第142話 インフルエンザ

 

 商業ギルドに着くと俺はそのままギルド長の部屋に通され、いきなりギルド長と面接が始まった。


「あの、お呼びだったそうですが……」

「ああ、忙しい中すまんな。

 王都のギルドから指名で依頼が来ている」

「指名の依頼ですか。

 て、そもそも冒険者ギルドじゃあるまいし指名依頼って何ですか」

「指名の依頼と言っても、レイさんを直接依頼してきた訳ではないな。

 あ、いや、レイさんの名前もあったか」

「は?」

「ああ、悪い。

 その依頼なんだが、病の治療を頼みたいらしい。

 どこぞから紹介されたようで、モリブデンで病院なんぞというものがあるようだが、そこに病の治療を頼みたいから王都に来てくれというのだ」

「え、しかし私たちは往診なんかしていませんよ。

 治療してほしいのならば病院に来てくださればいくらでもするのに」

「なんでも紹介先が海外の方で、自宅での治療で生き腐れ病を治してもらったとか。

 それを聞いてか頼みたいらしい。

 尤も完全に信用しているわけでもなさそうで、ギルドを通しての依頼となった訳だ」

「厄介そうですね、相手は。

 できれば……」

「ああ、貴族がらみだ。

 詳しくは教えてもらっていないが、とにかく王都の商業ギルドに来てほしいそうだ。

 王都のギルドが絡むので、断れない訳ではないが断るのはかえって厄介になるぞ」


 俺は脅されたので、諦めてすぐに王都に向かうと約束をしてギルドを出た。

 すぐに病院に向かい、今回の件を話し合う。

 そこで俺はあるひらめきを得た。


 共有ボックスを試してみよう。

 王都の店でも確かアイは使えるようになっていたはず。

 気が付かないというリスクはあるが、ダメ元なんだし、手紙を書いて共有ボックスに入れてみた。

 手紙はすぐに無くなったので、共有ボックスの王都との通信については成功したが、それよりも厄介事に巻き込まれたようで、すぐに王都に向かうが、それまでの間で出来るだけの情報を王都の店で調べてもらった。


「さて、そういうことだから王都に行くことになるが二人はどうしようか。

 できればどちらか一人は付いてきてもらいたいのだが」

「では、私が」

 キョウカが名乗り出てくれたので、さっそく彼女を連れていつものメンバーであるダーナとナーシャが一緒にすぐにモリブデンを出た。


 今から向かっても王都には3日後だ。

 どんな病かはわからないけど、生き腐れ病ならばなんとかなるが、それ以外だとこの時間がどう作用するか。

 下手をすると間に合わないとかで、罰せられるかもしれない。

 貴族相手では嫌だな。

 とにかく俺たちは無事に3日後には王都に着いた。

 実は出発前に出した手紙については翌日には返事が来ており、何でも王都の有力貴族のご子息が高熱の下がらない病気になっているだとかでお呼びがかかった。

 完全に治療実績のある生き腐れ病でないので、正直勘弁してほしいとは思ったのだが、とにかく王都のギルドには顔を出すことにしていたので、王都の着くとすぐに商業ギルドに顔を出した。

 ここはオークション以来来ていなかったのだが、俺たちはそのまま王都のギルド長の部屋に通された。

 俺らはいきなりギルド長の部屋に通されて、説明を受けた。

 王都の法衣貴族でもかなり上位貴族の子息の病気の治療依頼だ。


「いきなり治療と言われてもすべてを治せるわけではありませんよ」

「それはわかっている」

「ギルド長が分かっていても……」

「それも大丈夫だ。

 今使いを出しているが、先方にも事情の説明を俺がしよう。

 先方もわかっているはずだ。

 そもそも病気の治療は教会の範疇なのだが、あまり実績が芳しくないのが現状だ。

 そこに、不治の病を治したと噂があれば誰だって飛びつく」

「私たちは往診はしていないんですが……」

「え?なんでも外国では自宅で治療をしたと聞いたと先の貴族から聞いているが」

「どうでもいいですが、さっきから貴族とだけしか聞いていませんがいったいどなたなのですか、患者さんは」

「それも直に分かる。

 貴族というものは弱みをやたらに見せたがらない。

 子供の病気なんかは最たるものだって話していると来たようだ」


 そこから貴族からの遣いという方がいらっしゃったので、俺たちはギルド長と一緒にお屋敷まで連れていかれた。

 途中で、俺が治した『生き腐れ病』は偶々治療法を知っていたからで、全てを治せるわけではないことを説明したが、先方はそれを理解していると言っていた。

 目の前の遣いに来た方だけが分かっていても、肝心の患者さんとその親である貴族の方に理解していただかないと正直困る。


 なんだかんだと話しているうちに王都の貴族街の奥にあるこれまた豪華なお屋敷に連れていかれた。

 なんでもこの国の何とか大臣を務める伯爵だそうで、少なくとも王都では相当有力な方だそうだ。

 そんな人に睨まれたとしたら、俺は逃げるしかないかもしれない。


 俺の心配をよそにいきなり患者が寝ている部屋に通された。

 ベッドには少年が苦しそうにしている。

 それを心配そうに見守っている御夫人もかなりお疲れのご様子だ。


 これはちょっとまずいかもしれない。

 俺はキョウカに患者の様子を見てみるように指示を出す。


「何の病気だと思う。

 診断のスキルを使ってみて」

「はい、ちょっと失礼します」

 キョウカは御夫人に一言断ってから近くで患者を観察し始めた。

「熱病とだけしか……」

 やはり、知識が無いとそうなるか。

 俺は患者のことを先生に聞いてみる。

 先生出番です。

 『どれどれ……』

 下手な茶番はいいからさっさと見てくれ。

 先生の見立てはインフルエンザだと、何でもホンコン何型に近いがちょっと違う。

 でも鳥インフルエンザとも違うからそれほど心配することは無いらしい……でも患者の体力が持てばの話だと。

 と教えてくれたついでに体温まで調べてもらうと41度もあるじゃないですか。

 流石にこれはまずい。

 俺はすぐに、御夫人に説明してから治療を始める。

 まずはご婦人に氷の魔法が使える人を探してもらい、氷を出してもらった。

 それで、布に氷をくるみ首の後ろに宛がい、頭の熱だけは抑えるようにしておく。


 すぐに熱さましの応急措置だけはしたが、やることがたくさんある。

 まずは、アポーのみを潰したものから汁だけを絞り出す。

 それをしばらく彼に与えるように指示を出し、患者のそばで常にいたであろう御夫人を傍からどける。

 これが一苦労だ。

 なにせ、多分自分の子供が心配なのだろうが、インフルエンザを何の対策もなくずっとそばにいるなんて何を考えているんだと言いたい。

 自分も罹患するぞって感じだ。

 ここでご婦人までもが罹患すると治療する患者が増える。

 面倒ごと以外にないが、幸いというか、先生の見立てでは、まだ罹患はしていないが、少しばかり衰弱が始まっておりこのままでは時間の問題だとかで、俺たちをここまで連れてきたお使いの方に事情を説明して、一旦彼女を部屋から出す。


 そこまでして、部屋の空気を入れ替えるために窓を開けてから、俺たちも部屋から出て説明に向かう。

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