第39話 ドースンさんの願望
執務室に入ると既に仕事中のフィットチーネさんが、今していた仕事の手を休めて俺に一通の手紙を渡してきた。
「レイさん。
すみませんが、これを王都にいるドースンさんに渡してもらえませんか。
一応、冒険者ギルドを通して指名依頼とさせていただきますから」
「ええ、私も王都に行ってお酒を仕入れたいと思っていたところです。
それに、最初にドースンさんから受けた依頼でもありますから、その報告に行かないととは思っておりましたからお気になさらずに。
ご依頼の件、お受けいたします」
「お酒の仕入れですか。
すみませんね、急なお願いで」
「いえ、こちらこそ助かります。
いきなり優良顧客ができましたから、フィットチーネさんに見放されないように頑張ります」
「レイさんを信じておりますから。
それに、昨日卸していただいた分もありますし、当分は大丈夫ですので、無理だけはしないでくださいね」
そんなやり取りをした後、俺たちはフィットチーネさん宅を出た。
「ご主人様?
これからどうしますか」
「王都に向かおうかと思っているが、お前たちはまだここでやることがあるのか」
「いえ、ならすぐにでも向かいましょう」
俺たちはそのままモリブデンの町を後にした。
本当にアイテムボックス様様さまさまだ。
一々準備に時間が取られないのが良い。
俺たちはモリブデンの町を出たら、そのまま街道を急ぐのではなく、森に入り、ダーナには弓の練習をさせ、ナーシャと一緒にアポーの実を探しながら王都に向かう。
来る時には通過したジンク村にも寄って、宿を取る。
実はここにも用があったのだ。
前に寄った時に、ジャガイモをこの村の市で見つけていたのだ。
あの時には、『へ~、そんなものまであるんだ』くらいに感想しか持ち合わせていなかったので、買わずに王都に向かったが、今回は違う。
娼館のお姉さま方につまみの希望を聞いたことだし、何より、良質な塩の入手できたのだ。
これはあれを作らない訳にはいかない。
俺は、ジンクの村でそのジャガイモを仕入れられるだけ仕入れた。
麻の袋で、10袋ばかり仕入れてダーナを使って俺のアイテムボックスに入れた。
まだ、ダーナはアイテムボックスが使えない。
いや、本当に時々だが、成功はするのだが、取り込むが難しいらしく、今のところ成功率で3割くらいか。
取り出しについては本人の申告で7割くらいの成功率だと言っている。
取り込みについては目の前で見ているので、どれくらい成功したのかはわかるが、取り出しだけは本人しか分からない。
何せ、本人の心の中の作業だから、取り出しを失敗したのか、そんなことはしていなかったのかが外からは分からない。
だが、少なくともどこか異次元に物をやってしまうことだけは無いそうだ。
そういえば俺の時もそうだった。
正直、取り込んだものが知らないところに行ってしまったことは無かった。
なので、安心して練習ができる。
まあ、俺の時はその辺に落ちている木や石などを使ったので、どこかに行っても実害はなかったのだが。
ダーナにはあれからアポーの実を使って練習させている。
ジンクの村では定宿としている、と言っても今回で二回目なのだが、その宿で、本日も治療?をしている。
「ご主人様~~♡」
もう完全に別なものだ。
それに、今回の治療で、あの体に浮かぶ光点は無くなってしまった。
今では体に浮かぶのは精々ピンク色した点しか見つけられない。
「今回ので、治療は終わったようだ。
スキルは使えるようになったことだし、明日からは治療をしなくとも良いな」
「え~」
ダーナは酷く落胆している。
ダーナも完全にあの治療を誤解している。
いや、誤解ではないが、治療もしていたからある意味誤解も正しいともいえるが、ダーナの落胆は別物だ。
俺はダーナをなだめるように耳元でそっと囁く。
「ダーナ、安心しろ。
治療はしないが、夜のお勤めまでしないとは言っていない。
大事なダーナの仕事だしな」
「はい、ご主人様♡。
私の大事な仕事ですね。
十分にご期待に沿えるように頑張ります」
その夜も部屋の中にはダーナのあの嬌声が遅くまで響いた。
クレームがつかなかったのはこの宿のもう一つの営業に、そういったものまであるからだ。
小さな村ではよくあることだが、冒険者や旅人が通る村には少なからず娼婦がいる。
しかし、全てのそういった村に娼館がある訳では無く、そういった役割をこういった一部の宿が娼館に代わりに担っているのだ。
だから、こういった声などは俺の部屋からだけではなく、あっちこっちからも聞こえて来る。
前に泊まった時にも同じようなものだったから、今回も俺たちの宿にしたのだ。
今回の王都行は前回同様、ほとんどの途中にある村に寄って、その村々の特産品などを探しながら王都に向かった。
全て街道を通らずにだ。
ダーナのレベル上げと、アポーの実の収穫のためだった。
王都からモリブデンの町まで帰る時には6日で着くことができたが、今回も前回同様10日かけて王都に着いた。
途中の村ではジンク村で仕入れたジャガイモの他、いくつかの村で大豆や植物由来の油も仕入れることができた。
これで、あれが作れる。
そうおつまみに最適で、簡単に作れるものと言えばポ・テ・チ・である。
あのパリッとした食感のポテトチップスができる。
塩味しか作れそうにないが、それでもこの世界でまだ俺は見ていないから、珍しさと美味しさで絶対に受けるだろう。
まずは上流階級のサロンと化しているモリブデンの娼館からはじめよう。
モリブデンに帰ってからのことを考えながら、まずはルールに従い、冒険者ギルドに行く。
もう、商業ギルドでもいいが、まあ、明日にでも商業ギルドには顔を出すとして、この後はドースン奴隷商に向かった。
ドースン奴隷商ではあの支配人に出迎えられてドースンさんの執務室に案内された。
「おお、早かったな。
で、結果は。
俺の希望は叶ったかな」
「ええ、フィットチーネさんやお姉さん方にお話ししましたところ、一度くらいは私の顔を立てるということで、了解を貰いました。
これがフィットチーネさんからの手紙になります」
俺はそう言ってから手紙を差し出した。
それをドースンさんは奪い取るようにすぐに受け取り、俺の前で、何も言わずに一心不乱に読んでいく。
この人、本当にスケベだ。
どこまでやりたかったんだか。
まあ男なら、分からないでも無い話だ。
あの超美人のお姉さん方が相手をしてくれるとなるなら、誰でもそうなるのかな。
しかし、やりたい気持ちも分からなくは無いが、もう少しどうにかならんものかな。
少なくとも俺の見ていないとこでとか、絶対に身内以外に見せて良い姿では無いな。
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