第10話 盗賊たちのアジト
ギルドでは、朝から多くの冒険者が受付の前に多数屯していた。
これでもピークは過ぎているという話だ。
良い案件はすぐに埋まっていくので、冒険者の朝は早い。
しかし、改めて俺は異世界に来たことを実感した。
ここに居るほとんどが人族だが、それでもちらほらと獣人と思われる人や、明らかに魔物ではと勘違いしそうな鱗に覆われた人、あれは夢にまで見たエルフもいた時には思わず涙が出そうになったくらいだ。
俺の初めてのクエストだ。
できるのなら美人とお知り合いになりたくて、列の一番長い窓口に並んだ。
長い列はなかなか進まない。
そうこうしていると、並んでいる列の隣の受付が開かれた。
受付に座っているのは昨日俺たちを案内してくれたあの、イレブンさんの知り合いだ。
多分、この場では一番偉いのだろう。
受付の主任さんくらいかもしれない。
周りにいる冒険者も怖がって誰もその窓口には近づかない。
中には、傍に寄るのも躊躇ったのか、今ならんでいる列からも離れて行く者もいた。
そんな彼と目が合う。
彼は手で合図を俺に送る。
『並んでいないで、俺のところまで来い』そう言っているのだ。
俺は諦めて、列から離れて、彼の居る窓口に向かった。
周りで並んでいる冒険者から誰一人として、俺に非難の目を向けない。
それよりも、『勇者だ』と言った尊敬を込めた目を向けるのまで現れる。
怖そうではあるが、俺も全く知らない人では無いので、そこまで恐れてはいないが、あの人はここら辺りでは恐れられているのかな。
「君か。
昨日の今日で早速、仕事を探しに来るのなんて見上げた心がけだ。
それとも違うのか?」
「いえ、全く冒険者というのを知りませんから、簡単な仕事をこなして慣れて行こうかと思いましたので」
「ああ、それなら私が相手をしようじゃないか。
君は、まず装備を整えることからはじめないとな。
まずは資金集めからだが、君の場合、もうしばらくすると報奨金がしこたまは入るだろう。
それを使うと良いが、そうだな……
薬草集めでもしてみるか。
今の格好でも出来る簡単な仕事だ」
「ならそれでお願いします」
「まあ、その格好も含めていっぱしの冒険者の準備するのは報奨金が出てからかな。
頑張れよ」
俺は昨日通ってきた道をそのまま逆に手繰りたぐり、初めてのお使い……もとい、初めての依頼をこなしに町を出た。
門番に一度止められたが、俺があのフィットチーネさんの知り合いと知る同僚に何か言われたのか、そのまま通してくれた。
俺としては、ここではせっかく貰ったギルドカードを高らかに示して、冒険者として門を通りたかったが、手間もかからずに通れたので、良しとしよう。
道々、俺のスキルであるアイテムボックスを使い、依頼の薬草だけを収納していく。
一々探さなくて助かるのだが、冒険している気になれないのが欠点だ。
俺は、何も考えずに、昨日の道のりを逆に歩いているだけだが、数時間もすれば、一昨日襲われた森の中にいた。
そういえば、一昨日おれはここで襲われたのだが、本当に運が良かったともいえる。
物語よろしく、あそこでフィットチーネさんを助けたことで、何の問題無く町の中に入れてもらえた。
今考えると、あそこで、俺が逃げ出していたら、そしてすぐ後からフィットチーネさんが盗賊に襲われていたという情報がここにもたらされたら、今頃は俺は檻の中、下手をすれば、その場で盗賊の仲間として処罰されていたかもしれない。
結果論だが、とにかく助かったと言えよう。
しかし………
いくら助かる為と言っても、一昨日のあれはやりすぎだったな。
俺の目の前には土石流にでもあったかのような惨状が広がっている。
街道だけはあの場所からやや高くなっていたので助かっていたが、街道よりも低い場所の惨状は、とにかく目を覆いたくなるばかりだ。
立つ鳥跡を濁さずの精神じゃないが、日本人として、俺の行為の結果だけくらいは後片付けをしないとなんだか落ち着かない。
あの後は、俺のアイテムボックスのことを他に知られる訳にはいかなかったので、ごまかし程度しか手を加えなかったが、今なら綺麗に片づけられる。
とりあえず俺は倒木やら石やら目につくものを手当たり次第に収納していった。
収納だけだから、本当に手間もかからず、あっという間に終わった。
そういえば、一昨日も感じたのだが、あっちの方角に何やら気になって仕方がない。
他に盗賊でもいたら町に戻って報告しようと、注意しながら気になる方角に向かって森の中を歩いて行った。
2時間ばかり歩いただろうか。
目の前に小高い岩山がある。
どうしてこんな岩山を気にしたのだろう。
岩山の上に何かあるのかと思い、登れそうな場所を探していく。
するとすぐに岩山にある洞窟を見つけた。
しかも、洞窟の中から生き物の気配がする。
………あ、これって気配感知とかいうスキルか。
まあいいか。
気配は感じるが、危険には思えないので、俺は恐る恐ると中に入っていく。
それほど深い洞窟では無いが、中は広々として、あの盗賊たちのねぐらにはもってこいの環境だ。
そう思った矢先に、目の前にお宝を発見。
これって、盗賊の物だよな。
確かフィットチーネさんの説明でも盗賊のお宝って、発見者の物になると聞いていたので、俺は遠慮なく収納へ。
いくつかある樽の中には香辛料が詰まっている。
また、酒もビンに詰まった状態で、かなりの本数があった。
当然、金貨もお宝箱に詰まった状態で、かなりの量見つかった。
俺は良く漫画にあるようにそれらお宝を収納しながら奥へ奥へと進んでいった。
すると奥に動くものを見つけた。
しまった、盗賊が残っていたのか。
俺は後悔したが、その動くものは一向に襲ってこない。
いや、動きそのものも弱弱しい。
俺は近くにあった松明に火を灯して、よく観察すると、鎖につながれた少女が、今にも死にそうな状態で横たわっている。
あの時退治したのが盗賊の全てだとしたら、あれからここには誰も来ていないことになる。
三日三時間三分の法則では無いが、あの少女は少なくともあれから食事どころか水すら飲んでいそうにない。
これはやばい。
俺はすぐに傍に近づき、近くにあった入れ物に、水を入れ、少女に渡した。
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