第21話 二人で買い物

「今日か。

 今日は一緒に町を見て歩こうか。

 せっかくできた拠点に、家具類をそろえないと生活もままならないからな」


「買い物ですか」


「ああ、いつまでもあそこの居候という訳にもいかないから、できれば今日中に家具類だけは揃えたいかな。

 運ぶのを手伝ってくれるのだろう、ナーシャ?」


「も、もちろんです。

 あそこからはすぐにでも出て行きたいですし、そのための協力なら任せてください」


 もう、自ら嫉妬しているからと言っているようなものだが自覚が無いのだろう。

 指摘して機嫌を損ねてもあれなので、せっかく直った機嫌を壊さずに街中を散策して歩く。

 数件の家具屋で家具を買い、店に預かってもらった。

 流石に手にもって運べるものでは無いし、アイテムボックスに仕舞う訳にもいかない。

 後で、冒険者ギルドによって、前に借りた荷車をもう一度借りて来る。

 目的の家具の買い物が済んだら、次はナーシャの服だ。

 一応外を歩いても恥ずかしくない格好をフィットチーネさんにさせてもらっているが、着た切り雀とはいくまい。

 まあ、駆け出しの冒険者だと割とあるそうだが、まだ金には余裕があるので、古着をあさりに店を探した。

 いくつかの古着屋に寄ってナーシャだけでなく自分の服も物色しながら色々と雑談をしながら相場を聞き出していく。

 この町は王都に次ぐ大都市で、一般的に物価は高めだ。

 あのアポーの実も少ないが売っていた。

 それが驚くことに一つで銀貨一枚。

 あのアポーの実だけで駆け出しの冒険者が一日をかけて集める薬草と同じだけの価格だ。

 そのために、冒険者ギルドではアポーの実の採取も常時受け付けのクエストとして張り出している。

 尤も、アポーの実は森の奥深くにしか見つけることができなくて、駆け出しの冒険者には荷が重いクエストだとか。

 何かのついでに中堅クラスの冒険者が持ち帰るのが市場に出ているので、値が張るとまで教えてもらった。

 あれ、それなら俺って、かなり持っている。

 当分はこの販売だけでもかなりの利益が出そうだ。

 まあ、売値と買値では当然差が出るのが当たり前で、俺がギルドに持ち込んでも半値以下での引き取り価格になるらしい。

 一通り買い物を済ませてから冒険者ギルドに向かった。

 俺担当の新人さんがちょうど暇そうにしていたから捕まえて、台車を借りる算段を付けた。

 今度は私用での扱いになるらしくしっかり費用が取られた。

 2時間で銀貨一枚。

 けっこうぼられた感は無きにしもあらずだが、2時間で日本円換算すると千円なら、とにかくある物全てが貴重なこの世界なら正当な価格なのだろう。

 それを借りて、家具屋に戻り、店員に手伝ってもらいながら買った家具を荷車に載せて行く。

 こういった力仕事では格段に力を発揮するナーシャがとにかくすごかった。

 大人の俺と店員二人を合わせたよりも一人で倍以上の働きを見せたのだ。

 俺はナーシャの頭をなでながら感謝の言葉をかけていると尻尾を激しく振りながら喜んでいた。

 うん、イヌみたいな感じだ。

 当然、ナーシャに荷車を引いてもらい、俺の家に向かう。

 家に着くと、付近を見渡し、誰も居ないことを確認する。

 一応ナーシャにも聞いてみる。

 彼女には鋭い感覚と嗅覚があり、周りの警戒にはもってこいだ。


「ご主人様?

 大丈夫、今なら近くに人は居ない」


「そうかありがとな」


 そう言うと俺はすぐさま買ってきた家具をアイテムボックスの中に仕舞う。

 家具を仕舞ってから、また冒険者ギルドに台車を返しに向かう。

 台車を返してからも、まだ昼頃とあって時間もたっぷりとあるので、街中をぶらぶらと過ごす。 

 途中見つけた屋台で、簡単に調理されている食べ物を買った。

 串焼きの類だが、肝心の塩味がしない。

 正直これでは俺には美味しく感じないが、ナーシャは喜んで食べていた。

 薄味に慣れているのだろうが、正直俺には勘弁だ。

 後で屋台主に聞いたら、別料金だが、海水を掛けて焼いてくれるのだそうだ。

 中堅冒険者などは体を動かす関係で塩分を欲しているから、この別料金も良く頼むのだそうだ。

 ちなみに俺も、頼んでみたが、正直……

 うん、海水をちょっとかけた位では全然塩分が足りていない。

 もう少し塩が安くなればいいが、ここで俺が知識チートを使って革命をおこせばって、肝心のその方法を俺はよく知らない。

 まあ、おおよそのことは知っているので、試行錯誤でもすればどうにかなりそうだが、それは既得権益との軋轢を生む。

 まだよくこの世界を理解していない俺にとって、はっきり言ってリスクでしかない。

 そんなことを考えながら歩いていると、レストラン街と呼べばいいのか、ちょっとこじゃれた飲食店が並ぶところまで来ていた。

 昼も過ぎた時間で、この辺りは閑散としているが、書き入れ時はやはり夜になるのだろう。

 いくつかの店は仕入れでもしているのか台車を店の前に止めて品物を運び込んでいるのが見えた。

 俺は、その仕事姿をただ眺めていたら、仕事を終えた人から声を掛けられた。


「どうした、あんちゃん。

 仕入れがそんなに珍しかったか?」


「いえ、すみませんでした。

 ただ、どんな食材を仕入れていたのかちょっと気になっていたもので、すみません」


「あんちゃん、商人か。

 何か俺たちに売る算段でも考えていたのかな」


「まあ、そんな感じですかね。

 正直、商人になったばかりなんですよ。

 今は、この町の相場や商いされている物が知りたくてあっちこっちを見て歩いておりました」


「あんちゃん、新米の商人か。

 で、あんちゃんは何を商うんだ?」


「この間、幸運にも盗賊討伐に一枚かませてもらった関係で、塩を持っておりますから、それを売り切ってから、商材を決めて行こうかなと」


「塩か。

 それは幸運だったな。

 でも、よそ者が塩の商いを続けるには難しいだろう」


「ええ、それは商業ギルドでも聞かされました。

 それだけにせっかく手に入れた幸運を生かして、できる限り高値で処理したいんで、相場を調べても居たんですよ。

 良かったらいくらで塩を買っているか教えて頂けませんか。

 お礼に、ちょっとばかりならおまけしますから」


「え、そうなのか」


「一樽ならあとでお持ちしますから」

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