第11話 獣人の少女
良かった、俺が小川で溜めていた水はあの時すべてを出し切っていたので、ここに来る前に喉が渇かなければ、水など持っていない。
だが、朝から散歩じゃないが、炎天下を歩いていたので、途中で水を補給していたのだ。
また、あの小川でも見つけ大量に補給しておこうと思ったが、今は少女に水をやる事だけで忙しい。
どうにか少女は三回の水のお代わりを飲み干した後に落ち着いた。
話を聞こうにも、俺のことを見て怯えているのか何も話さない。
とにかく、彼女をここに置いて行く訳にも行かず、お宝探しはここで終えてから、少女を背負いこの場を離れた。
長く体を洗っていないのか、いや、あの劣悪の環境に置かれた為だろうが、彼女はかなり汚れており、臭いもキツイ。
まあ我慢しかないが、途中小川を見つけたので、簡単に洗い流してから、町を目指す。
持ち物は全てアイテムボックスに仕舞えるのが幸いしたが、それでも数時間少女を背負い町まで歩いたので、町に着くころにはかなりへとへとになっていた。
門番にギルドカードを提示して街中に入ろうとしたら、やはりその場で止められた。
俺は、一昨日の盗賊襲撃から、今日の森での探索の最中に盗賊のアジトの発見までを伝え、少女を保護してきたことを正直に門番に伝えた。
いや、嘘は言っていないが、盗賊のアジトにあったあらかたのお宝をポッケナイナイしたことは当然隠しておいた。
「どうも、あの盗賊の奴隷の様ですので、私はこのままフィットチーネさんのところに向かいます。
彼女については、フィットチーネさんに預けますので、もし何かありましたら、フィットチーネのところまでお尋ねください」
俺はそういうと、いやらしそうな顔をしていた門番の顔色が一瞬で変わった。
どうも俺から彼女を取り上げるつもりであったのだろう。
この辺りは、たとえ公僕と云えども全員が信じられるという訳ではなさそうだ。
特にお宝が関係していると、怪しくなる。
盗賊のところから粗方お宝を頂いたことを隠しておいて正解のようだ。
「そうか、そういえば貴様はあのフィットチーネさんの知り合いだったな。
分かった、もういいぞ、行ってよし」
俺は門番に解放されたその足で、フィットチーネさんの自宅に向かった。
彼女は小川で簡単に洗ったが、それでもかなり汚れており、臭いもまだとれていないが、相当に弱っていることもあったので、とりあえずご自宅まで伺い、フィットチーネさんの指示を仰ぐことにした。
俺がこの世界で頼れるのは今のところ彼くらいだけだから、文句でも言われたら素直に謝って彼の指示に従うつもりだった。
「すみません」
俺はフィットチーネさんの家の前で大声で呼びかけた。
すると家の中から家宰の人が出て来た。
「これはレイ様。
今ご主人様を呼びますね」
「お願いしますが、ちょっとその前にお聞きしたいのですが」
そう言って、俺は背負っている彼女を降ろした。
「ほほ~、これは珍しい。
獣人、しかも虎人族の少女ですか。
奴隷の様ですが……」
「ええ、多分ですが、あの盗賊たちのアジトで保護したのですが、その~」
「ああ、大丈夫です。
ここは奴隷商です。
そういった方の扱いには慣れております」
「その…彼女は相当弱っているようで」
「そうですね、でもご安心ください。
虎人族は生命力が強いので有名ですから、これくらいなら数日で回復するかと思います」
そこまで話していると奥からフィットチーネさんが出て来た。
「これはレイ様。
今日は……」
「旦那様、彼がお連れした虎人族についての相談があるのかと」
「ほほ~、虎人族か。
久しぶりだな。
レイ様、虎人族の件はバトラーに任せてこちらにどうぞ」
「え、でも俺、今直接こちらに伺ったもので……」
「そうですね、では、まずお体の汚れでも落としてもらいましょうか。
お~い」
フィットチーネさんはそう言うと奥に向かってメイドを呼び出して俺を風呂場に案内させた
流石に昨日のようにメイドさんは裸で俺の面倒を見る訳では無いが、それでも背中をメイドさんに洗われた。
相手が着衣だとちょっと恥ずかしい。
それになんだか退廃的で少しばかり興奮してきたので、慌てて素数を数えだしてその場を収めた。
昨夜だけでなく今朝も含めてあれだけ出したのに俺の欲望は留まるところを知らないらしい。
これはできる限り早く奴隷を確保しないとまずいな。
その後はメイドさんに全身をしっかり洗われ、しかも洗ってくれるメイドさんが複数、これはある意味助かったかも。
女性と風呂場で二人っきりになるなんて、事故が起きても不思議がない。
他の女性が居れば、そんな事故など……そういえば俺の筆おろしが複数だった。
この世界では複数の女性と一度に何て割とあるのではとも思ってしまう。
何せ奴隷が、しかもそう奴隷がいる世界なのだから、複数の女性といても起きる事故は起こる。
まあ幸いなこと?に事故など起こさずに入浴時間は終わった。
脱衣所でも俺を面倒見てくれる女性たちに服の着替えまでも手伝われて、流石にこれはちょっと恥ずかしかった。
貴族も当たり前にいる世界だから、こういったことも上流に属する人には当たり前だとか。
しかし、これならそれこそ事故を起こそうとしていると言われても不思議がない。
あ、貴族世界などでは、事故を起こしてもらい玉の輿、まあ、庶民では愛人か妾になるのが関の山だろうが、それでも玉の輿なのだとか。
若いメイドさんが教えてくれた。
『何なら私と事故を起こしますか』なんか最後に言われたが、俺は上流の人間ではない。
成りあがるつもりはあるが、でも彼女をだますわけにもいかないから、そこは丁寧に遠慮しておいた。
ああ、着替えをさせられた時に驚いたことに、フィットチーネさんは俺の衣装も手配してくれていた。
俺がさっきまで来ていたスーツにワイシャツ、それに下着までもが、俺の入浴中に洗濯されているとかで、ちょっと待ってほしいと、別の物を着替えさせられた。
貴族が着るような派手なものでは無いが、それでも割と良い布地の丁寧な造りの服だ。
なんでもこの界隈の上流商人や、貴族の子弟などが普段着として着るような服を用意してくれたとかで、俺にとっては大変に助かる。
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