第18話 俺の拠点

「ナーシャに書けなければ俺が代わりに書くとしよう。

 名前は、ナーシャっと。

 年齢?

 ナーシャ、年はいくつになる?」


「分からない」


 どうしようか。


「ああ、わかる範囲で結構です。

 歳などは適当でいいですよ。

 知らない方も相当数おりますから」


 なら13才と。


「レイ様。

 後はレイ様所有としてご記入願います。

 あ、それとレイ様の登録にも変更願を書いてくださいね。

 あと、これがパーティー申請です」


「パーティー申請?」


「ええ、レイ様の奴隷ですからご一緒するのですよね」


「ああ、そうなるかな」


「なら、パーティーとして申請してください」


 何やら俺の時以上に色々と書類をかかされた。

 やっぱりギルドもお役所だったな。

 何枚もの書類を書いてやっと解放された。

 まあ、書類を書いている途中で、彼女の装備などを揃えるのにお勧めの店などを聞いていたから、全く無駄ではなかったが、とにかくこういうものはどこでも面倒が掛かる。

 無事登録が終わり、ギルドを出て買い物に向かった。

 防具と、武器を買い、ナーシャに渡した。

 渡した武器は初心者用と言ってもかなり貧弱なので、どこかできちんとしたものを買いなおさないといけないかもしれないな。

 まあ、渡したナーシャは非常に喜んでいたようなので、これでもいいかなとは思うが、今先は未定だ。

 この後普段着を買いに行くつもりだったが、ひとまず町から出て、近くで、武器や防具の具合を試した。

 かなり気に入ったようで、相当動き回り疲れてきてやっと納得したようだ。

 もう日も傾きだして夕方になり、町に戻った。

 俺たちは急ぎ古着屋に向かい、ナーシャの服を選んだ。

 ナーシャ自身は遠慮しているのかなかなか選ばないので、俺は店員を捕まえて、お任せで、数着選んでもらい、お金を払い店を出た。

 その後は、ナーシャを連れて娼館に戻った。

 既に娼館にはナーシャのことは知らせがあったようで、俺は連れていても何も変わりなくナーシャと一緒に中に案内された。

 その後、娼館にいる全員と食事を頂いた。

 食事後は禿にナーシャは風呂に連れて行かれたので、俺はいつものコースで朝まで……

 翌朝、一人置いて行かれたナーシャにすねられたが、お姉さんたちに宥められてどうにか収まった。

 俺たちはそのままギルドに行き、薬草収穫の依頼を受け町の外に出た。

 町の外に出てから、森の方に向かって歩いていく。


「この辺りで問題ないか」


「ご主人様?」


「ああ、俺は薬草を探すから付近の警戒を頼む」


「警戒だけですか?」


「大丈夫なら、見つけ次第倒しても良いよ。

 まず、好きにやってみようか。

 もし不味かったら、俺が止めるから、その時には直ぐに止めてね」


 そこから俺は薬草を探しながら、ナーシャを観察していた。

 半日ばかりで、ナーシャは3匹のコボルトを見つけ、その都度瞬殺だった。

 これは思わぬ見つけものだな。

 周りが皆珍しいとばかり言うから、どの程度やるものかと思ったが、俺の想像以上に戦闘力は高い。

 これなら、行商に出ても十分に護衛として使えそうだ。


「ナーシャ。

 そろそろ今日は戻ろうか」


「ハイ、ご主人様?」


 相変わらず、俺への呼びかけは疑問形だ。

 まあそのうち治るだろうから今は良いか。

 俺たちは仲良く、戦利品を抱えて冒険者ギルドに戻っていった。

 まだ日も高いので、他の冒険者は帰ってきていない。

 窓口もかなり空いており、いつものようにマーサさんが担当してくれた。


「おかえりなさい、レイ様」


「ああ、ただいま。

 これをお願いできますか」


 俺はそう言うと薬草の束を取り出してマーさんに渡した。


「今回も、いや、前よりも多いですね」


「ああ、二人で採集すればこんなもんだろう」


「でも、新人さんとして上出来以上の出来ですよ。

 これならすぐに次のFランクになれますね」


「前にも話したけど、ランクにはこだわるつもりはないよ。

 本業は行商するつもりだからね」


「ああ、行商と云えば、レイさんの取り分の樽ですが、そろそろ引き取ってはくれませんか。

 主任からもそう言いつかっているので」


「すみません。

 そうだな、荷車でも借りれますか。

 流石にそのまま三樽は持てませんからね」


「荷車なら、只でも貸せますからすぐに準備します。

 が、大丈夫ですか。

 私が言っていてなんですが、重いですよ」


「ああ、俺一人ならマーサさんの忠告を素直に聞くが、今なら力持ちの仲間がいるから大丈夫だ」


 俺がそう言うと隣でナーシャが何だか嬉しそうにしている。

 俺から頼られるのがうれしいらしい。

 あれ、もう俺に懐いたのかな。

 まあ、仲良くなれるのなら、その方が断然いいからね。

 俺とナーシャはマーサさんについてギルドの裏に回った。

 倉庫からマーサさんが一台の荷車を重そうに引いてきた。


「レイ様。

 これをお使いください。

 あとお預かりしている樽はこれです」


 そう言って傍に置いてある樽を指さしていた。


「分かった、ありがとう」


 俺はナーシャの方を見て「これを積もうか」と言うとナーシャは嬉しそうに軽々と樽を持ち上げ、荷車に積んでいく。

 俺も手伝おうかとしたら、直ぐにナーシャに止められて、三樽をあっという間に荷車に積んでしまった。

 それを見ていたマーサさんが驚いたように一言零す。


「本当に力持ちなんですね。

 あ、すみません。

 荷車はここに返してくれたらいいですから」


 そう言って、マーサさんは忙しそうに走ってギルドの中に帰っていった。

 俺は誰も見ていないことを確認してから、そっとアイテムボックスの中に三樽を仕舞い、端のちょっとわかりにくそうな場所に荷車を返しておいた。


「ナーシャ、俺はフィットチーネさん宅に行くけど、一緒に来るか」


「どこまでもご主人様?とご一緒します」


 相変わらずだが、ナーシャの気持ちは分かった。


「いつまでもここに居ては俺の秘密がばれてしまう。

 さっさと行くとしよう」


 俺は奴隷となったナーシャを連れて、フィットチーネさん宅に向かった。

 もう、定番となるバトラーさんの出迎えを受け、ナーシャとフィットチーネさんの執務室に入る。


「レイ様、お待ちしておりました。

 頼まれていた拠点の件ですが、準備が整いました。

 これから見に参りますか」


「直ぐに見れるのですか」


「ええ、ご覧になりますか」


「是非に」


 そう言うと、既にこの状況を予測していたのか、屋敷前には馬車が用意されていた。

 俺は、フィットチーネさんとバトラーさんと一緒に馬車に乗り込んだ。

 馬車は直ぐに目的の場所に到着した。

 ここは上流階級が住まうエリアと繁華街とが交差する場所だ。


 そう、フィットチーネさんが準備しているあの娼館の直ぐ傍だ。


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