第9話 冒険者として

 もう一つ心配事があるとすれば、俺の魔法についてだ。

 魔法使いの条件の一つにDTがあった筈だが、俺はあの三人の美女の内、誰が最初か分からないうちに筆を降ろしていた。

 筆おろしは済んでしまったことには変わりがないので、魔法使いから魔法が使えなくなるかと心配したが、結論から言うと、何ら変わらなかった。


 大丈夫。


 俺が今まで使えた技は全て使えそうだ。

 これで心配事は無くなった。

 それに、あのピロートークって奴。

 初めてしたピロートークって本当に楽しかった。

 それに馬車でも色々とこの世界の常識を教わっていたが、昨晩のピロートークでも色々と教わった。

 特に奴隷について色々と教えてもらえた。

 なにせ彼女たちは今、フィットチーネさんの奴隷になっている。

 フィットチーネさんは、彼女たちの奴隷身分を解放しようかとしたようだが、それを彼女たちが断ったと言う。

 彼女たちは娼婦しかできないと言ってきかないのだ。

 ならばと言って、この町で娼館を開くことにしたと、彼女たちから教えてもらった。

 彼女たちから聞いたところでは、俺のイメージしている奴隷とは若干扱いが違うようで、彼女たちの扱いは酷いと言うことは全くなく、かえって身の上の安全を確保する意味では好都合だとも教えてくれた。


 ここで、説明が長くなるが、かいつまんで俺が理解したことを振り返ると、彼女たちは、それはそれは王都では有名な高級娼婦で、ちょっとやそっとでは相手をしてもらえないとか。

 王都での客層は貴族や豪商と言った一部の特権階級に限られていたそうだ。

 しかも、貴族と言っても下級の男爵辺りでは、全く見向きもしなかったとか。

 そんな人気の彼女たちには、それこそ毎日のように身受けの話が来る。

 しかし、彼女たちは身受け話には全く興味を示さなかった。

 稀に身受けされて幸せを掴む娼婦もいるようだが、大半の娼婦の末路はかなり悲惨なことになることが多いそうだ。

 だいたい彼女たちのような高級娼婦を身受けできるような御仁は大体において高齢で、身受けされても直ぐに他界してしまうことが多い。

 まあ、回数に限りが無く、昨夜のようなことが続けば、たとえ高校生のような精力ビンビンであっても1年は持たないだろう。

 干からびて、聖人になるか、あるいはそのまま仏様になるかは簡単に予想される。

 問題なのは、身受けした本人がさっさと仏様になった後だ。

 奴隷なら財産として相続されるが、それ以外では、遺族にとってはっきり言って邪魔な存在だ。

 そんな彼女たちの未来は、貴族家などでは、だいたいにおいて暫くすると不慮の事故に遭うそうだ。

 貴族でなく豪商の場合でもそれほど変わらず、多くは騙されて奴隷に身分を落とすことになるのだとか。

 それでも、権力の有る連中はその権力に物を言わせて身請けしてしまうこともまれにあるとか。

 本人の希望など全く考えもせずに。

 こういった場合の未来は、はっきり言って身請けされた人には絶望しかない。

 彼女たちの周りにもそういた権力者が多くいた。

 いや、彼女たちの客層はそういった権力者しかいない。

 以前にも王族から強く身請けを迫られたことがあったそうだが、身分が奴隷であったのが幸いしたとか。

 奴隷では、本人の意思は全く関係ない。

 奴隷の所有者の意思しか存在しないのだ。

 奴隷は財産であり、その財産はかなり厳格に守られているそうだ。

 喩え王族と云えども、強引な手法での奴隷の略奪は許されない。

 これは今から100年ほど前にあった出来事から、この国では国王ですら守らないといけない法律となっている。

 蛇足だが、100年前には権力を使っての略奪は禁止されていなかったために、かなりあちこちで権力者による略奪があり、それを嫌った奴隷商人が一斉にこの国から逃げ出すという事件が起こった。

 今もそうだが、この国に限らず多くの国ではかなりの部分奴隷によって経済が支えられている。

 その奴隷たちの流通を支える奴隷商人が逃げ出したら、経済が成り立たない。

 その時の王朝はこの事件によりその後、簡単に滅んだという。

 次にこの辺りを治めた王朝は『いの一番』で、奴隷の扱いを厳格に決めて、奴隷商を保護したのだ。


 それが今に続いている。


 話を戻して彼女たちは、身分が奴隷であったことにより、簡単に王族からの身請け要求をかわすことができたそうだ。

 彼女たちは今後も娼婦を続けて行くつもりであったので、奴隷のままでいることを選んでいる。

 彼女たち曰く、娼婦である限り奴隷の方が快適でかつ安全だとか。

 そんなことまで教えてもらっていたのだ。

 彼女たちの会話からだが、この世界では、奴隷の存在は無くてはならないもので、俺のイメージにあるような酷い扱いを受ける奴隷はそれほどいないとか。


 全く居ない訳では無く、犯罪奴隷などは鉱山労働者のような危険な場所で働かされている場合が多く、割と簡単に命を落とすそうだが、街中にいる奴隷は、嗜虐趣味のご主人様で無い限りそれほどひどい扱いはされていないとか。

 まあ夜の個室内ではどういった扱いを受けているかまでは分からないと最後に語っていたのが印象に残った。

 そこまで話を聞いた俺は、奴隷って実は最高なのではと、正直考えてしまった。

 腹上死の危険はあるが、それでもこの年までDTを拗らせていた俺は、この世界での目標を奴隷によるハーレムを作ることに決めた。

 だって、いくらでも美女を囲えるんだよ。

 しかも、面倒がない。

 一応ご主人様の命令はきちんと聞くようだから、痴話喧嘩の仲裁などは要らない。

 焼きもちも心配しなくていい。

 これはちょっと寂しく感じるものもあるが、それでも面倒にならないのがいい。

 もうしばらくは、この、王都でも指折りの美女三人による世話をしてもらえるらしいから、それまでにお金をためて奴隷を集めよう。

 だって、昨夜にあれだけ絞りつくされたのに、今朝も朝から裸エプロン姿の美女三人に囲まれて用意してもらった朝食を「あ~~~ん」ってやってもらえたのだ。

 もうこれは病みつきになっても誰も俺を責めることはできないだろう。

 今日一日、ここで、こんな王族のような生活もできない話では無いが、それだと、アリギリスじゃないが、末路は簡単に想像できる。

 まずは自活を考えて、できるだけ速やかに商人として無双を目指す。


 俺は後ろ髪を引かれる思いを断ち切って、昨日行ったギルドを目指す。

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