第19話 商業ギルドへの登録

「あの、ここって」


「ええ、私どもの娼館の傍です。

 何かと近くなら便利かと思い、この辺りを探しておりました」


「そんなにして頂いて、何とお礼を言ったらいいか」


「いえ、レイさんにはこれでも足りない御恩があると思っておりますからお気になさらないでください」


 そこから、その用意してくれた屋敷の中に入る。

 築年数はそこそこ経っており、決して綺麗と言えるような代物では無いが、それでも汚いと言うまでには至っていない。

 何より場所が良い。

 繁華街のはずれとはいえ、この先には優良顧客が住まう上流階級のエリアが控えており、何より高級娼館も直ぐ傍にあるために、そう言ったブルジョワが多数この辺りに来ることが決まっている場所だ。

 下手をすると、今の繁華街の中心地がこちらのほうにずれてくることもありそうなくらいに最高の立地だ。

 しかし、そうなると少々心配になる。

 俺がフィットチーネさんに預けているお金で足りそうに無いのだ。


「あの、フィットチーネさん。

 用意していただいたここですが、費用の方はいかほどに……」


「ああ、レイさん。

 ご心配なさらずに。

 この建屋を見てもらえば判るように、かなり年代が立っており、建物には価値がありません」


 フィットチーネさんは簡単に言い放つが、そんな筈あるか。

 俺を気遣ってのことだろう。


「ここを入手するためにかかった費用は、ほとんどが土地代ですね。

 後は、契約に関するための諸経費と言ったらいいか……」


 まあ、今の時代に公正な取引などは無いのだろう。

 こういった大物を仕入れる場合にはありがちなワイロと云えばいいのか、各方面に多少はお金をばらまく必要があるのだろう。


「お預かりしております金貨800枚の内、500枚ほど使わせていただきましたから、残りは明日にでもお返しできます。

 あ、でも、この後商業ギルドへの登録をなさるのですよね。

 その場合に少々費用が掛かりますから、その費用も差し引いてからお返ししましょう」


「そうしていただけますと大変助かります」


「まだ時間に余裕がありそうですね。

 レイさん、どうです、これから商人ギルドに行きませんか。

 ここからもそんなに距離はありませんから」


「そうですね。

 今日中に終わらせることが可能でしたら、全て終わらせたいですね。

 お願いできますか」


 フィットチーネさんとのそのまま商業ギルドに向かうことになった。

 ここから商業ギルドまでは繁華街を抜け、冒険者ギルドと、領主館を挟んで反対側にある。

 どちらかと言うと商業ギルドの方が遠い位か。

 それでも馬車では直ぐに着き、驚くことに、いや、この町の有力者であるフィットチーネさんと一緒なのだから覚悟していない俺の方が悪いのだが、商業ギルドに入るや、直ぐに奥の応接に連れて行かれた。

 その応接で、商業ギルドのギルド長と、主任に挨拶された。

 うん、商人に限った話では無いが、人脈って大事だよな。

 そういう意味では俺は本当についていた。

 まるで、物語にあるような展開だ。

 最初に女神に遭って色々とスキルを貰っていないが。

 あいさつの後、フィットチーネさんが俺の商人ギルドへの登録を依頼したことから、直ぐに登録の処理がなされた。

 どうも事前に話が通っていたようで、本来ならば色々と試験やら、審査やらがありそうなのだが、そういったものは一切省かれて、冒険者登録のように、書類記入だけで、最低限の資格で登録ができた。

 あ、最低限って言っても、あくまでこの町で店を構える資格に置いてだ。

 普通の商人としては行商から初めて、屋台、そして店舗になるということだが、俺はその前座を省かれての登録だ。

 尤も、行商においては冒険者資格でも何ら問題は無く、多くの駆け出しの商人はある程度行商が軌道に乗って、馬車を持つようになって初めて商業ギルドに登録するようなのだが、そういう一切の面倒を省けたのは、本当にフィットチーネさんのおかげに他ならない。

 でも、登録に際して登録料として金貨50枚と年間の会費が同じく金貨50枚、合計で金貨100枚が支払われた。

 この支払った金貨はこの町の領主への税金も兼ねているから、今年は税金の支払いはこれで済ませたことになる。

 身分証としての商業ギルドカードができるまで、俺は商業ギルドのお偉いさんと、世間話をしている。


「ちなみに、レイさんはどのようなものを商うおつもりですか」


「ええ、今回の盗賊がらみで、塩の樽を3つ頂きましたので、塩の行商でもと考えております」


「塩ですか。

 ………」


「あの、塩ってまずいのですか。

 許認可とか、利権などの関係でぽっと出が扱えないとか」


「正直、難しい物はありますね。

 あ、でも、レイさんの心配するようなことではありません。

 物があればだれでも商いはできます」


「今は、物はありますから私でもできると言う訳ですね」


「ええ、ですが、その後なんです。

 私が心配しているのは」


「その後ですか……」


「その、塩が何故高額で取引されているかご存じですか。

 仕入れが難しいのですよ。

 今ある分は商いができるでしょうが、売り切れたらまず仕入れはできないでしょうね。

 塩の産地は大店が全て押さえておりますから」


「この町で塩はどうしているのですか」


 俺は、海が近いこの町で塩が作られているかを知りたかった。

 俺が見た限り、塩田が無い。

 まさかとは思うが……

 商業ギルドの主任さんが俺に教えてくれた。


「レイさん。

 流石、フィットチーネさんが目を付けただけありますね。

 この町は海が近いこともあり、高級料理店や上流階級でない家庭においてだけは、塩の需要がありません。

 皆海水を工夫しながら使っておりますから」


「海水をですか」


「ええ、海水が塩の代用として使われております。

 また、近くの村々においては行商などが海水を売りに歩いていることもありますが、いかんせん効率が悪すぎる上、海水って時間が経てば腐りますしね、レイさんにはお勧めできません」


 え、海水をそのまま使っているって話だよな。

 海水から塩を作っていない。

 なぜ???


「海水を使って塩を作らないのですか」


「未だに、そういう夢を見ている商人はおりますが、どうしても商品として使えるようなレベルの物はね~~」


「レイさん。

 海水を蒸発させれば、塩っぽいのはできますが、混ざりものが多いのでしょうか、美味しくは無いのです。

 岩塩の物と比べるとどうしてもね~」

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