第24話 王都へ出発

「そうですか。

 仲間がいればそれも良いですね」


「ええ、これでアイテムバックでもあればいいんですが。

 それか、アイテムボックス持ちの仲間がいれば言うこと無しなんですがね」


「ええ、私も聞いたことがあります。

 貴族や、豪商などでではアイテムボックス持ちの配下や奴隷をそろえているとか。

 また、有名冒険者などではダンジョンから発見されるアイテムバックを持っているそうですね。

 私は商いが商いだけに、そういうものの恩恵を全く受けないので、興味もありませんでしたが、ごくたまに王都で開かれるオークションにも出品されるようですよ。

 レイさんは、ご興味がありそうですね」


「ええ、直ぐには流石に買えないでしょうが、相場くらいは知りたいですね。

 それに現物が見れるのなら一度はぜひ見てみたいとは思います」


「なら、私が紹介状を書きましょう。

 私の兄弟子がやっていた奴隷商はとっくに無くなっていましたが、その流れをくむ奴隷商とは未だに懇意にさせて頂いております。

 彼に紹介状を書きますから、王都に言ったらぜひ訪ねてみてはいかがでしょうか。

 彼なら王都で定期的に行われているオークションに連れて行ってもらえますから。

 私も何度か奴隷を売り買いにオークションに連れて行ってもらいましたしね」


「そこまでして頂けるのならぜひお願いします」


 そんな話で盛り上がっているうちに食事時間となり、また、フィットチーネさんのご家族にお会いした。

 食事時中の会話で、王都に行くので、しばらくこの町からいなくなることを伝えて、今までのことに感謝を伝えた。

 食事の後、フィットチーネさんのお宅を辞して娼館に向かう。

 また、今夜もいつもの流れで激しい運動をすることになるが、ピロートークで、王都に行くことを伝え、今までお世話になったことに対してお礼を一人一人に丁寧に伝えた。

 彼女たちからは、俺の決断を褒めてもらえた。

 そろそろここの娼館も準備が整い、来月から娼館として営業を始めるということを教えてもらった。

 なので、俺が、その前に王都に向かうのは実にいいタイミングでの決断だと全員が褒めてくれた。


「レイさん。

 次はお客様として来てくださいね」


「ええ、絶対に成功者として、お世話になりに来ます」


「レイさんなら大丈夫ですよ」


「でも、決して無理だけはしないでくださいね」


「レイさんが御強いのは知っておりますが、危険なことはできるだけ避けてくださいね」


「ええ、ですが、勝負に出ないと、ここに来てもお姉さん方に相手をしてもらうことができないような」


「え、レイさんならおまけしますヨ」


「いや、それはダメです。

 お姉さん方の価値は本当にすごいんです。

 私は、その価値をきちんとお支払いできるように頑張ってきます。

 ただ……今のように三人をいっぺんには流石に無理だとは思います。

 一人でも難しいというのに、今までがあまりにも幸運でした」


「アハハハ……」


「王都にいた時にはそんな感じだったかもしれませんが、流石にそこまでは……」


「レイさんがそう言うのなら私たちは決して安売りはしませんから、頑張って下さいね」


 この娼館に居る全員から祝福されるかのように送り出されて、俺は拠点を置くモリブデンの町を出た。

 そう言えば付近の町には塩の代わりに海水を使うと言っていたし、隣の村にでも着いたら海水でも売ってみようかと、俺は一度海岸に向かう。

 遠くまで続く砂浜、本当に綺麗な景色だが、誰一人として観光客は居ない。

 それもそのはずで、はっきり言うとこの辺りはかなり物騒だというのだ。

 海水の中に潜む肉食の魔物も居れば、魚や水生の魔物を狙う陸上の魔物までいるような環境では、誰が好き好んで観光などするかと思う。

 何より、この世界は、令和の日本とは比べるべくも無く貧しい。

 一部貴族や豪商などを除くと、皆日々の生活だけで一杯だ。

 そんな社会では危険しかないこんな場所に誰が好き好んで来ようというのだ。

 現に今も砂浜の向こう側、森からこちらを伺っている気配が一つだけではない。

 同様に多分海の中からもあるのだろう。

 そんな危険な場所に何故来たかと言うと、ただで手に入る商材を手に入れるためだ。

 町の聞き取りから、この辺りの村々では海水が塩の代わりに使われているとか。

 しかも、海から少し離れれば、ここまでくるだけでも危険なためにほとんどの人が海水を買っているという話だった。

 まあ、海水を専門に扱っている行商も居るのだろうが、そう言う行商たちは自分たちが安全に海水を汲みに行ける場所を知っているのだろう。

 そんな場所を知らない俺のような奴は危険を冒して海水を汲まなければならないが、まあ、大丈夫かな。

 気配察知に優れたナーシャもいるし、俺は波打ち際に来て、海水を俺のアイテムボックスに取り込んだ。

 もう少し海の中まで入れば俺のことを襲おうとしていた魔物の姿が見える。

 流石にこの辺りの海は、どこもなのだろうが、とてもきれいで、海中までよく見えるから、簡単に魔物を見つけることができる。

 投げ槍でもあれば簡単に魔物を狩ることができそうだ。

 今度機会があれば挑戦してみよう。


「もう用が済んだから、村でも探そう」


「もういいんですか。

 早かったですね」


「ああ、俺のスキルだ。

 これは誰にも言わないでくれ。

 良いな、ナーシャ」


「ハイ、ご主人様?

 内緒にします」


 そう言って俺たちは道を探しに森の中に入ってく。


「ご主人様?」


 ナーシャは先ほどからこちらを伺っている魔物の気配が気になるようだ。


「どうだ、強そうか」


「分かりません」


「ナーシャ。

 試しに攻撃してみようか」


「私がですか」


「ああ、危なくなったら俺が助けるけど」


「ご主人様?が言うのならやってみます」


 そう言うと気配のする方向に走り出しそうなったナーシャを俺が慌てて止める。


「ちょっと待とうか、ナーシャ」


「ん??

 何ですかご主人様?」


「いきなり無策で向かうなよ。

 俺に考えがあるから、ちょっと待て」


 そう言ってから俺はアイテムボックスから手ごろな大きさの石を取り出した。


「これをこう持ってから、俺のやるように気配のする方向に石を投げるんだ」


 そう言って石を投げる。

 見よう見真似でナーシャも森の中に石を投げ入れた。

 流石に俺とは力が違うので、彼女の手から放たれた石の速度が段違いだったが、流石にいきなり投げても当たるはずは無く、肝心の魔物は森の奥にと逃げて行った。

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