第23話 アイテムボックスとアイテムバッグ

「そうなんですか、期待した分、残念ですね」


「ああ、そうだな。

 これも期待だけを持たすようになるがアイテムボックスを知らないようだから教えるが、俺も持っていないことから察してほしいが、これまた貴重品の話だ。

 アイテムボックスと同じような働きをするカバンがあるというのだ。

 俺もまだ見たことが無いが、なんでも高ランクの冒険者などが持っていると聞く。

 アイテムバックとか言っていたな」


「アイテムバックですか。

 欲しいですね」


「本当にたまにだが、王都のオークションで目玉として出されるという話だ。

 これは作ろうとして作れるようなものでは無く、ダンジョンから見つけられるとかいう話だ。

 まあ、我ら商人からすれば夢のような話だが、どちらにしても金がかかる」


「ありがとうございます。

 なら、私はそれらを探しながら行商でもしていきますよ。

 どちらか一方でも手に入れば大儲けできそうですしね」


「ああ、あんちゃんならそれを夢見て商売するにはいいのかもな。

 ただ、これも聞いた話だから良くは分からないが、どちらも入れられる品物に限度があるようだ。

 その限度と云うのがあまり大きくは無くてな、馬車一台も入れば国宝クラスとまで言われているから、せいぜいこれくらいしか入らんのではないかな」


 そう言って、近くに積んである1m四方の箱を指さしていた。

 うん、だいたい分かってきたよ。

 その辺りも俺の良く知るラノベでは定番の話だ。

 だが、それでも塩の樽を最低でも一樽は入る。

 わざわざ樽詰めしないで塩だけ入れても相当入れられるから、危険が伴う香辛料や塩などの高額商品を持って移動するには是非にでも欲しがることは分かる。

 まあ、俺にはその制限が今のところ全く見えないから、ごまかせさえできれば問題ない。

 スキル持ちの奴隷か、アイテムバックかそのどちらかを入手する方向で考えよう。


「長々と話し込んでしまいすみませんでした。

 おかげで貴重な情報も頂けましたし、これからもお付き合いして頂けたらと思っております」


「ああ、あんちゃんなら、こちらからお願いするよ。

 なんだか、あんちゃんは成功しそうだ。

 そんな予感がするからな。

 しかし、あんちゃん塩を売ったら次は何を商いするつもりだ」


「ハイ、幸い護衛として奴隷が一人おりますから、それを連れて森に入り、アポーの実でも取ってこようかと。

 既に何度か取ってきておりますし。

 それで小金を貯めます」


「そうかそうか、わしも長々とあんちゃんを引き留めてしまったな

 気を付けて商いをしていくんだぞ」


「ありがとうございます。

 それではまた」


 そう言って、塩問屋の主人と別れた。

 しかし、王都ではここの倍以上の価格で塩が取引されていると聞いては残りの二樽は王都で売りたい。

 大体、ここモリブデンでの情報収集もひと段落したと言ってもいいだろうから、一度この町を出てみよう。

 そう思ったら、俺はすぐにフィットチーネさんのところに向かった。

 毎度のことでもはや不思議にすら思わなくなったが、改めて考えれば不思議な話だが、俺がフィットチーネさん宅に到着すると入り口付近にフェルマンさんが待っている。


「レイ様、いらっしゃいませ。

 主人が執務室で、お待ちしておりますので、これからご案内いたします」


 思い起こせばナーシャを慌ててここに連れて来た時くらいか、玄関口にフェルマンさんが居なかったのは。

 それでも、呼んだらすぐに現れたのだから、いったいどういう仕組みか、できれば今度教えてもらおう。


「レイさん。

 いらっしゃい。

 今日はうちで夕食をご一緒して頂けるので」


「え、急な来訪なのに、よろしいのでしょうか」


「ええ、レイさんはここにはほとんど寄り付かないものですから、かみさんが私にせっついてくるのですよ」


 これは明らかに社交辞令だろう。

 まあ、不思議と悪い気持ちはしなくなるから、一流の商人と云うのは本当にすごい。


「では、遠慮なくご馳走にあずかりましょう」


「うれしい限りです。

 お連れの方はいかがしますか」


 あ、厳然たる階級が存在している社会では、いや、令和の日本であっても、社長会合に平社員を同席などさせないだろうから、この世界では当たり前と云えば当たり前のことで、同席はできない。

 しかし、別室になるがフィットチーネさんはナーシャの食事までも用意してくれるというが、お世話になっている娼館に伝言も頼まないといけないし、何より知り合いの居ないところで一人食事をさせるのはかわいそうだという気持ちもある。


「ご心配には及びません。

 娼館に帰らせますから。

 こちらで私が食事して帰ると伝言も一緒に伝えさせようかと思っております」


 ここと娼館とは謎の情報伝達の仕組みがあるのは分かっているが、わざわざナーシャを使うと俺が言う理由を理解してくれたようで、直ぐに了承してくれた。

 俺はすぐにナーシャを帰らせてから、食事時間までフィットチーネさんの執務室で話し込んだ。


「塩の商いは終わりましたから、そろそろ次の商いの準備のために近くを回りながら一度王都まで足を延ばそうかと考えております」


「王都にはまだ」


「ええ、村から出て、いきなりフィットチーネさんのお世話になりこの町に来たもので、追い出された村以外ではこの町しか知りません」


「そうでしたか。

 王都まではそこそこの距離がありますから急いでも10日はかかるでしょう。

 足は用意されておりますか」


「足ですか?」


「ええ、襲われた私が言うのもあれなんですが、決して安全とは言い切れませんよ。

 魔物も襲ってきますし、何より怖いのは途中にいる盗賊たちでしょうか。

 商人と見れば途端に襲ってきますから。

 しかも待ち伏せなんかして罠なんかも使いますし、本当に悪辣ですよ」


「確かに、あの盗賊たちは凄かったですね」


「この町から王都までは定期的にキャラバンが出ます。

 どうですか、キャラバンならレイさんの席くらい手配しますけど」


「旦那様、次のキャラバンは早くとも10日は待たないと」


「ああ、そうでしたね。

 船の入港が遅れていますから、その船が入港してからと聞きましたね。

 だから私も独自に護衛を手配して王都に向かったんでした」


「大丈夫です。

 幸い、力持ちの仲間もできましたし、彼女の訓練も兼ねてゆっくり歩いていきますよ。

 途中、アポーの実でも採取しながら。

 次の商材が決まるまではしばらくアポーの実でも採取して、それの商いでもと考えていたところですし」

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