第61話 増員
翌日は、みんなで朝食を取った後に、いつもの作業場となっている調理場に集まった……が、流石に俺を入れて9人もの人が作業するには狭すぎた。
「ナーシャ、悪いけどダーナと訓練でもしてくれ。
みんな一緒だと、ここは狭い。
ダーナ、ナーシャと一緒に戦闘訓練をしておいてくれ。
俺も有名になりつつあるから、いつ盗賊に襲われないとも限らない」
「分かった、ご主人様?」
「はい、わかりました」
二人が外に出て行っても、まだここには7人も人がいる。
「え~~と、一旦食堂に戻ろうか。カトリーヌは、ここで油を温めて準備を始めてくれ。
残りは俺と一緒に食堂に戻るぞ」
一旦新たに仲間に加わった仲間と、カトリーヌの娘の5人を連れて食堂に戻る。
「え~と、これからのことをここで説明しておこうかと思う」
俺はそう言ってから、みんなの前にポテトチップスを取り出して、4人に少しずつ渡した。
「今渡したのが、ここで作っているポテトチップスだ。
昨日貰い湯をした娼館に一樽あたり金貨1枚の金額で卸している」
「おろしている??」
レンとランの双子は俺の言う言葉を理解していなかったが、マイとユキは金貨1枚と言う金額に驚いている。
「卸すとは、あそこの娼館に売っているということだ」
「え、ご主人様。
これを金貨1枚で売っているのですか」
「ああ、そうだ」
「え~~~」
今更になって驚いているが、話を続ける。
「これを王都に運んで金貨2枚で売るが、最近になって、商業ギルドから、この町でも売ってくれと要望が来たので、増産のために君たちに来てもらった。
これを作るのを手伝ってほしい。
だが、自分たちが作る物を知らないと良いものができないので、今渡したものを食べてみてくれ」
俺はそう言うと、奴隷たちは恐る恐る口にした。
次の瞬間一斉に驚いた顔をして『美味しい~~』って呟いている。
「そうだろう、これは昨日お前らが飲んだお酒によく合うので、ものすごく評判がいいが、これを作るのはものすごく簡単だ。
だから、ここで作っていることも、作り方も秘密にしてほしい」
奴隷たちは一斉に神妙な顔をしている。
「王都では金貨2枚で売っているが、売り先の酒屋では更に儲けを乗せて売っているので、この店先で売る時には金貨4枚で売るつもりだ。
それだけのものだと理解したうえで、次に作り方だが、基本的にはそこのマリアンヌか彼女の母親のカトリーヌの指示に従ってくれればいい。
マリアンヌ、これから彼女たちに芋を洗う処から教えてやってくれ」
「ハイ分かりました、ご主人様」
俺の指示で、マリアンヌは4人を連れて中庭に出て芋を洗う処から彼女たちに説明している。
流石に調理場があそこまで狭いとは思わなかった。
当分は手分けして作業とするしかないが、芋洗いと薄く切る作業は外でもできる。
芋を切る作業に至っては明るい外の方が捗るとも前に聞いた。
彼女たちが慣れれば手分けして作業をしてもらうようになるので、生産量は格段に増えるだろう。
王都でも卸す量の増加を希望していたし、ここでの販売もあるが、流れ作業になる分、問題は無さそうだ。
暫く、マリアンヌの様子を見た後に、ナーシャとダーナを連れて商業ギルドに向かう。
増産の目途が付いたので、販売の報告のためだ。
金貨4枚と言う金額に絶対文句は出るだろうが、そんなの構うこと無い。
何か言って来るようなら、フィットチーネさんを通してギルドの上層部に対応してもらうつもりだ。
お姉さん方もそうしろと言っていたことだし、ギルドの主任と対決に向かう。
商業ギルドに着くと、受付で主任を呼び出してもらい、販売の件を伝える。
俺からの報告を聞いて、彼の表情が固まる。
「え、今何と言いましたか」
「ええ、王都で仕入れている関係もあり、義理を欠く真似はできませんので、だからと言って商業ギルドからの要請も無視はできませんし、それで色々と相談したところ、私に良くしてくださるフィットチーネさんや彼のところの娼館で働いている至宝と呼ばれるお姉さん方から、価格で調整すればとのご意見を頂きました。
その結果、ここでも金貨4枚で売りに出すことにします。
それでも、数は少なく限定的となりますが、毎日一定量は店先での販売をします」
俺がこの町の有力者でもあるフィットチーネさんの名前を出したことで、さらに彼の顔が曇ったが、それ以上何も言ってこない。
「ああ、うちからは数が出せませんので、宣伝はしませんが、果たして売れるのでしょうかね」
「それだけは私にもわかりませんよ」
これで、一連の騒動にも決着が付いたが、そのおかげで新たに4人もの奴隷を抱えることになった。
しかも、その内二人は心の病持ちで、少々面倒ではあるが、まあその辺りも追々考えて行く。
それにしても、ついにコンプリートか。
借金奴隷が来たことで、違法奴隷から犯罪奴隷、それに一般奴隷に借金奴隷とこの国の分類上ではすべての分類に属する奴隷を心ならずに集めてしまった。
まあ、今まで順調に稼いできたお金もほとんど吐き出してしまったので、また稼がないと来年の税金が心配になる。
いざとなったら海水から塩を取り出して捌くという少々危ない橋を渡ることになりそうだが、金策の手はなくはない。
一度自宅に戻り、新たな仲間の様子を見ないといけないので、しばらくは店にいる。
元々が簡単な調理方法なので、直ぐに新たに来た4人も戦力となった。
俺のアドバイスもあり、ランとレンは主に芋洗いやカットだけにすることとして、調理場にはカトリーヌ母娘とマイとユキが担当する。
油を扱うので、できればカトリーヌに調理場を見てもらうつもりだったが、カトリーヌはすぐにマイやユキにも揚げる作業も任せている様だった。
そこで、母娘には新たに、交代ではあるが店番も頼むことにした。
今は俺が店先に出て、時折訪れる客に対応しているが、ポテトチップスの販売を契機に、店先でも王都からの酒を売ることにした。
そのために、かなりの量を王都から仕入れないといけなくなり、ここが落ち着いたのを確認すると、ナーシャとダーナを連れて王都に仕入れに向かった。
途中、ジンク村に寄って、ガントさんのところで、先日紹介してもらったドワーフたちについてのお礼と、工事について、しばらく保留にすることを伝え、お礼とお詫びをしていく。
当然、樽も仕入れるが、いつも以上に仕入れることになり、帰りにも寄ることを約束して王都に向かう。
本来ならば、ジンク村以外にはあまり寄るつもりもなかったのだが、ポテトチップスの増産の件もあり、全ての村に寄って、ジャガイモと油を仕入れて行く。
本当にアイテムボックス様様だが、ダーナには感謝しかない。
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