第109話 王都の店の様子

 

 俺は一人で商業ギルドに向かった。


 不安があるので店にはナーシャやダーナは残しておいて、暴力をふるうような連中が来たら遠慮なくのしてくれと頼んでおいた。


 さすがに俺が襲われることは無いよな。

 もし襲われそうになったら、俺は遠慮なくあれを使うぞ。

 周りの被害については考えない。

 まあ、投石だけでもどうにかなりそうだとは思うのだが、とにかく明るいうちにすべてを済ませておくことにした。


 商業ギルドに入ると、あの主任は……いなかった。

 当たり前か。

 確かギルド長は謹慎させると言っていたし、いたらそれこそ問題だ。

 一緒にいたような受付嬢もみなかったけど、一緒に謹慎でも食らったのか。


 まあ、どうでもいいか。

 俺は空いている受付に向かい、要件を話した。

 すると、また奥からギルド長が出てきて詫びてきた。

 いくらギルド長から詫びられても、全く被害は無くならない。

 真剣に拠点の移動を考えないといけないかもしれない。


 まあ、とにかく今回の件は、商業ギルドから契約冒険者を警備に派遣してくれるということで話をつけた。


 警備に来てくれたのが、俺の良く知る暁の皆さんだった。


 どうもあのギルド長は俺のこといろいろと調べていたようで、懇意にしている冒険者を手配してくれたようだ。

 さすがにギルドを預かるだけあって、やり手なのだろう。


 暁の皆さんに挨拶をして、あとを任せて、また仕入れに王都にいつものメンバーで向かう。


 ナーシャは、今回は非常にうれしそうにしている。

 最近冒険どころか、店にこもってばかりの仕事を頼んでいたからストレスでも溜まっていたのかな。


 暁の皆さんが来る前まではダーナとナーシャに店の警護を任せていたけど、あの後も数件、今度はごろつきが直接襲ってきたので、あっさりと二人にのしてもらい、そのまま冒険者ギルドに犯罪者として身柄を預けた。


 全員が皆犯罪奴隷となり、割といい稼ぎにはなったが、それはあくまでこちらの誰一人として怪我人を出していなかったから言えることで、あまりうれしいことではない。


 王都の方でもトラブルに巻き込まれていなければいいけど、ちょっと心配になってきた。


 俺達は、今回ばかりは狩りなどの寄り道をせずに王都まで急いだ。


 王都に着くとすぐに店まで向かい、状況を確認する。

 ちょうど昼の食事時間が過ぎて、お茶や酒などの営業をしている時間のはずだ。


 店の中にはそれなりに客が入っている。

 しかも店内の客の内、かなりの割合で女性たちだ。


 これなら酒類の営業はいらないだろうなと、俺は店長を探した。


「あ、ご主人様。

 お帰りなさい」


 お帰りなのか。

 まあ彼女からしたらここが本拠になるのでお帰りなのも頷ける話だが。


「ああ、今ちょうど着いたばかりだ。

 少し話が聞きたいが、店長は居るかな」


「店長なら奥に。

 呼んでまいります」


「あ、いや、奥にいるなら俺の方から向かうよ。

 ありがとう。

 営業時間も、もう少しだからこの後も頑張ってな」


 俺は奥に行って、店長のカトリーヌを探した。


 奥の部屋で休憩中の彼女をすぐに見つけた。

「あ、ご主人様。 

 お帰りなさい」

 カトリーヌもお帰りなさいか。

 まあ、あながち間違いという訳でもないし、何より『おかえりなさい』という挨拶を聞いた俺の方が気持ちがいいから、そのままでいいか。


「ああ、ただいま……かな」


「ええ、お帰りなさいませ、ご主人様」


 その後、彼女から店の様子を聞いた。

 順調に客足を伸ばしているようで、つい先日昼の食事時間に満席になったそうだ。

 今日の昼も満席だったようで、それに今入ってきた店にも女性客ばかりが目についたが、かなりの席が埋まっていた。


 客層についても聞いてみた。

 すると、昼食時間には男性客が多いそうだが、その後の時間についてはお茶菓子とお茶を求めておしゃべりに来る女性客が多いそうだ。


 酒については、もっぱら昼時間にかなりの量を売り上げているようで、売り上げの方も順調だそうだ。


 今日の分はまだ計算していないそうだが、昨日の売り上げを聞いたら、正直驚いた。

 モリブデンの店に迫る売り上げを上げている。


 王都の店ももう少し強化しないとまずいかもしれない。


 そう言えば店長のカトリーヌも言っていたけど、全体を通して裕福な女性客が多いとのことだ。


 昼に食事に来る客は男性客の方がやや多めで、それでその男性客は、しっかりと酒を注文してくれるから、売り上げにも十分に貢献してくれているが、それ以外の時間では酒はあまり出ない。

 夜まで営業時間を伸ばせばまた違ってくるようなのだが、そうなると別の問題が出そうで俺としてはあまりしたくもない。


 そうでなくともモリブデンで既にギルドと問題を抱えていることもあるし、これ以上もめごとは勘弁してほしいという気持ちの方が強い。


 しかし、いくら従業員が奴隷だと云えど、強化するにはもう少し売り上げと云うか利益を上乗せしたいと思うのも経営者の一人としては正常な判断だろう。

 この世界では奴隷が当たり前の労働力になっているので助かる。

 何せ人件費という厄介な経費が最低限で済む。

 正直うちとしては色々と秘密も抱えているので従業員の補強となると奴隷一択となってしまう。

 どちらにしてもまずは、補強前に売り上げ促進を考えないといけない。


 そこで俺は女性客に目を向けた。


 裕福な女性客が目の前にいっぱいいるのだ。

 モリブデンでの商品ラインナップから彼女たちをターゲットしたものは無いかって言ってもラインナップそのものが限られている。

 その中で考えると、やはりあれしかないだろう。

 石鹸なんかをここで売ればどうだろうか。


 他に化粧品を開発できれば、それだけでも十分な利益を出せそうだ。

 その辺りをカトリーヌに相談したら、二つ返事で賛成してきた。


 入り口近くで石鹸を販売する分にはあまり手間はかからないだろうし、何より他でここを利用してくれている女性客が帰りについでに買ってくれることも期待できそうだと云うのだ。


 ならばあの香り付き高級品だけを入り口近くのカウンター奥に展示して販売してみることにした。

 当然ぼったくり価格でだ。

 モリブデンでも娼婦相手に卸してはいるが、その卸値の倍の設定で売ってみる。

 一応店売りもしているが、店売りでも顧客対象は娼婦がほとんどだ。

 しかも、あの香り付きは店売りで金貨で10枚だった筈だから、そのままの金額という訳にはいかないだろうから、王都では思い切って金貨で20枚で販売することにしてみる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る