第17話 初めての奴隷 ナーシャ

「お待ちしておりました、レイさん。

 準備ができておりますからすぐに始めましょう」


 フィットチーネさんはそう言うと、家人に合図を送りあの獣人、虎人族の少女を部屋の中に連れて来た。

 連れて来た時とは違い、かなり回復していそうだ。

 相変わらず痩せてはいるが、これは追々、良いものを食べさせればすぐにでも健康体にまで回復するだろう。


「まずはここにレイさんの血を頂けますか」


 そう言うと、小さなナイフを俺に手渡してきた。

 そういえばギルドでも登録時に少しばかりの献血をしてきたな。

 僅か数滴で献血とはおこがましいが、この世界では頻繁に血が取られる。

 遺伝子情報なら唾液でも取ることができる筈なのに、いったい何を求めているのだろう。

 まあ、俺は云われるままに数滴の血を複雑にできている装置の中に垂らした。

 既に彼女の血も中に入れてあることなので、俺の血を入れると装置は光り出して、彼女にある痣のようなものに変化が出た。


「成功です。

 彼女はレイさんの奴隷として彼女の魂に刻まれました」


 何、魂に何を刻むの、怖い。


「初めまして、ご主人様?」


 か細い声で俺に対して挨拶をしてきた。

 疑問形なのが少々気にはなったが、そこはご愛嬌だ。


「ああ、レイという。

 君のことは気の毒とは思うが、こうするしか君を救うことができなかったので、奴隷にしたが、酷くは扱うつもりが無いので安心してほしい」


 俺がそう言うと、彼女は少しはにかみながらも笑顔を見せた。


「そうだ、君の名前を教えてはくれないか」


 俺と奴隷少女とのやり取りを見ていたフィットチーネさんはさも珍しいものを見るような目でこちらを見ている。

 いや、フィットチーネさんだけでなく部屋の中にいた彼の家人たちも同様だった。

 俺が奴隷とのやり取りに慣れていないのが面白いのかな。


「ナーシャ。

 ナーシャと言います、ご主人様?」


 まだ、疑問形だな。

 どうも俺への呼びかけに自信がないらしい。

 旦那様でも良いし、レイ様と呼ばれてもうれしいかも。

 イヤイヤ、俺はロリじゃない。

 少女にご主人様と呼ばれて、ニヘラ~となんかするはずがない。

 彼女はもう少し育ってからだ。

 まあ、俺への呼びかけはそのままでいいか。


「レイさん。

 レイさんは奴隷についてどの程度の知識をお持ちでしょうか?」


「いや、全く」


 俺は奴隷そのものがない世界か、いや、社畜という奴隷階級出身だったが、それでもこの世界で言う奴隷は知らない。

 なので正直に答え、フィットチーネさんに教えを請うた。

 フィットチーネさんは、その道のプロだ。

 初めて奴隷を持つ人についての注意事項について丁寧に教えてくれた。

 今回の場合、違法奴隷ということもあり、かなりイレギュラーの様で、まず、税金の話からだ。

 違法奴隷は所有者の変更が利かないことから財産にはならないが、奴隷であることに変わりがないために、一律に一生分の税金が取られると言う。

 それは、登録する町々で異なるのだそうだが、この町では金貨100枚。

 まあ、この辺りが相場だとか。

 まあ、あまりいないので、相場そのものが怪しくなるそうだが。

 だが、今回は異例で、俺が所有するとのことで、先の盗賊征伐の功と相殺する格好で、その金貨100枚の税金は免除されたそうだ。


「ですので、レイさんがこの町を拠点に置いている限りこれ以上の税金はかかりません。

 ですが、新たに奴隷をご購入するときには注意が必要です」


 と言って、一般的な奴隷についても説明してくれた。

 奴隷もいくつかの種別があり、それぞれに異なる税金が掛かるのだとか。

 性奴隷などが一番高くて、一人につき年間金10枚、次に戦闘奴隷が高く、年間8枚、雑務など扱う従僕奴隷などが金貨5枚になる。

 また、これは年間の税金で、支払いが遅れると、財産を没収されるし、下手をすると主人が犯罪奴隷にまで落とされることもあるから注意が必要だとか。

 その後は、たとえ自分の財産だとしてもむやみやたらに殺してはいけないだとか。

 まあ、この辺りはあまり罰せられることは少ないそうだが、商人としてやっていくには、評判に関わるから、あまりぞんざいに扱わない方が良いともアドバイスをくれた。


「まあ、今のレイさんを見ていたら問題なさそうですが、そういうのもあるとご理解ください」


「良く分かりました。

 ありがとうございます」


 その後、彼女も冒険者として登録する方が何かとお得という話を聞いた。

 冒険者として登録されていると、行商に出ても、要らない税金が取られずに済むだとか。

 それにせっかくの虎人族の少女なのだから、護衛として使わない手はないとまで言っていた。


「話は以上です。

 あ、頼まれていた屋敷の件ですが、ちょうどよさそうなものを見つけましたので、今色々と調整中です。

 明後日にでも案内できるかと思いますが、ことのほか格安で入手できそうです。

 ご期待ください」


「預けた金額で足りますか」


「十分です。

 余るくらいです。

 まだ確定していないので、正確なところは申せませんが、楽しみにお待ちください。

 あ、もう彼女を連れまわしても大丈夫ですから、彼女もあの娼館にでもお連れ下さい」


「ありがとうございます」


 俺はフィットチーネさんにお礼を言って、また冒険者ギルドに戻っていった。

 ナーシャの冒険者登録をするためだ。

 歩きながら、ナーシャに色々と聞いた。

 話を聞いた限りでは、彼女はまだ幼いためかそれほど強くは無いと言うが、それでも普通の冒険者よりも十分に強そうだ。

 攻撃の主体は身体能力を使った直接攻撃が最も得意だそうだ。

 それに気配察知などのいくつかのスキルのようなものまである。

 冒険者ギルドに着いたのは昼過ぎで、流石にこの時間になるとギルドの受付は空いていた。

 俺はナーシャの登録を済ませようと受付に向かう。

 俺の担当になった?あの新人のマーサさんがニコニコと俺のことを待っている。

 あの厳つい主任でないだけましだが、どうも俺は目を付けられているようで居心地が悪い。


「マーサさん。

 こんにちは」


「こんにちは、レイ様。

 今日はどのようなことで」


「ああ、俺の奴隷となったナーシャだが、彼女の登録をしたくてな」


「虎人族の方ですね。

 この辺りでは珍しい種族ですね。

 こちらにご記入願います」


 マーサさんはそう言うと俺も書いた申込書を目の前に出してきた。


「ナーシャ、これを自分で書けるか」


 俺がそう聞くと首を激しく横に振る。

 まあ、この辺りは定番だな。

 文字を書ける方が珍しくもあるそうだ。

 その辺りも俺がオイオイ教えて行こう。

 読み書き計算ができないと、この後商売するのに差し障りが出る。

 せっかく一緒に居るのだ。


 護衛だけではもったいないしな。

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