしてほしいものだ。


 人手不足は、王都よりこちらの方が深刻かもしれない。

 頭の痛い話だ。


 それでも商売の方が順調のようで、助かる。

 何よりうちは、売り上げのうち仕入れ価格なんか無いものに等しいので、ほとんどが利益。

 この場合営業利益になるけど、税金なんか売り上げに関係なく一定であるので、しかも俺からするとほとんど無料に近い低額なので、営業利益はそのまま税引き後の利益にニアリーイコールだ。

 それに何より今年の分はすでに商業ギルドを通して一年分の会費と税金をまとめて支払っているので、どんなに稼いでもこれ以上お上に支払いがないのが助かる。


 ざるだな、この世界と思っていたけど、これにはきちんとした理由があるようだ。


 この世界では商人は税金としては支払う金額そのものは格段に少ない。

 だが、それだけ商人が優遇されているとか、楽して稼いでいるとかとはちょっと違う。

 普通の商人、特に店を構えているような商人には後ろ盾というのが存在する。

 大店になるとまず間違いなくその地に住まう貴族が後ろ盾になっており、その貴族との付き合いに非常に金がかかるので、税金として支払われる分が少ないとか。


 俺の立ち位置が非常にまれで、後ろ盾としてフィットチーネさんがいるが、普通商人の後ろ盾に商人がなることは無い。

 たとえのれん分けでも、あり得ない話だそうだ。


 のれん分けの場合には、のれん分けする前に働いていた商家の付き合いのある貴族か、その貴族の頼子になる。


 そもそも、後ろ盾に商人がなると内情を知られるだけに尻の毛まで抜かれることを警戒して、のれん分けした商人側の方で嫌がるというのもある。


 のれん分けでない他の場合でも、例えば成り上がりの商人でも、長らく行商や屋台を開いていた時に徐々に付き合いの幅を広げ、最初は地元の顔役、多くの場合アウトローになるが、そこからさらにのし上がると顔役の付き合いのある貴族といった感じで、俺のようにぱっと出てすぐに店を開くなどありえないので、だから商業ギルドの小役人にいいようにされたのだ。


 そのおかげといえば良いのか、今では商業ギルドも俺の後ろ盾のような感じになっている。


 しかし、その商業ギルドのギルド長から恐ろしいことを言われた。

「そのうち、領主様からお声がかかるかもしれないから覚悟しておけ」なんて。


 領主様はフィットチーネさんの後ろ盾でもあるから、あり得ない話ではない。


 正直あまりありがたくないけど、その分税金が安い?

 つくづく現代社会の社畜には貴族社会は分からない。


 それでも俺はそんな不安もすぐに忘れて、いつものように仕事に、ムフフに勤しんでいた。


 王都に仕入れのために一月後に訪問した時に、ついでにドースンさんのお店を訪ねた。


「お~、レイさん。

 待っていたよ。

 しかし、早かったな」


「???」


「え、聞いていない?

 ギルドに速達便を頼んだけど、届いていなかったのか」


「ええ、ギルドからここ一月ばかり何も言ってきてないですね」


「そうか、行き違いにでもなったか。

 まあ、いいか。

 それよりも、前に頼まれていた奴隷の件だが、捕虜奴隷の掘り出し物が入手できた。

 あれなら、十分に安いから、もしレイさんが要らないのなら俺の方で引き取るけどどうするね」


「どうするもどうもありませんよ。

 約束通り言い値で引き取りますけど、いったいいくらになりましたか?」


「お~お~、そうだな。

 今回は俺の手数料もだいぶ負けておくので全部で金貨千枚だ」


 金貨千枚……ありえないでしょ。

 ひょっとして王都の店よりも高いとか。


 よくよく話を聞くと金貨千枚は高いとは言い切れなかったが、それでも出費が痛い。

 それでも払えない金額ではなかった。


 王都にある店から金を集めて、手持ちもいれるとどうにか金貨で千枚は集まったけど、もうこれ以上は、王都には俺の金は無いくらいだった。

 最近始めた無臭の石鹸が特に売れていたので、金貨がかろうじて用意できたようなものだ。

 それでも金貨で10枚はまだ高価なものらしく、より小さな石鹸や品質の劣る割安な石鹸を求められたのは、予想の範疇だ。

 売りたくは無かったのだが、要望も強くあり娼館にも卸していることから、金貨で5枚の価格であの匂い付きの石鹸を卸すことにした。


 正直言って金が欲しい。

 金を使いすぎたとは思う。


 王都で、金貨を使い切ったのだが仕入れについては済ませているし、モリブデンに戻れば金貨で200~300枚くらいは簡単に集まるだろうから問題は無いだろうけど、さすが王都だけあって、簡単に金貨で4桁の取引が行われる。


 そういえば前に出たオークションもすごかったけど、ドースンさんが言うには、『レイさんは本当に運がいい。

 こんな上玉、オークションならば簡単に倍、いや5倍はするだろう』なんて言い始める始末だ。

 5倍って金貨で5千枚だ。

 どんな金持ちが買うんだよと、心の中で突っ込みを入れておく。


 でも、俺にとって金貨千枚の奴隷ってと思ったけど、よくよく聞くと俺の買う奴隷が一人ではなかった。


 騎士爵の捕虜に付き人の家来が二人の三人での金額らしい。


 王宮からも面倒だからまとめて引き取ってほしいといわれていたらしい。


 それで金貨の内訳は元騎士が金貨で600枚、家来が一人200枚ずつの二人で400枚、それで合計で金貨千枚としたようだ。


 こまごました計算をしたらもっと行くようだったが、先の貴族のメイド奴隷の件で、俺に借りがあるとかで、大負けでと言っていた。

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