第22話 塩の相場

「樽~?バカ言っているんじゃないよ。

 貴族様や大店なら分かるが俺たちじゃ、樽なんかで塩を買えるかよ。

 桝ます買いが関の山さ」


「枡買い?」


「ああ、塩問屋に言って、量り売りはかりうりしてもらっているんだ。

 一枡で銀貨一枚って感じかな。

 まあ、相場も動くようだから、その枡の中に入っている塩の量なんかしょっちゅう変わるがな」


「え?量が変わるなんて、量り売りにならないのでは」


「相場が変わるからしょうがないんじゃないか。

 その代わり、一枡で銀貨一枚は変わらないよ。

 酷い店なら量が変わって、しかも売値まで上がるなんてとこも普通にあるという話だしな。

 そう言う意味ではあの店は良心的さ」


「良かったら、そのお店を教えて頂けませんか」


「ああ、それならあそこだ。

 ここからなら見えるだろう。

 あそこさ」


 そう言って彼が指さすのは飲食店街のはずれにある塩問屋だった。


「ありがとうございます。

 後で覗いてみます。

 これお礼にどうぞ」

 と言って、俺はカバンからアポーの実を一つ取り出して先の男に渡した。


「え、これ貰っても良いのか」


「ええ、親切に教えてもらいましたし、何よりタダより高い物はありませんから、教えて頂いた情報の対価として受け取ってください。

 元々はたまたま見つけて後で私が食べようかと思っていたもので売り物でもありませんから、遠慮なくどうぞ」


「そうか、なら遠慮なく頂くぞ。

 それにしても、あんちゃんは良く分かっているな。

 若いのに……て、それほどでもないか。

 でも、大成するかもな。

 まあ、頑張れよ」


 まあ、30のおっさん捕まえて若いも無いだろうが、それでもこの世界では俺のことは少し若くは見られているようだ。

 今更気にしてもということで、教えてもらった塩問屋に向かった。


「すみません」


 俺は声を掛けて中に入る。


「いらっしゃいませ、お客様」


「あ、私は駆け出しの商人なんです」


 そう言って、胸元から商業ギルドで貰ったギルド証を見せてから、話を始めた。


「という経緯で、現在三樽の塩を抱えているんですよ。

 できるだけ条件よく捌きたいと思っているので、お話を聞かせてほしいのですが、よろしいでしょうか」


 正直に置かれている状況を話してから商談に入る。

 別に今はお金にも困っていないこともあって、騙してまで儲けようとも思っていないし、あわよくば仲良くなれればとも考えていての行為だ。

 相手が俺のことをだまそうとしてくるのなら今後付き合うことをしなければ良いだけだ。

 そんな相手だが、店番に出た人では俺のことを扱いきれないと早々に判断したのか責任者を連れて来た。

 ここでも先と同じ話をしてから、商談を始めた。

 俺のようにぽっと出からの塩の取引を言われれば怪しむのだろうが、俺の方から出どころから入手の経緯までを正直に話したこともあって、スムーズに金額の交渉まで割とスムーズにたどり着いた。


「そうですね、物を見て状態を見てみないとうちでは何とも言えませんが、うちでは一樽で金貨一枚ではと申し上げたいところですが、それだとギルドの引き取りと同じになりますから、更に銀貨10枚といったところでどうですか」


「どこに話をもっていってもそれくらいでしょうかね」


「どうですかね、うちとしてはそれくらいが妥当だと考えておりますが」


「分かりました、一樽をそれで引き取ってください。

 物は後でお持ちします」


 商談を得て、しばらく雑談をしてから、塩を取りに戻る。

 途中で、道具屋によって、中古の台車を買い取り、家から台車で塩を一樽先の塩問屋に運んだ。

 無事に初めての商いを終えた。

 ただで手に入れた塩をギルド価格よりも高い金貨一枚と銀貨10枚日本円で換算して11万円と言った感じか。

 品質的には明らかに日本で買えるどんな塩よりも悪い。

 塩化カリウムの代わりに融雪剤として使ってもいい位のとてもじゃないが食品には見えないレベルの代物だが、ここではかなりの上物という話で、塩問屋の主人も喜んで色々と話を聞かせてくれた。


「ここらあたりでは塩の代わりに海水を使えるから、どんなに頑張ってもこれくらいが限度じゃないかな。

 小売りでもすれば倍くらいにはなるだろうが、行商での塩の小売りはね~。

 少なくともこの辺りでは無理だろう。

 ここ以外ではほとんど塩は売れないよ。

 みんな海水を使うからね」


「そうなんですか。

 私としてはこの塩を入手したような幸運に恵まれるとも思えないものですから、出きる限りこの幸運を生かしたかったんですがね」


「まあ、あまり欲を掻くものでは無いよ。

 まあ、これが王都ならギルドの買取価格だけでも金貨2枚にはなるというから残念だったね」


「え、王都とではそんなに相場が違うのですか。

 それならなぜ王都で売らないのですか。

 私なら……」


「簡単な事さ。

 仕入れができないのだ。

 先にも言ったが、ギルドの買取価格でも金貨2枚はくだらない。

 なので、この町から王都に塩を運ぶ仕事もあるくらいだが、それは冒険者に守らせて行くしかないからな。

 行商人が一人、いや、ギルドで護衛を付けても、重い塩の樽をいくつも抱えてちんたら向かっていたら、それこそ盗賊に襲ってくださいって言っているようなものさ。

 だからこの町からの塩の輸送はキャラバンが組まれて運ばれる。

 しかも、そのキャラバンに付いて行こうにもしっかりと金をとられる。

 まあ、当たり前の話で、そうそう旨い話は無いよ」


「そうでしたね。

 私が得た幸運も、その不幸な商人がいたからでしたね」


「ああ、まあ、これがアイテムボックス持ちなら話が変わるがね」


 ついに出た~~。

 アイテムボックスの話だ。

 これはもう少し掘り下げて聞かないといけないな。


「何ですか、そのとてつもなく魅力的に聞こえるアイテムボックスって」


「あんちゃんは知らないのか。

 稀にアイテムボックスというスキルか魔法かは知らないが、そんな能力を持つ者がいるそうだ。

 これはどうしてそうなるかは分からないが、品物をどこかに仕舞えて運べるそうなんだ。

 だいたいが魔力の大きいエルフなんかに多くいると聞くがな」


「なら、エルフを仲間にすれば大儲けできそうですね」


「それができるのなら話は簡単だがな。

 そもそも、エルフは我ら人間とはあまり関わらないよ。

 精々奴隷として買えれば何とかなるけど、お前さんにも分かるだろう。

 とてつもなく高価なんだ。

 俺なんかじゃとてもじゃないが買えないよ」

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